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解    説

■判  決: 大阪地裁平成9年8月29日判決

●商  品: 株式(現物、信用・・・他に投資信託、転換社債、ワラント)
●業  者: 和光証券
●違法要素: 過当取引
●認容金額: 1億2377万4480円
●過失相殺: 5割
●掲 載 誌: セレクト6・66頁、精選119頁、判例時報1646号113頁、判例タイムズ970・185頁
●審級関係: 確定 

  【最終準備書面 その1その2その3その4】      

 本判決は、米国判例法として形成されたチャーニングの理論を実質的に正面から受け止め、違法な過当取引とされる要件を示した上で請求を認容した初めてのケースである。従来、一般論として過当取引が違法となる場合のあることを認めたが請求を棄却した判決(東京高裁昭和63年10月20日判決・金商813・24)や、一般的要件を示さず過当取引につき不法行為責任を認めた判決(大阪地裁平成7年7月24日判決・セレクト4・53頁)はあったが、本件は、右の意味で今後の過当取引のリーディングケースとなる判決である。
 本判決は、まず、証券会社の誠実公正義務(証取法49条の2)、不当な勧誘行為や一任勘定取引等の禁止(適合性原則遵守義務、同法50条)、顧客の知識経験及び財産の状況等に照らして不適当と認められる勧誘の禁止(同法54条1項1号)ほか過当取引を禁止している条項等(同法157条、161条、過当取引制限省令1項、投資者本位通達1項(2)4ロ)から、証券会社及びその使用人は、信義則上、当該顧客の知識・経験・投資目的・資金力等に照らして、不適切に多量・頻繁な投資活動に勧誘してはならない義務を負う(いわゆる「過当取引の禁止」)とし、これに違反した場合は、私法上も違法として不法行為を構成するとする。
 そして、違法な過当取引とされる要件は、次の三点であり、これを充足しているか否かは一連の取引の全体を通じて判断するのが妥当であるが、顧客の投資意向等や証券会社の担当者等による勧誘方法等が大きく変動した場合は、その時期を区分して各期間毎に検討するのが妥当だとする。
a 取引の数量・頻度が顧客の投資知識・経験や投資目的あるいは資金の量及び性格に照らして過当であること(過当性の要件−取引の大量性・頻回性、適合性)
b 証券会社等が一連の取引を主導していたこと(コントロール性の要件)
c 証券会社等が顧客の信頼を濫用して自己の利益を図ったこと(悪意性の要件)
 次に、上記要件を、次のように本件の取引に適用した結果、本件は過当取引の要件を充足していると認定した。
a 過当性の要件         大量性・頻回性と適合性とに分けて考察し、前者については、20か月の間に売買代金総合計が約三一三億円、売買回数が776回で、日計商いをはじめとする短期取引が多い上、米国判例では6回を超えると違法とされている資金回転率が年30回以上に及んでいることから大量性・頻回性を認めた。後者についても、乗換え売買による手数料の多さ(原告の投資額の58%、差引損失額の74%)、特段の説明もなしに仕手株を勧誘したこと、原告の信用取引についての正確な知識の欠如、具体的な投資計画の欠如等の理由から、適合性の欠如を認めた。
b コントロール性の要件    原告は、株式等に対する情報収集・分析能力は高くなく、本件のような取引を自発的・自主的判断で実行するのは到底不可能であること、証券会社担当者に銘柄・単価・数量・処分時期等の選定を委ね不平を述べたこともなかったこと等から、本件取引は右担当者が主導して行ったもので、コントロール性の要件を充たしている。
c 悪意性の要件         平成2年度の被告池田支店の委託手数料収入のうち本件取引によるものが約14.7%にものぼっていたこと、担当者の顧客はほとんど原告のみであったこと等からすると、担当者が原告の利益を犠牲にして、自己の業績を上げ、あるいは被告池田支店の収入を得る目的で原告を本件取引に誘致したと推認されるので、悪意性の要件を充たしている。
 以上のところから、本判決は、証券会社の不法行為責任を認め、過失相殺については、原告にも落ち度はあるが、本件取引が早くから本店考査課が注目する程度に常軌を逸していたこと等から原告の落ち度を過大に評価すべきでないとして、過失割合を五割と判断した。
 なお、本判決は、ワラント取引についても、説明義務違反による不法行為の成立を認めている。
 本件自体は、回転率が年30回であり、原告からの手数料収入が一支店の売上高の相当部分を占めていたという極端な事案であるが、本判決がチャーニングの一般法理を認めたことにより、その後、過当取引について不法行為責任を認める判例が相次いで出されるようになった。