大阪地方裁判所 平成四年・第二一八七号 損害賠償請求事件 原告準備書面(一六)補充書   原告  X   被告  和光証券株式会社  右当事者間の頭書事件について、原告は原告準備書面(一六)を後記の通り補充する。 一九九七(平成九)年四月四日   原告訴訟代理人 弁護士  三  木  俊  博 弁護士   櫛田寛一 弁護士   中井洋惠 大阪地方裁判所 第二四民事部  御中 目次 第一、はじめに 三 第二、短期売買等の継続 四 第三、実質的一任売買の継続 六 第四、ワラント取引に見られる一任性と不適合性 一六 第五、おわりに 二一 第一、はじめに  被告は、平成九年一月一七日付準備書面において、本件取引のうち平成二年七月から同三年二月までの分については、それ以前に比較して、@取引回数、取引量が激減した A短期売買が殆どなくなり、保有期間が長くなった B個々の取引で原告の事前注文を得るようになった などとして、取引の過当性も実質的一任売買(口座支配)も消滅したと主張する(同書四四頁)。  それに対し、原告は原告準備書面(一六)において、前掲期間の取引にあっても、@同年七月から九月にかけての間は取引回数・量がさほど減少しておらず(例えば一ヶ月に約三〇回の売買)、やはり頻繁な売買取引が続いていたこと、Aまた、短期売買(短期損切り)も繰り返されていること、B保有期間がそれ以前と比較して若干長くなっているものがあるのは、A課長の取引手法が変更されたからではなく、単に、当時、株式市場が冷え込んだために同課長の売却・仕切処分が遅れたことに起因するにすぎないこと、C原告とA課長との実質的一任売買の関係に変化は生じていないこと を指摘して反論した。  本書においては、この反論につき以下の通り補充する。 第二、短期売買等の継続 一、被告は、前述の通り保有期間が長期化したと主張する。しかし、平成二年七月から翌三年二月までの分の保有期間は本書末尾添付「現物取引」「信用取引」各一覧表(当事者間に争いのない事実)の右端欄外に手書き記入した日数の通りである。  両表を見れば明らかなように、現物取引では例えば六月二八日購入の東日本ハウス株は七月一三日、同一八日に売却されたのであり、その保有期間は一五日間もしくは二〇日間である。また、森ゼンマイ株は七月三日購入分が七月一六日売却と一三日間の保有、七月九日購入分は七月一三日売却と四日間の保有等となっている。なお、短期売買の方が一般的な投資手法と言いうるワラント証券の売買について見れば、具体的には三菱商事ワラントが七月一九日購入、一二月二〇日及び翌三年一月一一日売却と、却って一五四日もしくは一七六日間も保有してしまっているのである(ちなみに、住友金属ワラントは七月二六日購入八月九日売却と一四日間の保有)。  信用取引の方はと言えば、これも前掲一覧表から明らかなように、例えば、六月二六日に買付けていた任天堂株(但、四六八番)を七月六日に売付決済して一〇日間の保有、六月二九日買付けのフジフィルム株は七月二日売付決済して三日間の保有、また七月二日買付けの蝶理株は七月五日もしくは六日に売付決済して三日ないし四日間の保有、七月五日及び六日買付けの日立工機株は七月一八日売付決済と一二日ないし一三日の保有となっている。このような保有期間の様子であってみれば、平成二年七月一日以降は保有期間が長期化したと言えないことは明らかであろう。 (本書末尾添付の両一覧表−右端欄外に保有期間手書き記入済−は、甲B二一・保有期間調査結果の基礎データとして裁判所及び被告訴訟代理人へ提出済のものの抜粋。そのうち平成二年七月〜同三年二月分のものである。今般、念の為、この基礎データを甲B二四として提出する) 二、本件取引においては被告会社の収入となった手数料等(手数料+金利収入)は、総額金一億六五七一万二二〇〇円であり、信用取引分が金一億二八六八万七〇二〇円、現物取引分が三七〇二万五一八〇円である。そして、そのうち平成二年七月〜同三年二月分を抽出すると、本書末尾添付両一覧表下欄外手書き記入の通りであり、それを集約すれば、 信用取引分 一七、〇三四、五三三円 現物取引分  五、四三〇、一二一円    合計 二二、四六四、六五四円 であって、全手数料等の一三・五六%を占める。被告会社はこの期間においても、多額にのぼる金額・割合の手数料等の収入を取得し続けていたのである。 第三、実質的一任売買の継続 一、原告日記帳記載から判明すること 1、はじめに  被告は、平成九年一月一七日付準備書面において、平成二年七月以降は個々の取引について原告の事前注文を得るようになったとか(四四頁)、原告所有の株式・信用取引による建株の時価も下がり評価損が拡大していることを正確に認識し承認していた、そのことは原告の日記帳記載から明らかである旨(二五頁)を主張する。  しかし、原告の日記帳のうち、七月一日から九月末までの分を精査して見ると、却って次のような事実が明らかである。なお、証拠として、乙二八の二、三の当該日付部分、および「取引内容」と「日記帳の取引に関する部分の抜粋」を対比した甲B二〇・日記帳調べの当該日付部分を参照されたい。 2、記載あるものの殆どが事後報告  7/2、3、13、26、31、8/31、9/4、21に取引内容に関する記載があるが、いずれも売買が行われた「結果の報告」の記載であり、そこには株式の売買に先立って、A課長が原告に連絡をとったこと、その推奨する株式の情報等を原告に提供したことや購入または売却(買建てまたは決済)の適否、またその金額、数量などを相談・協議したことなどを示す記載は全くない。  但し、9/21分にのみ「損切りの話しあり」との記載がある。これは、事前に連絡があったかのようにもとりうるものの、この記載だけでは事前の話か事後の話かは定かでない(なお、この他に現在の建て株の記載が7/6、27、9/18、28にある)。 3、原告自身の投資判断に関する記載がない  しかも、原告自身がその購入等にかかる株式等について、その適否を検討・判断したことを示す記載が全くない。  前記2、3の指摘に関連して、原告がA課長の連絡・推奨内容や原告自身の検討・判断内容は敢えて記載せず、日記帳には売買結果のみを記載していたのではないかと考える向きがあるかもしれない。しかし、原告日記帳の他の事項に関する記載を見ると、例えば、乙二八の二の冒頭記載である7/1分についても、出来事の内容、パチンコの結果、DCカードが送られてきたが不要であるとの「感想」、食事の内容など細々と書き記されている。他の日も同様である。従って、証券取引についても、A課長の連絡や推奨があればその内容、自ら検討・判断すればその内容を書き記したはずであると考えられる。証券取引に関してのみ、結果記載となっているのは、結果だけが連絡され、事前連絡や推奨が殆どなかったか、甚だ簡単なものでしかなかったからと理解するのが自然である。 4、事後報告自体もなおざり  さらに、事後の結果報告ですら、原告の全取引の一部について実行されていたにすぎない。  すなわち、平成二年七月以降も原告の取引は多数回行われていたにもかかわらず、報告が記載されているのは、前記2に指摘した日だけである。  例えば、平成二年(一九九〇年)七月六日には、信用取引において任天堂株、大林組株、ソニー株につき売決済が行われ、計九、四四一、七二一円の損失を計上したのであるが、それに関する記載は全く見当たらない。また、同月一四日〜二五日まで、現物取引では森ゼンマイ株・東日本ハウス株・日立工機株の売却、天辻鋼珠株・靴のマルトミ株・三菱商事ワラント・ドイツ銀行株の購入、信用取引では日軽金株・日輝株の買建て、日立工機株・日軽金株の売決済が行なわれているのに、これらについても全く記載がない。八月に至っては、複数の取引が行なわれているのに、たった一回(8/31・アルパイン株)しか記載がない。  また、結果報告が記載されている部分でも、ワラントについては全く記載がない(七月一九日、二六日、八月九日)。  (なお、取引の期日・内容につき、本書末尾添付一覧表及び甲B二〇・日記帳調べ参照)。  これらの記載(あるいは不記載)態様は、事後報告すら行なわれていないことが多かったことを示すものである。 5、平成二年一〇月以降の記載との対比  前記の通り日記帳に取引内容の記載が少ないのは、原告がその一部しか書き記さなかったからであると考える向きがあるかも知れない。  しかし、この点について注目すべきは、平成二年一〇月以降の記載頻度・内容との対比である。  同月以降は、ほとんど取引がないにもかかわらず、頻繁に報告が行なわれていた旨の記載があり(10/8、11、15、16、17、19、20、22、23、25、26、11/1、6、8、9、13、16、17、21、22、27)、かつ原告自身の取引に対する感想も記載されている(例えば、10/25、11/1、8、21、26)。  このような一〇月以降の記載頻度と内容に照らせば、多数回の取引が行なわれた同年九月末以前(七月〜九月)にあっては、もっと多数回の記載があっても当然と言えるのに、前述の通り記載が随分少ないのである。これは甚だ不自然であって、やはりA課長が取引の一部しか報告していなかったことの証左と言うべきである。 6、小括  前記2〜5で指摘したことから、平成二年七月一日から同九月末日までの期間において、A課長が事前に連絡したことは全く、もしくは殆どなく、ましてや原告に情報を提供し、相談・協議したこともない、事後報告すらその一部にとどまることが明らかである。従って、被告主張のように、個々の取引について原告の事前注文を得るようになったことはなく、原告が一部の個別取引に関してはともかく、自分に帰属する全ての取引の内容(換言すれば既往取引と現存取引を含む累積状況あるいは「全容」−特に、本件取引の最大の特徴である損失の大半が「手数料損」であることを含めて)を正確に認識・認容していたなどということもあり得ないのである。原告日記帳の記載をもって、この点が明らかであるとする被告主張は、失当と言わねばならない。 二、本件取引の変化は一〇月以降であること 1、本件取引が変化したのは平成二年一〇月に入ってからである。  被告は、本件取引を平成二年六月以前と七月以降とで区分して、両者が質的に異なるものと主張する。  原告は、過当取引の(違法性判断という)視点からは本件取引を期間区分する必要がないと反論するものであるが、これを敢えて区分するとすれば、平成二年九月以前と一〇月以降の区分ならば、その間に相当の差異が生じていると言い得よう。  すなわち、原告が、平成二年一〇月初旬に被告会社に当時の正確な残高を聞き質したところ、一億六千万円とのことであり、それは原告にとって思いも寄らない少額の数字であったことから、多額の損失が発生していることが判明した。それゆえ、「がっかりして何もする気がしない」程驚き落胆し、被告会社に不信感を抱き始めたのであった(甲B二〇・日記帳調べ)。  そのことを察知した須賀田支店長とA課長は一〇月八日に(月)に原告宅を訪問して、原告に取引明細書(乙一三−六)に署名捺印させ、次いで九日(火)、一二日(金)には日証金からの借入金を返済してしまい、翌一三日(土)には原告を有馬温泉へ誘い出して懐柔を試みたのである。  なお、乙一三−六(一〇月八日付)取引明細確認書は、乙一三−三(三月一二日付)と共に、他の四通の取引明細確認書が本社営業考査部からのアテンション通知を受けて原告に署名捺印を求めたものであるのに対し、アテンション通知なく池田支店独自の判断で、原告の署名捺印を求めたものである。しかも、他五通の取引明細確認書は原告が同支店へ来店した際にその署名捺印を求めたものであるのに対し、乙一三−六・同書のみ須賀田支店長とA課長の方から原告宅へ出向いて署名捺印を求めたものである。  また、日証金からの借入金の返済はその翌日の一〇月九日(火)及び同週の一二日(金)であり、その手配もまたA課長が一存で実行したのであった。  被告会社が急遽、原告から取引明細確認書を取付け、日証金からの借入金を返済したのは、被告会社において、原告が一〇月初旬に至って多額の損失が生じていることを知り同社に対して不信感を抱き始めたことを察知した上でのクレーム抑止・企業防衛上の対処策としてなのである。  このようなことに照らせば、平成二年一〇月上〜中旬を境として、原告とA課長=被告会社との信頼関係は弱まったと言えよう。  原告準備書面(一六)及び本補充書で論証したように、本件取引のうち、平成二年七月〜九月までの間は、それ以前と同様、大量・頻繁な売買取引、短期売買等不合理な取引方法が、原告のA課長と被告会社への厚い信頼関係の下で(それゆえに実質的一任売買の態様で)実行された。ところが、一〇月上〜中旬以降は本件取引の基礎となっていたとも言うべき原被告間の信頼関係が、消失したとまでは言えないが、極めて弱くなり、取引量も減少したのである。確かに、同二年一〇月以降、新規に購入または買建てしているのは、次の通りであり、それ以前に比較して新規購入・買建は極めて少なくなるに至っている。 (現物)一〇月  上野メタリックス 一〇〇〇株     一一月  なし     一二月  島精機      二〇〇〇株  平成三年一月   〃       一〇〇〇株      二月  日光堂      二〇〇〇株          池田銀行     一〇〇〇株 (信用)一二月  三井造船     七万七〇〇〇株 2、とは言え、一〇月以降に損失が現実化しているについては、九月以前に購入(買建てた)株式を処分したことによるものであって、右記した売買取引では利益を計上しこそすれ、損失は発生していない(本書末尾添付一覧表参照)。  従って、本件損害を発生させた原因行為は、その殆どが平成二年九月末日までの売買取引に関する投資勧誘・業務行為であって、同年一〇月以降の前同行為は本件損害の発生に何ら寄与していない(却って利益によって本件損害を減少させている)。 第四、ワラント取引に見られる一任性と不適合性 一、はじめに  被告は、平成二年七月以降は、原告の投資意向に適合した売買取引を行なった旨主張するが、そうでなかったことはこの時期のワラント取引の態様を見れば一目瞭然である。この点は、原告準備書面(一六)二七頁以下で反論したところであるが、本書において次の通り右反論を補充する。  なお、ここで問題とするワラント取引は平成二年七月一九日購入の三菱商事ワラントと同月二六日購入の住友金属ワラントの二銘柄の取引である。そこで、本書においてはこの両ワラント取引を「本件ワラント取引」と呼称する。 二、本件ワラント取引の一任性(実質的一任売買性)  ワラント証券は投機性が強くかつ行使期限が到来すると経済的に無価値となり、それまでの間も値動きが激しく、プレミアム部分の存在で株価と連動せず、株価を毎日見ていてもワラントの値動きがまったくわからず、しかもワラントの価格が毎日の新聞等で公表されない。しかも証券会社が売買当事者となる相対取引である等の特殊な事情から、ワラント証券は、証券会社において、その仕組みと危険性と投資判断の要点の説明を尽くして顧客に十分理解させる義務を負っていた証券取引である。  A課長が本件ワラント取引に当たって原告に何らの説明も行なわなかったことは同課長自身も認めるところであり(A七・六・一六調書三四〜三六丁)、前章で指摘した通り原告日記帳に本件ワラント取引に関して何らの記載がないことからも明らかである。  無断売買もしくは実質的一任売買の態様の下、A課長の一存で本件ワラント取引が行なわれたのである。 三、本件ワラント取引の不適合性 1、三菱商事ドル建ワラント ・ 買付日が平成二年七月一八日で、ワラント数が三四〇ワラントという過大な量であった。 ・ 三菱商事ワラントの一ワラントあたりの行使価格が一三一七円であり、行使株数が約五〇五株であることから、一ワラントの行使代金が六六五、二五〇円になる。このようなワラントを一七ポイントで買い付けたのである。五〇〇〇ドルの額面に当時の為替レート一四七.六〇円をかけて〇.一七をかけると一ワラントあたりの買付代金一二五、五四五円が出てくる。この一ワラントあたりの買付代金に三四〇ワラントかけると購入代金が四二、六八五、三〇〇円となるのであるが、一株あたりのワラント買いコストが一ワラントあたりの買付代金である一二五、五四五円を行使株数である約五〇五株で割ると約二四八円かかるので、ワラントを買い付けた上でワラントを行使する全体のコストが行使コスト一三一七円に二四八円を合わせた一五六五円かかるのである。ところで株価がこの当時一五六〇円ということであったので、ワラントをあえて買うほどのメリットはなかったのである。そればかりか、当時日経平均株価も下降しており格別三菱商事の株価が上がると言う見通しもなかったのであるから、三四〇ワラントもの大量のワラントを買い付けさせる意味はない。むしろ大変な冒険であった。 ・ 売却日平成二年一二月二〇日に、二〇〇ワラント(一四.一四ポイント、一四.四一 ポイント)、平成三年一月一一日に一四〇ワラント(一二.八七ポイント)で、ここでは 大きくポイントを下げている。被告はワラント価格について下落していることを知りながら放置して原告に損害を与えたものである。 2、住友金属円建ワラント ・ このワラントは国内ワラントであるが、相対取引でないと言う部分以外基本的に仕組みと危険性はドル建ワラントの場合と同一である。 ・ 買付日が平成二年七月二六日で、ワラント数が一〇ワラントという量であった。 ・ 住友金属のワラントの一ワラントあたりの行使価格が五八〇円であり、行使株数が、約一七二四株であることから、一ワラントの行使代金は一〇〇万円になる。このようなワラントを一五.六〇ポイントで買い付けたのである。一〇〇万円の額面に〇.一六五六をかけると、一ワラントあたりの買付代金一五六、〇〇〇円が出てくる。この一ワラントあたりの買付代金に一〇ワラントかけると購入代金が一五六万円となるのであるが、一株あたりのワラント買いコストが一ワラントあたりの買付代金である一五六、〇〇〇円を行使株数である一七二四株で割ると約九〇円かかるので、ワラントを買い付けた上でワラントを行使する全体のコストが、行使コスト五八〇円に九〇円を合わせた六七〇円かかるのである。ところで株価がこの当時五五九円ということであったので、ワラントを買付けて行使するより、市場で五五九円で株を買いつける方がリスクの面でも、コストの面でも割安である。その意味で無謀な取引と言えるのである。 ・ 売却日平成二年八月九日に、一〇ワラント(一三.九〇ポイント)で、ここでは大きくポイントを下げて損を出している。 3、小括  本件ワラント取引が、このように無謀なワラント取引であってみれば、到底、原告の投資意向に適合したものとは言えないことは明らかである(以上につき甲B二五・ワラント取引分析表)。 四、まとめ  A課長=被告会社が平成二年七月に入ってからも、実質的一任売買の態様の下で、原告の投資意向に適合しない売買取引を継続・反復していたことは、本件ワラント取引の実態からも容易に認め得るのである。 第五、おわりに  以上の次第で、本件取引を平成二年六月以前と七月以降とに質的に区分しようとする被告主張は、いずれの点からしても失当たるを免れない。  ところで、本件損害の大半は本件取引の「売買損」によるものではない。その七割五分、金額にして一億六五七一万円余が被告会社の「手数料損」によるものなのである。  本件事件は、A課長らにおいて原告の利益を図るべく証券の売買取引を実行したが、不運にも証券価値の下落によって原告に損失が発生してしまったという事件ではない。自らの手数料等の収入獲得を優先させた結果、それを原告の損失=負担によって果たし得たという事件なのである。そうでなくては、わずか一年八ヶ月=二〇ヶ月の間に(あるいは平成二年九月末までの一五ヶ月間に)、その投資金の七割五分もが被告会社の手数料等の収入に帰するはずがない。  ここに本件事件の本質がある。  最後に、裁判所におかれては、是非、この本質を看破されて、公正妥当な判決を下されるよう特に要望しておきたい。