大阪地方裁判所 平成四年・第二一八七号 損害賠償請求事件 原告準備書面(一四) 原告  X 被告  和光証券株式会社  右当事者間の頭書事件について、原告は後記の通り弁論を準備する。 一九九六(平成八)年一二月一七日   原告訴訟代理人 弁護士  三  木  俊  博 弁護士   櫛田寛一 弁護士   中井洋惠 大阪地方裁判所 第二四民事部  御中 目次 第一、はじめに−本件事件の三つの特徴 三 第二、本件取引の事実関係−本件取引の異常性(不合理性)に絞って 九 第三、本件取引の違法性−過当取引、及びワラント取引での違法行為 二六 記 第一、はじめに−本件事件の三つの特徴 一、本件事件には三つの特徴がある。  すなわち、第一に、本件取引は平成元年七月二五日の信用取引の開始を始期とし、同三年二月二五日の保有現物株(島精機、日光堂)の売却を終期とするものであるが、それ以前における原告は、当事者間に争いのない「現物取引一覧表」一〜三頁、「X氏の売買推移グラフその(1)・株式現物取引(1)」や「預り資産内訳(一)・平成元年七月二六日現在」が示す通り、昭和四三年一一月のキリンビールにはじまり、平成元年七月まで三〇年間にわたって奥村組、松下電器産業、三井物産、東京海上と言った著名な優良企業の株式を一千株ずつ購入し、合計三四銘柄の株式を買い貯めて来たという手堅い投資経験と投資意向をもつ一般投資者であったことである。なお、そのような投資経験と意向の者であったことは被告も認めるところである(答弁書第二、二、1)。もとより株式信用取引の経験はない。  第二に、そのような原告の投資経験と意向に比較して、前記期間、すなわちわずか一年八ヶ月=二〇ヶ月間における本件取引は、原告の全証券資産を信用取引に投入すると共に、信用・現物両取引合計で一四三銘柄を八種類の市場を通して売買し、その売買回数が計七七六回・月平均三九回にものぼる頻繁な売買となっている上、極めて短い保有期間で休みなく買っては売り、売っては買うという乗替え売買でもあるという、甚だ過当な取引内容となっていることである。その結果、原告は二億二三五四万円余の損失を蒙ったのであるが、そのうち一億六五七一万円余が被告会社の手数料等であり、被告会社は原告からその損失額の約七割五分をも手数料等の収入として獲得しているのである。  第三に、そのような本件取引が、原告の被告会社とA課長への信頼を背景に、終始、同課長による実質的一任売買の態様で遂行されたことである。  その端的なあらわれとして、売買する銘柄・単価・数量は全てA課長が選定し原告を誘導していた、原告がそれを断わったことは一度もなかった、実質的投資判断は同課長が行なっていたと認める同課長の法廷証言(A六・一一・一一調書二七・二八丁、同七・三・一七調書、同七・六・一六調書二三、四丁)と、新種で危険性の高い特殊な証券である(外貨建)ワラント証券を何ら原告に説明することなく、同課長が売買していたこと(A七・六・一六調書三四〜三六丁)を指摘することが出来る。  なお、原告は三〇年にもわたる長年の取引を通じて被告会社に信頼を寄せ、妻D子死亡時に同女の資産を誠実に処理したことによってA課長をも強く信頼するようになっていたのであるが(A七・一一・一一調書二七・二八丁、須賀田八・四・一七調書三三丁)、このような原告の信頼は、盲目的な、あるいは法的保護に値しない一人よがりの信頼にすぎないのではない。それどころか、被告会社とA課長が証券取引法に基づいて顧客に誠実公正義務(第四九条の二)や適合性原則順守義務(第五四条一号)を負う事業者とその従業員であり登録外務員であることに照らして、また、証券売買の委(受)託に関する継続的取引関係にあることから、委託者に対して善管注意義務(民法第六四四条)を負っていることに照らしても、極めて正当な信頼であって、当然、法的保護に値するものである。 二、このように、本件事件は、証券取引の専門事業者である被告会社(具体的にはその従業員であるA課長)が顧客たる原告に対して誠実公正義務・適合性原則順守義務、善管注意義務を負っているにもかかわらず、逆に、原告の信頼に乗じ、実質的一任売買の態様の下、その数量・回数等において原告の投資経験と投資意向に適合しない、著しく過当な取引を主導し、その結果、自らがそのうち一億六五七一万円余の収入を獲得する一方、原告に二億二三五四万円余もの多額の損害を与え、原告の老後生活の安定を危機に陥入れた極めて悪質な違法行為事件なのである。  改めて言うまでもないが、法律行為の委(受)託にあたっては、受託者は「善良な管理者の注意」をもってその委(受)託業務を処理しなければならない(民法第六四四条)。  しかも、この委(受)託事務処理のための善管注意義務は、「受託(任)者が、専門的な知識・経験を基礎として、素人から当該事務の委託を引受けることを営業としている場合、とりわけ当該業務を営業とすることが何らかの形式で公認されている場合には」「受託(任)者の注意義務は当該事務についての周到な専門家を標準とする高い程度となる」のみならず、「委託(任)者が事務を処理する方法について指示を与えたときは、受託(任)者は一応これに従うべきであるが、その指示の不適当なことを発見したときは、直ちに委託(任)者に通知して指示の変更を求める」ことまでをも必要とする高い程度のものとなる(我妻栄「民法講義」債権各論中巻「委任」)。  被告会社はまさに証券取引の専門事業者としての知識・経験を基礎として、素人である一般投資者から証券売買の委託を受けることを営業としており、かつその業務を営業とすることを免許という形で国家から公認されているのであるから、その委託事務の処理にあたっては、前記した「周到な専門家を標準とする高度の善管注意義務」が要請されていることは明らかである。 なお、この善管注意義務は、顧客の証券売買委託の執行段階においてのみ要請されるのではなく、同委託の勧誘(換言すれば投資勧誘、購入勧誘)の段階においても要請されている。同勧誘もまた、公認された専門事業者としての証券会社によって行なわれており、一般投資者において「証券評価が複雑なものであって」「独力で適切な評価をなるのは極めて困難」であることから「豊富な情報と経験及び的確な分析能力を有する証券会社及びその従業員を信頼してその判断に頼り勝ち」となっている(判タ八七二号二四八頁 大阪高裁第二民事部平成六年二月一八日判決参照)、すなわち、証券会社の投資勧誘を信頼し依存して証券売買を行なっている実情にあることから、証券売買委託の勧誘の段階においても妥当すると解しなければ有名無実なことに帰するからである(神崎克郎「証券取引規制の研究」一七八頁)。 三、そこで、以下、本件審理を総括し、大略、本件事実関係、本件取引の違法性、結語(おわりに)に章を分って、被告会社が民法第四一五条債務不履行もしくは同七〇九条不法行為によって原告の損害を賠償しなければならないことを論証するものである。  そのうち、本書においては、まず本件事実関係の主要部分と本件取引の違法性の総論的部分を論述し、その余は次回準備書面にて提出することとしたい。 第二、本件取引の事実関係 本件取引の異常性(不合理性)に絞って 一、はじめに  本件取引には、@その対象となった銘柄・市場が極めて多種多様であること、Aしかも、その中にはいわゆる「仕手株」が多数含まれていること、Bその売買回数・数量が極めて多数かつ大量であること、C現株及び(信用)建株の保有期間が極めて短いこと、D投資資金の回転率が極めて高いこと、E被告会社の収入となった売買手数料等の損害額に占める割合が極めて高率であること(損害額の殆どが手数料等に消えていること)、Fしかも、その原告一人からの手数料収入等が担当営業社員A課長が獲得した(顧客からの)手数料収入等の殆ど全部であり、かつ当時の被告会社池田支店の収入の七分の一を占めていること など、「異常」と評しうる際立った特徴(問題点)がある。  本件取引においては、原告はもとより、大多数の一般投資者には到底適合し得ない不合理な取引方法が採られていたことが明らかである。  以下、項を分けて詳述する。 二、対象銘柄・市場が極めて多種多様であること (一) 本件取引において、その対象となった株式銘柄は甲B一二−一・現物取引銘柄調査、同−二・信用取引銘柄調査が示す通りであり、その数は、現物取引で八七銘柄、信用取引で七二銘柄であり、両取引を通算し、かつ重複を除外とすると合計一四三銘柄である。そのうち、東京証券取引所に上場されているものは一一五銘柄であるが、それらの業種は甲B一三・売買銘柄業種分布調査が示す通り、上場二七業種中二一業種に及んでいる。  また、利用した市場は、甲B一一・売買市場調査票が示す通り、東京・大阪両証券取引所の一部、二部(計四種類)だけでなく、大阪証券取引所新二部、名古屋証券取引所二部、外国株市場、店頭市場の計八種類の市場にわたっている。  なお、その対象となった証券の種類も、株式や投資信託だけでなく、国債、金融債、(転換)社債、外国株式そしてワラント証券等(分類の仕方によればもっと増えるのであろうが、少なくとも)七種類に及んでいる。 (二) このように本件取引は、一四三銘柄(業種では二一業種以上)の株式を八種類の市場で売買した他、投資信託や債券さらにはワラント証券にまで及ぶ極めて多種多様な証券の購入・売却を平成元年七月から同三年二月までの、わずか一年八ヶ月=二〇ヶ月の間に繰り広げたという内容となっている。  そもそも、平成元年七月二五日から信用取引を開始する以前において、原告は昭和三〇年代より長年にわたって三四銘柄の株式を買い貯めて来たが、それらの銘柄は甲B一一・売買市場調査表中「平成元年六月以前の取引」が示す通り、一銘柄を除き証券取引所一部上場の大企業の株式ばかりである(但、岡本工作機械だけが異なるが、それとて二部上場銘柄である)。本件取引は、その多種多様性において、本件取引以前のものと著しく異なった様相を呈していることが明らかである。 三、「仕手株」が多数含まれていること (一) 本件取引、とりわけ初期において「東京日産販売」「三洋化成」「ナイガイ」株などが大量に売買されているが、これらはいずれも、いわゆる「仕手株」であり、しかも被告会社が当該仕手筋の機関店として関与していた銘柄である。  すなわち、東京日産販売株、三洋化成株、ナイガイ株は甲B一五−一〜三・新聞記事抜粋が「東京日産を六月から継続買いしているA自動車(麻布自動車)は一〇月に総仕上げに動くとの噂」、「三洋化成=和光(証券)の強引な攻めに最高値を一気に更新した」「三洋化成はここからが本番になりそうだ。仕手法人A(麻布自動車)は二五〇〇円程度までは買い上がると言われ、まだまだ回転がきく水準と」「三洋化成はここひと押し入れているが、目先筋の投げ物を本尊のA自動車が(前出)がことごとく拾っており、再度の噴き上げへタイミングを計っている」「三洋化成には大手不動産会社(麻布建物)の玉集めが言われているが、六〇〇万株を上回る名義書換に進んだ模様」、「ナイガイは和光(証券)と三洋(証券)が買ハナを切ったことで、三洋化成を手掛けた筋の介入が言われている本尊は麻布自動車という」などと報道しているように、本件取引の当時、麻布自動車、麻布建物=(その社長が)渡辺喜太郎という仕手筋が介入している株式であった。しかもその仕手筋は、被告会社(和光証券)と組んで市場に介入していたのであり(甲A一〇−二・雑誌記事「逮捕された和光証券マンの全告白「私が目撃したトバシ・株価操作」)、A課長も「機関店であったかどうかは分りませんけど、そういう市場のうわさというのは聞いたことあります」と認めるところである(A七・三・一七調書二七〜三〇丁)。  本件取引の対象となった全ての銘柄につき、当時それに仕手筋が介入していたかどうか調査し切ることは、仕手筋介入が隠密裡に行なわれるという事の性質上、不可能であるが、本件取引の初期分だけを取り出してみても、以上三銘柄の仕手株性は歴然としており、本件取引全体の中に、他にも多数の仕手株が存在することは容易に推測される。 (二) 仕手株は、そもそも仕手筋の介入による作為的な株価操作が証券取引の公正さを破壊するものであることに加え、非常に不安定で高度な危険性を具有するに至っている状態にある株式であり、証券会社が一般投資者にその購入を勧誘することは甚だ危険で不合理な投資勧誘であると言える(甲A一三−一・神崎克郎神大教授「自己責任原則と投資者保護のバランス」参照)。のみならず、そのような株価は仕手筋の介入=株価操作によって形成された株価、すなわち作為的相場価格なのであって、一般投資者がそのような仕手株を購入すれば、その作為的相場の更なる形成に寄与することともなる。従って、証券会社は一般投資者に仕手株の購入を勧誘することが許されない(大蔵省健全性省令第二条三項、証券従業員規則第九条三項七号 参照)。  この点については、山一証券の営業社員が仕手株である本州製紙株を一般投資者に購入させたという本件事件と同質の事件に関し、大阪高裁第二民事部平成六年二月一八日判決(判タ八七二号六頁以下)が、「佃(補注 営業社員名)は、本州製紙株の価格の暴騰が仕手戦によって形成されたものであり、仕手グループが売抜けを図れば直ちに暴落することが予想される等既に本州製紙株の相場が作為的相場になっており、更に控訴人がこれを購入すれば、作為的相場の更なる形成に幾ばくかの寄与をする結果になることを知りながら、控訴人に対し、本州製紙株を購入することを強く勧めたものである」(中略)「以上によれば、控訴人に本州製紙の購入を勧めた佃の行為及び佃をして右行為をなさしめた被控訴人山村の行為は、証券取引法、前記大蔵省令、前記公正慣習規則に違反するものであり」、「しかも加藤・グループの相場操縦に便乗して利益を上げようとした証券会社従業員としてあるまじき行為であ(る)」としていることが参考となる。  なお、同判決は仕手株推奨の違法性を摘示した点で有意義な判決であるが、敢えて言えば判例タイムズ誌のコメントのように「そもそも大手証券会社として仕手株を勧めること自体の違法性が問われるべきであった」と言えよう(前同二四六頁)。このコメントの指摘は、証券取引法の趣旨・目的と証券会社の責務・誠実公正義務を正確に見据えた上でのものとして、極めて的確である。 (三) 本件取引には、一般投資者たる原告にとって、甚だ危険で不合理な仕手株が多数含まれているのである。 四、売買回数・数量が極めて多数かつ大量であること。 (一) 本件取引において、売買回数は当事者間に争いのない「信用取引総括表」「現物取引総括表」によると、注文回数ベースで、平成元年六月から同三年三月までの間に @ 信用取引の場合 買 二三四回 売 二三〇回 合計 四六四回 A 現物取引の場合 買 一一八回 売 一九四回 合計 三一二回 B @A合計 買 三五二回 売 四二四回 合計 七七六回 である。但し、当事者間に争いのない「信用取引一覧表」「現物取引一覧表」から歴然としているが、始期の点において、信用取引は平成元年七月二五日から開始されたのであり、現物取引においても平成元年六月には売買がなかったこと、また終期の点で信用取引は平成三年二月一九日が最終売買日であり、現物取引も同年二月二五日が最終売買日であるから、前記売買回数は平成元年七月二五日から同三年二月二五日までの一年八ヶ月(=二〇ヶ月)間の集計数字であると言える。  そこで、本件取引の期間を二〇ヶ月として、売買回数を年平均・月平均等で計算してみると、 年平均 五一七・三回 月平均  三八・八回(二〇ヶ月) 週平均   八・六回(九〇週) 日平均  一・二八回(六〇八日) となり、二日に約三回、一週間に約九回、一ヶ月に約三九回という極めて多数回の売買取引が行なわれたことが明らかである。なお、この数字は売買取引が行なわれない土・日・休日をも含んでの単純平均であって、それらを除外すれば、この数字はさらに大きなものとなることに留意する必要がある。 (二) また、本件取引を売買金額の点から考察すると、これも「信用取引一覧表」「現物取引一覧表」から歴然としている通り、 @ 信用取引の場合 買 一二六億七五七三万七〇〇〇円 売 一二三億二五五五万〇〇〇〇円 合計 二五〇億 一二八万七〇〇〇円 A 現物取引の場合 買  二九億四三六六万九七七七円 売  三四億三七二二万七七四五円 合計  六三億八〇八九万七五二二円 B @A合計 買 一五六億一九四〇万六七七七円 売 一五七億六二七七万七七四五円 総合計 三一三億八二一八万四五二二円 となる。 (三) このように、本件取引では一年八ヶ月(=二〇ヶ月)間に総合計で三一三億八二一八万円余という一般投資者の原告にとって膨大な金額、すなわち大量の売買取引が行なわれ、しかも二〇ヶ月に七七六回、それを一年間に引き直すと約五一七回、すなわち一週間に約九回、一ヶ月に約三九回以上もの極めて頻繁な売買が行なわれたのである。 五、現株及び信用建株の建株の保有期間が極めて短いこと (一) 「信用取引一覧表」「現物取引一覧表」に基づいて本件取引(平成元年七月二五日〜同三年二月二五日)の全件数七九九件につき(信用五二七件、現物二七二件)、買付(あるいは売付)た時からそれを売付(あるいは買付)た時までの「保有期間」を調査すれば、次の通りの結果となる(甲X二一・保有期間調査結果)。 日計り(〇日) 一〇一件(全件数の一二・六%) 一〜四日 二三九件(同二九・九%) 五〜九日 一六九件(同二一・三%) 一〇〜一九日 一三一件(同一六・四%) 二〇〜二九日  四〇件(同五・〇%) 三〇〜五九日  七七件(同九・六%) 六〇〜八九日  一〇件(同一・三%) 九〇〜一七九日  二四件(同三・〇%) 六ヶ月以上   二件(同〇・三%) ノーカウント   六件(同〇・八%) (二) 日計りが全件数の一二・六%、一〇日未満が全件数の六三・七%、三〇日(≒一ヶ月)未満が全件数の八五・一%をも占めている。極めて短期間しか保有していない売買取引が圧倒的多数である。 六、投資資金の回転率が極めて高いこと (一) 「資金回転率」は、「売買回転率」「年次回転率」とも言われる。それは、対象となる一連の証券取引において投資者の投資資金が何回転したかを見るものであって、買付金額合計を当該投資者の投資金額で除して算出する。その投資金額には、当該取引の毎月末の投資残高の平均値を採用する(甲A二・小島芳樹「日米における証券過当売買規制の相違」、甲A一・山下友信「証券会社の投資勧誘」、甲A一一−一・今川嘉文「証券の過当取引における民事救済の実現」、甲A一一−二・同「証券の過当取引に対する米国の法理と我が国への適用」参照)。 (二) 当事者間に争いのない「X氏総合取引表」(原告準備書面(一)末尾添付)に基づいて(※)、本件取引の資金回転率を計算してみると、甲X二〇・X・資金回転率計算表 の通り、回転率は約三三・六回である。すなわち、本件取引において原告の投資金額は一年間に引き直して三三・六回もグルグルと回転したこととなるのである。 (※ 同じく当事者間に争いのない「信用取引一覧表」「現物取引一覧表」と同一内容のものである。よって、この両表に基づいて資金回転率を計算しても同じ結果となるはずなので、コンピューター処理の便宜上、「X氏総合取引一覧表」を用いた。なお、とは言え、「信用取引一覧表」「現物取引一覧表」から集計される買付総額(信用+現物)は一五六億一九四〇万六七七七円であって、甲B二〇・X・資金回転率計算表における買付総額一五九億九七四三万九一九三円より約三億八千万円程少ない。そのようになった理由は不明である。その差額が少額であるので、本件取引の資金回転率に左程の影響を与えないが、為念、買付総額に前者の金額を使用して改めて計算してみると次の通りとなる。 15,619,406,777÷285,429,980×12÷20=32.833 すなわち、その資金回転率は三二・八回となる。いずれにせよ、原告の投資金が一年間に三〇回以上も回転したことは明らかである。) 七、極めて高額・高率の手数料 (一) 前述の通り、甲B二〇・X・資金回転率計算表において算出された原告の平均投資金額は二億八五四二万九九八〇円である。  当事者間に争いのない「月別損益一覧」から明らかなように、本件取引の損益結果は @ 信用取引の場合 二億 二九四万五三四八円の損失 A 現物取引の場合   二〇六〇万三六一三円の損失 B @Aの合計 二億二三五四万八九六一円の損失 となっている。  端的に表現すれば、本件取引において、原告は二億八五四二万九九八〇円の資金を投資して、二億二三五四万八九六一円の損失を蒙ったこととなるが、そのうち被告会社に支払った(同社が取得した)手数料等は「信用取引総括表」「現物取引総括表」の示す通り、 @ 信用取引の場合 イ、手数料(消費税控除後) 一億 六三〇万  五〇円 ロ、金利(逆日歩差引後)    二二三八万六九七〇円 A 現物取引の場合 手数料    三七〇二万五一八〇円 B @Aの合計  一億六五七一万二二〇〇円 である。  従って、手数料等の対投資金、対損失額における割合は次の通りとなる。 @ 対投資額 五八・〇六%≒五八% A 対損失額 七四・一三%≒七四% (二) 以上の次第で、本件取引において被告会社は、投資資金約二億八六〇〇万円の原告一人からわずか一年八ヶ月(=二〇ヶ月)間に約一億六六〇〇万円もの手数料等の収入を稼ぎ出したのである。換言すれば、その手数料化率は対投資額で約五八%、対損失額においては約七四%であり、何と損失の約七割五分もの金額が手数料等として消えているのである。原告が蒙った損失のうち、証券の価格変動及び諸税経費による損失額はわずか四分の一にすぎず、四分の三は手数料等被告会社の収入となったのである。余りにも異常な結果と言わねばならない。 八、原告からの収入がA課長の獲得収入の全てであること (一) しかも、驚くべきことに、本件取引を通して被告会社が原告から獲得した一億六六〇〇万円余りの手数料等が、被告も認めるように「訴外Aの担当した個人顧客分はもちろん、訴外A担当分全体で見てもそのほとんどが原告の取引による委託手数料であった」(平成六年九月一二日付被告準備書面)。  なお、この「ほとんど」というのは、「限りなく一〇〇%に近い」とのことである(前同日の裁判官面前における被告訴訟代理人の口頭補足説明)。 (二) さらに、この原告からの収入は、被告がその池田支店における委託手数料集計表(前同準備書面添付)を提出して認めるように、同支店の有力な収入源となっていたのであり、特に売買取引が頻回・多数に及んだ平成二年度では同支店が個人顧客から獲得した収入六億七七四五万三二七円のうち一億三二七万七一八四円を原告に負っており、その割合は一五・二四%にのぼる。前同表の平成元年、同二年、同三年度の数字を対比することからも看取されるところであるが、株価が右肩上がりに上昇していて、株式市場が活況を呈していた平成元年度に比べて、平成元年末を最高値として株価が急落し売買取引高も急減した翌平成二年において、被告会社池田支店にとって、原告は貴重な大口得意客であり、原告の本件取引によって同支店収入の一五・二四%をも原告一人から稼ぎ出していたのである。  次回準備書面においては本件取引の異常性(不合理性)の論証を補強すると共に、本件取引の事実関係の全体を総括する予定である。 第三、本件取引の違法性 過当取引、及びワラント取引での違法行為 一、過当取引の違法根拠と認定要件 (一) 原告は、本件訴訟の初期において本件取引での被告会社(A課長)の投資勧誘・業務遂行は「@過当売買の違法 をその核心としてA虚偽・誤導表示の使用B無断・押付・一任売買とC適合性原則違反の違法をも随伴する という連続的重層的な違法構造を持つ」と主張してきた(原告準備書面(四))。  しかし、本書においては本件審理の結果を踏まえ、被告会社(前同)の投資勧誘・業務遂行上の諸行為は、第一に本件取引全体が過当取引として違法であり、第二にそのうちワラント取引については適合性原則と説明義務に違反するものであるとの二点に主張を整理することとする。  そこで、後者のワラント取引における適合性原則・説明義務違反については後述することとして、まず前者の過当取引の違法性について、その法的根拠と要件を改めて明確にしておきたい。 (二) 過当取引の違法根拠  過当取引とは、「当該投資者の投資知識・経験や投資意向あるいは資金の量と性格に適合しない、数量と頻度の高い証券取引」であって、証券会社(具体的にはその従業員たる登録外務員)がそのような証券取引に顧客を勧誘し、受託業務を遂行することは民事上の違法行為を構成する。その違法性は次の事情から根拠づけられる。 1、被告会社は証券会社として顧客たる原告に対して「誠実公正義務」を負う事業者である。また、A課長もまたその使用人として同様である(証券取引法第四九条の二)。そもそも、被告会社は証券業務を「公正かつ的確に遂行できる知識及び経験を有し、かつ十分な社会的信用を有する」と認められ、大蔵大臣より証券業の免許を得ている専門事業者であり(証取法第三一条二号)、A課長も証券外務員として大蔵省に登録された者=登録外務員であって、その所属する証券会社=被告会社に代わって、有価証券の売買に関し一切の(裁判外の)権限を有するものである(証取法第六二条、同第六四条)。被告会社とA課長が「顧客(原告)に対して誠実かつ公正にその業務を遂行しなければならない立場にあったことは明らかである。 2、被告会社とA課長は投資勧誘における「適合性原則」を順守するべき義務を負う者であった。「適合性原則」とは、「投資者の意向と実情に則した取引を行なうこと」であり、「投資勧誘に際しては、投資者の意向、投資経験及び努力等に最も適合した投資が行なわれるよう十分配慮すること」(大蔵省投資者本位通達)であり、投資勧誘の基本的行為原則とされているものである。なお、現行法はこれを「有価証券の売買又はその委託について、顧客の知識、経験及び財産の状況に照らして不適当と認められる勧誘を行なって投資者の保護に欠けることとなる」業務のあり方を禁止するという法形式をとって、この適合性原則を明文化している(証取法第五四条一項一号)。  被告会社とA課長は原告の投資知識・経験、投資意向及びその資金力等に適合した投資勧誘を行ない、業務遂行に当るべき立場にあり、少なくともこれらに適合しない投資勧誘、業務遂行と行なってはならない立場にあったのである。 3、被告会社とA課長は、証券の売買取引を継続して被告会社に委託する(委託者)原告に対して委託契約上、あるいは継続的取引関係に基づく「善管注意義務」を負う者であった。まして、原告は長年にわたって被告会社を信頼し、殆ど同社のみで証券取引を継続して来た、いわゆる「なじみ客」「得意客」であって、このような信頼関係に基づけば、被告会社とA課長の善管注意義務はより高度なものとなっていたと言わねばならない。 4、被告会社とA課長は顧客である原告に対し「委任の本旨又は金額に照らし過当な数量の売買取引を行なってはならない」とされている者でもあった。 (1) 証券取引においては「売買の別、銘柄、数量、価格」について個別の取引ごとに指示を受けないで行なうこと、すなわち「売買一任勘定取引」は原則として禁止されているところであり、例外的に許容される場合であっても、証券会社は「当該契約の委任の本旨又は当該契約の金額に照らし、過当と認められる数量の売買取引を行なってはならない」とされている(証取法第五〇条一項三・四号、同第一六一条過当取引制限省令一項)。  なお、従前、この売買一任勘定取引に対する規制が比較的緩かった時期には、「有価証券の売買一任勘定に関する規則」において「当該委任の本旨又は勘定の金額に照らし、過当な数量又は頻度の売買取引」を禁ずる旨規定されていたが(同規則第一条)、前掲現行法もその趣旨において同旨である。  ところで、これらの法令諸規則上の規定を持つまでもなく、売買一任勘定取引の法的性格は委任契約であると解されるから、受任者である証券会社は、委任の本旨に従い善管注意義務を負ってその受任業務を遂行することは当然である。証券会社が委任の趣旨に反し、善管注意義務に違反する売買取引、例えば過度な数量、頻度の売買取引を行なって顧客に損害を与えた場合には、証券会社は債務不履行に基づく損害賠償責任を負わねばならない(甲A一四・川村正幸「売買一任勘定取引における一定金額の保証特約」証券取引判例百選七八・七九頁)。 (2) このことは、明示的な売買一任勘定取引が存在する場合だけでなく、事実上あるいは実質的もしくは黙示的な売買一任勘定取引が存在する場合にも同様に妥当する。  事実上の売買一任勘定取引が正当に認定される場合、そこには実質的な意味での委任契約が存在するのであり、そうである以上、受任者たる証券会社が当該顧客に対して同委任の本旨に従って、善管注意義務を尽くしてその業務を遂行すること、そしてその一態様として当該顧客にとって過当な数量・頻度の売買取引を行なってはならないことは法論理の当然の帰結と言える。この点、神戸大神崎教授は「証券会社が自己に対する顧客の信頼を奇貨として顧客の利益の追及よりも自己の利益の追及を第一義として顧客勘定につき過当な証券取引をすることの制限は、顧客から、有価証券の売買一任勘定に関する規則一条にいう委託が形式的になされている場合に限らず、証券会社が、顧客が進んで証券会社の勧誘に従って取引をすることによって、顧客の証券取引の数量及び頻度を決定する地位にあり、かつ当該証券会社が過当取引によってかかる顧客の証券会社に対する信頼を濫用する場合には常に妥当する。つまり、証券会社の顧客勘定への濫用による過当取引の要請が妥当する取引は、証券会社の一任された権限によってではなく、証券会社の顧客に対する地位によって決定される。顧客から売買一任勘定の委託がない場合においても、証券会社が実質上顧客の証券取引の数量、頻度を支配しうる地位にあり、しかもかかる地位を濫用して過当な証券取引をする場合には、かかる証券会社の行為は、実質的には、有価証券の売買一任勘定に関する規則一条違反、形式的には、証券取引法五八条一、二号として違法となる」と指摘されている(甲A一三−二・神崎克郎「証券取引規制の研究」一九四・一九五頁。なお、引用文中の証券取引法第五八条一、二号は現行法では第一五七条一、二号となっている)。 (3) A課長も、売買する銘柄・単価・数量は全て同課長が選定し原告を誘導していた、原告がそれを断わったことは一度もなかった、実質的投資判断は同課長が行なっていたと認める通り(A六・一一・一一調書二七、二八丁、同七・三・一七調書一八〜二〇丁、同七・六・一六調書二三、二四丁)、本件取引は事実上の(実質的あるいは黙示的)売買一任勘定取引であった。  被告会社とA課長が善管注意義務の一態様として、顧客たる原告に損害を与えることとなる過度の数量・頻度の売買取引を回避すべき注意義務を負っていたことは明らかである。 (三) 過当取引の認定要件  既に定義したように、過当取引とは証券会社たる被告会社及びA課長が負っていた「誠実公正義務」「適合性原則(順守義務)」「(委託契約上の)善管注意義務」に違反する「当該投資者の投資知識・経験や投資意向あるいは資金の量と性格に適合しない、数量と頻度の高い証券取引」のことである。この定義を充足する具体的認定要件については、この定義の概括的な性質に影響されて、様々な事情・要素がその対象となり得ようが、我が国証券取引法の母法国である米国で長年にわたって蓄積された判例法理及び我が国での同種投資取引である商品先物取引における判例法理が最も参考に値する。 1、米国では、我が国で言う「過当取引」を「チャーニング」という(グルグルかき混ぜるとの意で、直訳すると撹拌取引)。米国判例法理におけるチャーニング認定要件は、第一に、行なわれた取引の数量・頻度が当該顧客の投資知識・経験や投資意欲あるいは資金の量と性格に照らして過当であること(過当性要件)、第二に、証券会社が一連の取引を主導していたこと(コントロール要件あるいは「口座支配」要件)、第三に、証券会社が当該顧客の信頼を濫用して自己の利益を計ったこと(故意重過失要件)の三つである。なお、第三の「故意重過失要件」は第一、第二の要件が充足されれば当然に推定されるとのことであり、実質的には「過当性」と「コントロール(口座支配)性」の二要件と理解される(甲A二・小島秀樹「日米における証券過当規制の相違」、甲A一一の一〜三・今川嘉文「証券の過当取引における民事救済の実現」「証券の過当取引に対する米国の法理と我が国への適用」「投資利益の存在と過当取引に対する損害賠償」など)。  この三(実質二)要件が充足されれば、証券会社が当該顧客に対して損害賠償責任を負うということは、我が国の証券取引法や民商法の規定や考え方に照らしても、何ら違和感なく至極当然なことと理解され、我が国での法律実務にも十分妥当する。  ちなみに、過当取引事件を取扱った東京地裁判決は 「1 米国の一九三四年証券取引法第一〇条b項(一般的詐欺禁止規定)及び第一五条c項(ブローカー・ディーラーの詐欺禁止規定は、証券会社が「作為操作的、欺罔的その他の詐欺的手段」を用いることを禁止していること、証券会社が、会社自身の利益のために、かつ顧客の利益に反して行動し、取引口座の性格に照らし規模及び頻度において過度な取引を行なわせることが、いわゆる過当売買(チャーニング)と称されていること、このチャーニングの問題が、右連邦制定法の詐欺禁止条項の下で発展を遂げてきたことはいずれも当裁判所にとって顕著である。 2 翻って、我が国証券取引法の下においても、証券会社が、その顧客に対し、顧客の利益に優先して自己の利益を追及してはならない旨の忠実義務を負っていることは、被告もこれを争わず、当裁判所もこの見解に賛成するものである。 3 そして、過当売買の要件を後述のとおりに理解する限りにおいて、過当売買が右忠実義務に違反し、証券会社の債務不履行となるとともに、証券取引法五八条一号に該当し(同法の違反行為は、所詮業法違反行為であって、直ちに民法上の不法行為を構成するものではないが、右違反行為が民法の不法行為の要件に当てはまる限り、不法行為が成立することは当然である)、民法上の不法行為を構成することとなるとの見解にも異論はない。 4 そこで、右の意味での過当売買がどのような場合に成立するかが問題となるが、過当売買が証券取引法五八条一号の一般的詐欺禁止規定に違反するとされる以上、その成立要件は、@証券会社が顧客の口座を支配していたこと、A証券会社が右口座の目的と性質に照らして過度な取引を行なわせたこと、B証券会社が詐欺の目的であるいは顧客の利益を無謀に無視して行動したことの三要件が必要であると解するのが相当である。」 としている(甲A五・判決書)。 2、また、同種の投資取引である商品先物取引においては、過当取引の違法性を追及する訴訟が多数提起され、それを容認する下級審判決がいくつも言渡されていたが、平成七年七月四日にはその判例の流れを肯認する最高裁判決が下された。同最判は 「上告人らは、商品先物取引の経験が全くない被上告人を電話により勧誘し、商品先物取引の仕組みや危険性について十分な説明をしないまま取引を始めさせた」とし、続いて「本件において、多くの取引が、実質的には委託の際の指示事項の全部又は一部について被上告人の指示を受けない一任売買の形態でされ、短期間に多数回の反復売買が繰り返されたり、両建が安易に行なわれている」「上告人らは、被上告人の自主的な意思決定をまたずに、実質的にはその意向に反して取引を継続させ、被上告人の指示どおりの取引をせず、その資金能力を超えた範囲まで取引を拡大させた」と判示して「本件取引に関する上告人らの一連の行為を不法行為に当るものと判断し(た原判決は)正当として是認するに足り(る)」としたのである(甲A一二−一、二・判決書)。  すなわち、商品先物取引において、「実質的一任売買の形態」の下で「短期間に多数回の反復売買の繰り返し」「実質的に被上告人(顧客)の意向に反した取引の継続」「その資金・能力を超えた範囲までの取引の拡大」という商品取引員の投資勧誘と業務遂行は、民法第七〇九条不法行為に該当するとしているのである。  これをさらに要約的に表現すれば、商品取引員が「実質的に顧客の意向・能力・資金に適合しない短期間に多数回の反復売買」を「実質的一任売買の形態において」実行した場合は、当該顧客に対する違法行為となることを明言したのであり、その内容に照らして、この認定要件は同種の投資取引である証券取引における過当取引の認定要件としても妥当すると言える。  換言すると、この最判に基づけば(あるいは準用すれば)、本件事件における過当取引の認定要件は、第一に、実質的に顧客(=原告)の意向・能力・資金に適合しない短期間の多数回の反復売買であり、第二に、実質的一任売買の形態で取引が行なわれていること の二要件と言えるのである。 3、以上、まとめれば、米国の証券取引判例法理に照らしても、又我が国の商品先物取引判例法理に照らしても、過当取引の違法性を具体的に認定する要件は、第一に当該取引の数量・頻度が当該顧客の投資経験・知識や投資意向あるいは資金の量と性格に照らして過当であること(取引の過当性)と、第二に、証券会社が当該取引を主導していたこと(コントロールあるいは口座支配、もしくは実質的一任売買)の二つの要件であることが明らかである。  (次回準備書面においては、この二つの認定要件に沿って、本件取引がそれらを優に充足するものであることを具体的に論証することとする) 二、ワラント取引における違法行為 (一) 原告が行なった(とされる)ワラント取引は別紙ワラント取引一覧表記載の通りである。 (二) ワラント証券とその売買取引は、訴状請求原因及び原告準備書面(五)で指摘した通り、(少なくとも)原告がそれを購入した平成元年から同二年頃にかけては、我が国の一般投資者にとって新種非周知のものであるだけでなく、その仕組みが複雑難解であり、しかも高度な危険性を内包する特殊な種類の証券とその売買取引であった。もとより原告にはその知識・経験が無く、その内容や特徴さらには危険性を全く知らなかったのであるから、それを購入勧誘するにあたって被告会社のA課長は、必要にして十分な内容説明を行なった上、危険性の程度・範囲に至るまでの原告の理解と納得を得てこれを販売すべきであった。ところが、A課長は「ワラントに関しては具体的なご説明はさせていただいていません」と証言する通り(A七・六・一六調書三四〜三六丁)、原告がA課長を信頼していることを利用して何ら(少なくとも十分には)説明することなく、却って、「ワラント債」との誤導表示をも用いて(前同三六丁)これらのワラント証券の売買取引を行なったのである。 (三) その結果、原告は合計二一七二万五六一二円の損害を蒙ったのであって、原告準備書面(五)で主張した通り、被告会社は適合性原則違反及び説明義務違反によって右損害を賠償する責任を免れない。 (続) (なお、以上で本書を終えるが、「はじめに」で述べた通り次回準備書面に継続し、事実関係と違法性の両面での論証を補強する予定である)