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解    説

■判  決: 東京地裁平成10年8月26日判決

●商  品: 株式(現物)
●業  者: 新日本証券
●違法要素: 適合性原則違反、過当取引
●認容金額: 1209万9498円
●過失相殺: 5割
●掲 載 誌: セレクト11・1頁、精選148頁
●審級関係: 東京高裁平成11年7月27日判決で維持 

  【地裁・高裁合体版判決全文】 【最終準備書面】      

 本判決は、外務員が顧客の利益を保護すべき信義則上の信任義務ないし誠実義務を負っており、顧客の資産、投資目的、知識・経験等に適合しない過当な頻度・数量の投資勧誘を行った場合は、右の義務に違反するものとして右勧誘行為が違法性を帯び、不法行為を構成すると判示し、その上で、まず、原告の属性や資金の性質に照らし、そもそも多数回にわたって投機的に株式の売買を繰り返すという取引形態は、全く適合していないとした。
 次に、具体的な取引内容につき、@問題となる期間について年次回転率4.45回(特に取引回数が多かった期間については8.86回)、14ヶ月に買付70回、銘柄数36種、買付金額2億円以上であること、短期で損切りして乗り換える投機的な態様や同じ日に複数の銘柄の売り買いを勧めて1日あたりの買付資金も1000万円前後に及ぶこと、仕手株が多数含まれていることなどを認定し、「およそ財産を堅実に守って生きていくべき真面目な寡婦が望んだものとかけ離れているというほかない」として過当性を認め、A原告は「ど素人」であって、担当外務員が矢継ぎ早に電話で推奨するのに、その場で決断させられ、熟慮する機会を奪われ、事実上鵜呑みにするしかない状態に置かれ、原告が希望するのをはるかに超えた株数の取引を強く勧められて断りきれず、言いなりになるしかなかったことなどを認定して口座支配を認め、B被告証券会社の他の従業員ですら担当外務員の手法に疑問を呈していることから、担当外務員が自己の成績優先の意図を持っていたことを推認し、以上より、「本件取引につき全体として、信任義務ないし誠実義務に著しく反する違法なものと評価すべきである」とした。(なお、Bの故意については、本件では右のような特殊な事情があったため十分に認定できたのであろうが、仮に右のような事情がなくても、@Aから推認できたと思われる。)
 また、本件では被告証券会社支店長の責任も問われていたが、本判決は、代理監督者であり注意義務を尽くしたことの立証がないことのみならず、さらに進んで、支店長自身、適正な投資勧誘のあり方や過当取引の問題点、規制・監督体制についての認識・理解が乏しく、指導監督が不十分であったことにも触れて、支店長の責任を認めた。
 損害については、本判決はまず、株式以外の証券取引から生じた損失を控除した。これは、損害を原告に適合しない株式取引から生じたものに限定する趣旨であるが、適合する証券であっても手数料稼ぎのために過当に取引をさせている以上、控除する必要はないのではないかとの疑問がある。次に、原告が自ら注文した銘柄による損失について控除しているが、これは妥当であろう。過失相殺については、原告の属性に照らして担当外務員の行為の違法性はきわめて大きく、故意による不法行為というべきであるから、過失相殺は否定されるべきであったと思われる。