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解    説

■判  決: 奈良地裁平成11年1月22日判決

●商  品: 株式(現物)
●業  者: 野村證券
●違法要素: 適合性原則違反、断定的判断の提供
●認容金額: 1315万0967円
●過失相殺: なし
●掲 載 誌: セレクト11・67頁、精選94頁、判例時報1704号126頁
●審級関係: 大阪高裁平成11年10月12日判決にて7割認容、確定

  【最終準備書面

 原告は、勧誘に依拠しての株式取引経験を有してはいたが、夫に先立たれた主婦であり、本件取引当時の取引資金は 子の取り分を含む夫の遺産となっていたたため、安全性重視の取引意向を明示していた。他方、本件株式は野村證券が主幹事とし て力を入れていた新規二部上場の比較的小規模な企業の株式であった。
 本判決は、違法性についての総論的判示部分におい て、まず証券会社の誠実公正義務を指摘して、「投資者が自らの判断と責任において取引を行うには、証券会社において顧客の知識、 経験及び財産の状況に照らして不適当と認められる勧誘を行ってはならない(証券取引法五四条参照)のであり、また、自己責任の 原則を損ねるような断定的判断が提供されてはならない」とした。
 その上で本判決は、@原告が資金の性質や取引意向を明示 していたこと、株式取引について十分な知識、経験、情報収集手段を有してはいなかったこと(過去の株式取引経験や他にも二部上 場株の取引があった点は、担当社員の熱心な勧誘により行われたものであったとした)、A大証二部上場の本件株式は、原告の意向 に沿う転換社債、投資信託との比較においては勿論、一部上場の大型株と比べても投機性が高いこと、B担当社員は不安を述べる原告に、絶対大丈夫などと述べて有利性を強調したリスク告知のない勧誘を行い、新規上場時・価格上昇時・価格下落時の各局面で、 転換社債や投資信託を売却させて本件株式を購入させたこと、を認め、適合性原則違反、断定的判断の提供により違法であるとした。 また、断定的判断の提供に関し、本件勧誘当時は会社四季報や野村総研のレポートに、本件株式の価格が上昇するとの判断の根拠と なる記載があったとの野村證券の主張を、勧誘の違法性を左右するものではないとして排斥した。
 本判決は、自己責任原則と 証券会社の注意義務との関係を正しく把握した上で、過去の株式取引経験にとらわれることなく、原告の属性や取引の実情を吟味し、 新規二部上場株のリスクや勧誘の実態に切り込んでいる。現物株式取引につき適合性原則違反が認められた点、株式の違法勧誘事案 で過失相殺なく実損全額の賠償が認められた点においても、意義を有する判決である。