現在、司法制度改革審議会の審議の過程において、民事訴訟における弁護士費用の敗訴者負担問題が急浮上しています。ただでさえ一般市民にとっては大企業たる証券会社との訴訟は大変な負担となるところ、このような制度が導入されれば、敗訴した場合には証券会社側の弁護士費用まで負担させられることとなり、被害回復のための訴訟提起はますます困難なものとなります。これでは一般市民は大企業の違法行為の前に常に泣き寝入りを余儀なくされることとなりかねません。
 そこで当研究会では、2000年11月16日に弁護士費用の敗訴者負担に対する意見書を、2001年6月2日には弁護士報酬の訴訟費費用化に反対する声明を可決して司法制度審議会に提出し、さらにその後の状況を受けて、以下の声明を作成、執行しました。是非、ご一読ください。


               「弁護士報酬の敗訴者負担」に反対する声明

 当全国証券問題研究会は、1992年2月の結成以来、ワラント・株式・投資信託など証券取引被害の救済と、投資家保護のための制度改革に一貫して取り組んできた弁護士の団体である。2002年5月31日、6月1日の両日、第26回全国証券問題研究会を広島で開催し、証券被害問題に取り組む多くのの弁護士が参加し、証券をめぐる諸問題について研究を行った。今般、焦眉の問題である弁護士報酬の訴訟費用化制度を原則として導入するという考えについて、研究会としては、以下のとおり、断固として反対の声明を可決した。

 司法制度改革審議会は2002年6月12日付意見書を内閣に提出した。そこには「勝訴しても弁護士報酬を相手方から回収できないため訴訟を回避せざるを得なかった当事者にも、その負担の公平化を図って訴訟を利用しやすくする見地から、一定の要件の下に、弁護士報酬の一部を訴訟に必要な費用と認めて敗訴者に負担させることができる制度を導入すべきである。この制度の設計に当たっては、上記の見地と反対に不当に訴えの提起を萎縮させないよう、これを一律に導入することなく、このような敗訴者負担を導入しない訴訟の範囲及びその取り扱いの在り方、敗訴者に負担させる場合に負担させるべき額の定め方等について検討すべきである」とされている。

 しかし、証券取引被害救済の場面に於いては弁護士報酬の敗訴者負担は、不当に訴えの提起を萎縮させ、証券被害を受けた一般投資家全体の救済を不当に制限するものなので、証券取引被害救済の分野に於いて敗訴者負担を導入することに強く反対する。

 証券被害の分野は、ワラントやEB債などに代表されるように金融の規制緩和の中で新たな金融商品が生み出されていくことによって、新しい問題として提起されてくる分野である。この新しい商品被害として発生してくる時点では、当然先例・判例は存在せず、判断基準が不明確な段階で、被害の回復を求め訴訟を提起せざるを得ない。そのため、証券被害者は、訴訟の提起段階では、参考にすべき判例がない中で新しい法を発見するために訴訟を活用せざるを得ないのである。新しい分野の訴訟は、先例がない故に当初は敗訴判決が続く中で次第に被害実態が明らかになり、被害救済の判例が積み重ねられていくなかで、救済法理として形成されていくのである。このようなパイオニア訴訟の当事者に敗訴のリスクを課することは、法の生成・発展に蓋をするのに等しい。

 しかも証券取引被害の場合は、訴訟類型としては、不法行為や債務不履行責任に基づく損害賠償請求という形であらわれるのであって、事前の類型化は困難である。敗訴者負担を原則導入、例外措置を講ずるという方針は、結局は訴訟の萎縮効果を促進するだけであり、被害救済の道を閉ざすことに変わりはない。
 その上、証券取引被害訴訟では、証拠が証券会社に偏在しており、一般投資家は証拠が不在のまま被害の救済を求めて訴訟を提起し、訴訟の中で証拠を集めざるを得ないのであり、入り口段階で勝訴の可能性を決めることは極めて困難である。真実が被害者にあっても証拠が無いため敗訴する危険性も有りながら、それでも被害を訴えるために被害者は訴訟という場を使うのであり、その機会すら奪うのがこの敗訴者負担の制度なのである。

 また、証券被害の分野では、損失補填禁止の建前から証券会社が訴訟前の示談にほとんど応じず、訴訟提起をしなければ被害の回復が図られないのであるから、訴訟提起を萎縮させるような、敗訴者負担の原則導入は被害者の切り捨てに他ならない。

 よって当研究会は、証券被害に遭った投資家の訴訟上の救済を受ける権利をためにも、弁護士費用の敗訴者負担の原則導入に、断固反対するものである。

以上決議する。

   2002年6月1日
                                   第26回全国証券問題研究会広島大会
                                   代表    弁護士 田中清治