現在、司法制度改革審議会の審議の過程において、民事訴訟における弁護士費用の敗訴者負担問題が急浮上しています。ただでさえ一般市民にとっては大企業たる証券会社との訴訟は大変な負担となるところ、このような制度が導入されれば、敗訴した場合には証券会社側の弁護士費用まで負担させられることとなり、被害回復のための訴訟提起はますます困難なものとなります。これでは一般市民は大企業の違法行為の前に常に泣き寝入りを余儀なくされることとなりかねません。
 そこで当研究会では、2000年11月16日に弁護士費用の敗訴者負担に対する意見書を作成して司法制度審議会に提出し、さらにその後の状況を受けて、2001年6月2日付けで以下の声明を可決しました。是非、ご一読ください。


               「弁護士報酬の訴訟費用化」に反対する声明


 当全国証券問題研究会は、1992年2月の結成以来、ワラント・株式・投資信託など証券取引被害の救済と、投資家保護のための制度改革に一貫して取り組んできた弁護士の団体である。2001年6月1日、2日の両日、第24回全国証券問題研究会を京都で開催し、約100人の弁護士が参加し、証券をめぐる諸問題について研究を行った。今般、焦眉の問題である弁護士報酬の訴訟費用化制度を原則として導入するという考えについて、研究会としては、以下のとおり断固として反対の声明を可決した。
 2001年6月1日に司法制度改革審議会は審議を終了し、同月12日付で最終意見を内閣に提出することになった。そこで出された意見書(案)には、「弁護士報酬の一部を訴訟に必要な費用と認め、一定の要件の下に、一部を敗訴者に負担させることができる制度を導入すべきである」とし、「・・このような敗訴者負担を導入しない訴訟の範囲及びその取り扱いの在り方、敗訴者に負担させる場合に負担させるべき額の定め方等について検討すべきである」とされている。
 証券被害の分野は、金融の規制緩和の中で新たな金融商品が生み出されていくことによって、新しい問題として提起されてくる分野である。新しい商品開発の中で新たな被害者が発生してくることは、ワラントや変額保険などリスク商品の新規開発が多くの被害者を生み出してきたこれまでの歴史から明らかである。そして新しい商品被害として発生してくる時点では、当然先例・判例は存在せず、確立された判断基準が不明確な段階で、被害の回復を求め訴訟を提起せざるを得ない。そのため、証券被害者は、訴訟の提起段階では、参考にすべき判例がない中で新しい法を発見して、法の支配を求めるのである。新しい分野の訴訟は、先例がない故に当初は敗訴判決が続く中で次第に被害実態が明らかになり、被害救済の判例が積み重ねられていくなかで、救済法理として形成されていくのである。このようなパイオニア訴訟の当事者に敗訴のリスクを課することは、法の生成・発展に蓋をするのに等しい。
 ところが、意見書(案)の示すような、「敗訴者負担を導入しない訴訟の範囲」を決めるという方法では、あらかじめ限定された範囲以外の事件は敗訴者負担を原則導入することになってしまう。しかし、これでは、新しい判例を積み重ねて行かざるを得ない新しい人権被害の分野では、つねに提起する被害者側が弁護士費用の敗訴者負担のリスクを覚悟しなければ訴訟を提起できないという状況に陥ることになる。特に、証券取引被害の場合は、訴訟類型としては、不法行為や債務不履行責任に基づく損害賠償請求という形であらわれるのであって、事前の類型化は困難である。敗訴者負担を原則導入、例外措置を講ずるという方針は、結局は訴訟の萎縮効果を促進するだけであり、被害救済の道を閉ざすことに変わりはない。
 その上、証券取引被害訴訟では、証券会社外務員による勧誘文言が違法性の争点となることが多く、訴訟上での証人尋問の段階になって初めて真実が明らかになる点において訴訟において真実を追究する必要性は高いのであり、この訴訟における事実解明を入り口の段階で萎縮させるのは極めて不当であるというべきである。
 さらに、証券被害の分野では、損失補填禁止の建前から証券会社が訴訟前の示談にほとんど応じず、訴訟提起をしなければ被害の回復が図られないのであるから、訴訟提起を阻害するような、敗訴者負担の原則導入は被害者の切り捨てに他ならない。
 よって当研究会は、法の支配を確立し、無辜の民を泣かせないためにも、弁護士費用の敗訴者負担の原則導入に、断固反対するものである。
                                                          以上

   2001年6月2日

                                  全国証券問題研究会
                                   代表    弁護士 田中清治