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解    説

■判  決: 岡山地裁平成29年6月1日判決

●商  品: 株式(外国株)
●業  者: SMBCフレンド証券
●違法要素: 説明義務違反
●認容金額: 1299万9720円
●過失相殺: 5割
●掲 載 誌: セレクト53・51頁
●審級関係: 控訴 


 事案は、対象となる取引が開始された当時73歳で、夫と死別し一人暮らしであった無職の女性顧客が、頻繁な外国株の取引によって生じた損失等につき、損害賠償請求を行ったものであった。
 判決の認定によれば、顧客は、上記取引開始当時、夫から相続した不動産や約3億円の金融資産を有しており、投資経験としては、平成元年から被告証券会社の前身である山種証券と取引を行っていたほか、他の証券会社1社での外国株を含む取引や、銀行での投資信託取引を経験していたが、その投資傾向は、日本企業の現物株については、数十万円から百数十万円の規模で購入し、中長期的に保有して、株主優待などを楽しみにしつつ、配当を受領していたというもので、投資信託や外国債券等については、勧誘を受けて購入したものを中長期的に保有して、分配金や利息金を受領するというものであった。
 また、判決の認定によれば、顧客は、平成20年のリーマンショックで多額の含み損失を抱えた状態となって、取引は不活発な状況となっていたが、被告証券会社の担当支店の顧客再開拓の方針に基づいて行われた再勧誘により、含み損失を回復すべく、保有していた株式等を売却して外国株の取引を再開することを承諾した。以後、合計約2億1000万円が投じられ、担当者Aの下では、20日間で合計16銘柄、保有期間数日から10日間程度の取引が行われ、1回の売買代金は5000万円を超えるものもあり、次の担当者Bの下では、約3ヶ月間にA関与期間の引継ぎ分2銘柄のほかに合計13銘柄、保有期間2〜3日から20日程度の取引が行われ、1回の売買代金はおおむね2000万円台であった(これ以外にも、顧客が取引を止めたいと申し出てから取引を停止するまでに7銘柄の取引が行われたが、その保有期間は数ヶ月に及ぶものもあったとされている)。
 以上の前提の下、判決は、顧客が主張した過当取引、違法な一任売買、適合性原則違反については、取引の内容や態様、外国株のリスクの仕組みの難易度(それほど難しいものとはいえないとした)、顧客の投資経験や資産、積極的な投資方針への転換などを指摘して、これらを否定したが、以下の判示により、説明義務違反による不法行為を肯定した。
 まず判決は、説明義務に関し、「自己責任による投資判断の前提として、当該商品の仕組みや危険性等について、当該顧客がそれらを具体的に理解することができる程度の説明を、当該顧客の投資経験、知識、理解力等に応じて行う義務を有すると解するのが相当であり」とした。
 続いて判決は、顧客の上記の資産状況や本件取引資金は余裕資産とみられることを指摘しつつも、その年齢や生活状況(年金収入と利息金や分配金等が収入源であった)、上記の投資傾向等を指摘し、顧客の再勧誘を担当したAも、顧客カードを確認するなどして、顧客の従前の投資方針が上記のとおりであったことを認識していたとした。
 その上で判決は、Aの勧誘による含み損失回復のための積極的な投資運用による利益重視へと投資方針が転換されたことにつき、「原告がそのように投資方針の転換をするに至るまでのAの働きかけにおいて、リスク分散のための資金配分の計画などを含めた説明がなされたことをうかがわせる事情はみられ」ないとし、取引開始時の短期間での多額の入金手続へのAの積極的関与や、事実を反映していない社内書類等の作成や社内承認の取り付け、社内承認前に外国株の受注・執行が行われていたこと、顧客が、損失を発生させて他の銘柄に乗り換える取引に不満を漏らし、さらにその後の相場変動で損失が拡大、現実化したことにより、一気に、短期に乗換えを繰り返す投資方針に拒否反応を示していることからすると、「本件取引に当たり、Aから、原告に対し、積極的な投資運用による利益重視へと投資方針を転換することにより多額の損失が生じる可能性があることについて、原告に具体的に理解させるために必要な方法及び程度をもって説明がなされていたとは認められない」と判示した。
 また、判決は、Bについても、A関与の時期にはもたついた値動きが良くなってきた、今後は自分が上手に売買して利益を上げていくなどと述べて取引の継続を勧誘する一方で、「積極的な投資運用による利益重視による投資方針を維持することにより、多額の損失が生じる可能性があることについて、原告に理解させるために必要な方法及び程度による説明がなされたことはうかがわれず、これを認めることはできない」と判示した。
 そして判決は、外国株に関する説明は行った旨の被告証券会社からの反論に対しては、一般的な説明は行われたとしつつ、「しかしながら、本件取引が、原告の従前の投資方針とは大きく異なり、積極的な投資運用による利益重視の投資方針に基づき、数千万円単位で少数銘柄の米国株式及び中国株式に資金を集中させるものであることに照らせば、当該株式が予想と異なる値動きとなった場合におけるリスクの大きさや短期で損切、乗換えをすることによるみなし手数料の負担などを踏まえ、積極的な投資方針に基づく本件取引を行うかどうかを自己責任により判断するのに必要な説明が十分なされたとは認められない」と判示して、A及びBによる説明義務違反を肯定した。
 なお、損害算定にあたっては、保有中の株式については口頭弁論終結時の評価額が用いられ、口頭弁論終結時以前の評価しかない場合でも、当該評価をもって口頭弁論終結時の評価に相当すると推認せざるを得ないとして、損害算定が行われた。また、遅延損害金の起算点については争いがあり、顧客は最後の取引が勧誘され実行されたとき、被告証券会社は全取引の決済終了時(株式保有中であれば口頭弁論終結時)と主張したが、判決は、全取引終了時が損害の発生時期になるとして、取引口座から外国株や外貨が出庫された日をもって全取引終了時(遅延損害金の起算日)とした。
 過当取引や適合性原則違反が否定された点には疑問が残るが、単なる対象取引の一般的な説明にとどまらない、「投資方針に関する説明義務(違反)」(これを認めた先例として京都地裁平成15年12月18日判決がある)が認められた点においては、今後の「多数回取引型被害」の救済に資する重要な判決であると言える。