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解    説

■判  決: 京都地裁平成15年12月18日判決

●商  品: 株式、投資信託、外債等
●業  者: コスモ証券
●違法要素: 説明義務違反
●認容金額: 507万円
●過失相殺: 3割
●掲 載 誌: セレクト23・69頁、金融商事判例1187・37頁
●審級関係: 控訴審で和解金550万円にて和解成立

 事案は、専業主婦であり、証券取引経験がほとんどなかった原告が、亡夫が遺した資産で長期保有を前提に株式を取得することとして平成7年7月に被告証券会社で買付を行ったところ、その後、担当社員が仕手株や投資信託、外債などを含む数量・頻度等において過当な取引を行い、原告に損害を蒙らせたというものであった。なお、本件取引における2年間の売買回転率は22.24倍に達し、取引回数は約500回(建玉数にして261回)、現物取引の平均保有日数は3.76日であり、被告証券会社が得た手数料は約600万円であった。また、判決の認定事実によれば、本件取引については被告証券会社内の店内検査においても、その頻度等から、2回にわたって要留意口座と指摘されて調査の対象とされていた。
 判決は、まず、本件取引にはその継続過程において、取引の頻度や銘柄のばらつき、短期売却やいわゆる乗換売買が多いこと、そのため如何なる投資意図が働いているのか容易には看取できないことなど、取引開始当初には見られなかった特徴が生じているとした。そして判決は、これらの事実から、本件取引は原告のごとき属性の者の取引としては異様と評するよりなく、本件取引は、全体として担当社員が主導し原告がこれに盲従する形で、坂道を転がり落ちていったとしかいいようのない態様で損失を膨らませながら取引が継続されたとみるのが最も実態に即しているとした。
 他方、判決は、証券会社は顧客に不適合な証券取引をしてはならず、「証券会社が顧客に投資勧誘をする場合には、顧客の投資運用目的や投資方針を確認し、それに見合った原則的な投資運用策を示して、それについて顧客の基本的同意を取り付けるなどして、投資金を運用して顧客の利益を保護すべき信義則上の義務を負っている」とした上で、当該顧客の信頼を奇貨として、顧客にとって重要な意味を持つ取引につき、明確な説明をせずに表面的な説明だけをして同意を取り付けることは、自己決定権を侵害する勧誘行為になるとし、また、「勧誘する取引が顧客の明示している投資方針と実質的に異なる場合には、そのことを明確に説明して、顧客に自己の投資方針を変更するのかどうか再検討できるよう配慮すべき義務を負うものである」として、「この義務が尽くされていなければ、生じた結果のすべてについて顧客に対し自己責任を負わせる前提がないことになる」と判示した。そして判決は、本件において担当社員は、自分が主導する取引が上記のような特徴を持つに至った時点で、それについての説明を行って、そのような取引をするかどうか原告自らが判断する機会を与えるべき義務を負っていたのに、かような説明をしないで取引を継続させたものであるとして、本件取引について不法行為が成立するとした。
 なお、どの時点からの取引が違法となるかについては、判決は、当初段階では株価が安定している各業種の代表的銘柄が取引対象であったのに、これらの取引で生じた損を取り戻すため、資金の3分の2を「アジア製造業ファンド」に投入するという、極めてリスクが高い取引が行われた時点を問題とし、かかる取引は原告が当初に設定した投資方針を完全に否定し、原告の能力では対応しようがない取引をすることを意味していたのであるから、この時点で上記方針変更につき明確な説明をして原告の意向を確認すべき義務があったとした。そして判決は、かような義務の存在にもかかわらず、担当社員は表面的な説明しか行っていなかったとして、かかる取引の勧誘行為は「原告が自主的に投資判断をするために必要不可欠な具体的取引行為の意味や当該取引によって生じる事態の具体的危険性を十分に説明しなかった点において」不法行為を構成すると判示し、以後の取引経過は担当社員の不法行為が引き続き継続されていたに過ぎないとした(過失相殺3割)。
 過当取引事案について、適合性を絡めた説明義務の問題としてのアプローチを行った点に特徴のある判決であり、ここで措定された「投資方針の変更についての明確な説明と意向確認の義務」は、継続的取引被害の実態に即した救済につき、重要な方向性を示すものと評価することができる。