[検索フォーム]
解    説

■判  決: 東京地裁平成26年5月15日判決

●商  品: オプション(日経平均株価指数オプション取引)
●業  者: その他(黒川木徳証券/判決時の商号・あかつき証券)
●違法要素: 適合性原則違反、説明義務違反
●認容金額: 2158万1019円(但し証券会社の請求が排斥された金額)
●過失相殺: −(5割)
●掲 載 誌: セレクト48・205頁
●審級関係: 控訴審で和解成立


 事案は、元会社員で本件取引時には個人営業主として営業職に従事していた顧客が、平成22年以降、原告証券会社において日経平均株価指数オプション取引の「売り取引」を行っていたところ、東日本大震災後の株価下落による多額の決済損が生じ、原告証券会社から顧客に立替金を請求する訴訟が提起され、これに対して顧客は損害賠償請求を行ったというものであった。なお、判決の認定によれば、顧客は、原告証券会社での取引開始前に、○○証券で3ヶ月オプション取引を行っていたが、その際の担当社員が原告証券会社に転職することとなり、これに伴い、顧客は原告証券会社で取引を開始したとされている。
 判決は、同種事案に関する大阪地裁平成25年4月22日判決と同様に、まず、適合性原則違反が不法行為となる要件を述べた上で、株価指数オプション取引につき、投資者保護等の観点からの審査を経たものであって一定の制度的保障や情報環境の整備があることを指摘しつつも、オプション取引は抽象的な権利の売買であって、現物取引の経験がある者であっても、その仕組みを理解することが必ずしも容易とは言えない上、オプションの売り取引は、利益がプレミアムの範囲に限定される一方で、損失は無限大又は相当に大きなものとなる可能性があり、さらに取引単位につき1000倍のレバレッジがかかっていること、オプションの取引売買代金額及び内訳に照らし、主としてプロの機関投資家を対象とするゼロサム取引であることからすると、各種の金融商品取引の中でも極めてリスクの高い取引類型であるとした。
 他方で、判決は、本件の顧客は金融商品取引を学習したこともなく仕事上これに関与したこともなかったこと、顧客には本件取引開始前に○○証券で3ヶ月程度の株価指数オプション取引の経験があるのみで、株式取引を含めた投資経験が一切なかったところ、原告証券会社担当社員は、○○証券における顧客の口座開設手続の際に顧客に投資経験がないことを知っていたこと、その際にはオプション取引につき損失が無限大になりうるという説明はあったが具体的な数値を用いた説明はなかったこと、本件取引はすべて売り取引であったことを認定し、さらに、顧客の年収や生活状況から生活に余裕がある様子は見受けられず、顧客が本件取引をした動機は仕事の減少分を埋める小遣い稼ぎであったとした。以上に基づいて判決は、担当社員は、○○証券における3ヶ月の取引経験を除いては投資経験が全くなく、その知識もないのに、オプション取引によって小遣い稼ぎをしようとする顧客に対し、損失無限大の可能性があるオプション取引の勧誘を行ったものであり、このような行為は適合性の原則を逸脱するものであったとした。
 また、本判決は、説明義務に関しても、口座開設に当たり原告証券会社が取引の仕組みやリスクが一通り記載された書面を交付していたことを指摘しつつ、顧客の投資経験が浅く、金融取引の知識がないことや、取引の目的は小遣い稼ぎであってリスクを厭わない積極的な投資意向を有していたものでもないから、原告証券会社担当社員は、これを勧誘する以上、顧客の自己責任において適切な投資判断をすることができるよう、日経平均オプション取引の商品特性やリスク等を十分説明して、その理解を得させるべき義務を負っており、その説明に際しては、複雑な商品特性及びその極めて高いリスク等に照らし、具体的な数値を用いて損益をシミュレーションするなどの方法を採るべき義務があったとし、説明義務違反を肯定した。
 以上により、判決は、本件取引の勧誘行為が不法行為であることを認め、5割の過失相殺を行った上で(弁護士費用も損害に加算されている)、かかる損害額は原告証券会社の請求額を下回っているため、このような場合は上記損害額を考慮して原告証券会社の請求を信義則上制限して認めるのが相当であるとして、原告証券会社の請求のうち上記損害額相当部分を排斥し、その余の部分を認容した。