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解    説

■判  決: 大阪地裁平成25年4月22日判決

●商  品: オプション(日経平均株価指数オプション取引)
●業  者: その他(黒川木徳証券/判決時の商号・あかつき証券)
●違法要素: 適合性原則違反、説明義務違反
●認容金額: 2332万6062円(但し証券会社の請求が排斥された金額)
●過失相殺: −(2割)
●掲 載 誌: セレクト45・99頁
●審級関係: 控訴審で和解成立


 事案は、会社員であった顧客が、平成22年以降、原告証券会社において日経平均株価指数オプション取引の「売り取引」を行っていたところ、東日本大震災後の株価下落による多額の決済損が生じ、原告証券会社から顧客に立替金として2915万7577円を請求する訴訟が提起されたというものであった。なお、判決の認定によれば、顧客は、原告証券会社での取引開始前に、○○証券で1ヶ月程度オプション取引を行っていたが、その際の担当社員が○○証券を退職して原告証券会社に就職することとなり、これに伴う当該担当社員の勧誘により、顧客は○○証券での取引をやめて原告証券会社で取引を開始したとされている。
 本判決は、まず、適合性原則違反が不法行為となる要件を述べた上で、株価指数オプション取引につき、消費者保護等の観点からの審査を経たものであって一定の制度的保障や情報環境の整備があることを指摘しつつも、オプション取引は抽象的な権利の売買であって、現物取引の経験がない者であればなおのこと、現物取引の経験がある者であっても、その仕組みを理解することが必ずしも容易とは言えない上、オプションの売り取引は、利益がプレミアムの範囲に限定される一方で、損失は無限大又は相当に大きなものとなる可能性があり、さらに取引単位につき1000倍のレバレッジがかかっていること、プット・オプションの取引売買代金額及びこの内訳に照らし、主にはプロの機関投資家を対象とするゼロサム取引であることからすると、各種の金融商品取引の中でも極めてリスクの高い取引類型であるとした。他方で、本判決は、本件の顧客は会社員で金融商品取引を学習したこともなく仕事上これに関与したこともなかったこと、顧客には本件オプション取引開始前に○○証券で1ヶ月程度の株価指数オプション取引の経験があるのみで、株式取引を含めた金融商品取引経験が一切なかったところ、原告証券会社担当社員は、○○証券における顧客の口座開設手続の際に顧客に投資経験がないことを知っていたこと、その際にはオプション取引につき損失が無限大になりうるといった程度の説明があったのみで具体的な数値を用いた説明はなされなかったこと、本件オプション取引はすべて売り取引であったことを認定し、さらに、顧客の年収や生活状況から生活に余裕があったとは到底窺えず、○○証券での取引開始時にも証拠金300万円のうち200万円を借入金で用意したことを担当社員に伝えていたことを認定した(原告証券会社における顧客カードには、株式取引経験がある旨の記載や年収についての過大な記載がなされていたが、これらについては、担当社員から、原告証券会社の社内審査に通らないからと説明され、その指示に従って、実際とは異なる記載がなされたと認定されている)。以上に基づいて本判決は、担当社員は、投資経験が全くなくその知識も甚だ不十分であるのにオプション取引によって小遣い稼ぎをしようとする顧客に対し、余裕資金では全くなく借入金(一部)を投じさせて、損失が無限大又は相当に大きなものになる可能性がある、本件オプション取引の勧誘を行ったものであり、このような行為は適合性の原則から著しく逸脱するとして、適合性原則違反による不法行為を認めた。(なお、顧客が原告証券会社での取引開始後、相当回数の取引を行っていた点については、これらもリスクについて具体的な数値を用いた説明を受けずになされたものであったこと、実際にも極めてリスクの高いオプションの売り取引しか行っていないことに照らすと、顧客がリスクを理解、把握した上でこれらの取引を行ったものとは認められないとされている。)
 また、本判決は、説明義務に関しても、「投資の適否について的確に判断し、自己責任で取引を行うために必要な情報である当該金融商品の仕組みやリスク等について、当該顧客がそれらを具体的に理解することができる程度の説明を、当該顧客の投資経験、知識、理解力に応じて行う義務を負う」との一般論を述べた上で、オプション取引は前記のとおり極めてリスクの高い取引類型であったところ、顧客には○○証券での1ヶ月程度の取引経験があっただけで、投資経験又は金融取引の知識もなく、取引の目的としては小遣い稼ぎがしたいとの意向であってリスクを厭わない積極的な投資意向を有してもいなかったのであるから、担当社員は、これを勧誘する以上、顧客の自己責任において自らの投資意向に沿うかどうかを見極めて適切な投資判断をすることができるよう、商品特性やリスク等を十分に説明して、その理解を得させるべき義務を負っていたと言うべきであり、その説明に際しては、複雑な商品特性及びその極めて高いリスク等に照らし、具体的な数値を用いて損益をシミュレーションするなどの方法を採るべき義務があったとし、説明義務違反を肯定した。
 以上により、判決は、原告証券会社の立替金請求は、信義則上その行使が制限されるとしつつ、その全額を制限するのはいきすぎであるとして、請求額の8割を排斥して2割相当額を認容した。
 東日本大震災による株価下落に伴う株価指数オプション取引の損失に関し、安易な勧誘の実情が明らかにされた上で、最高裁平成17年7月14日判決における同取引に関する判示内容を前提に、勧誘行為の違法性が認められた点において、今後の同種被害の救済に関して参考とされるべき判決であると言える。