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解    説

■判  決: 東京高裁平成23年10月19日判決

●商  品: 仕組債(株価連動債)
●業  者: その他(三菱UFJメリルリンチPB証券)
●違法要素: 説明義務違反
●認容金額: 948万7634円
●過失相殺: 7割
●掲 載 誌: セレクト41・50頁
●審級関係: 東京地裁平成23年3月31日判決の控訴審、確定



 (事案の内容については、一審判決の解説を参照されたい。)
 本判決も、一審判決と同様、争いがあった事実関係については、ほぼ被告証券会社の主張あるいは担当社員の証言に従った認定を行い、適合性原則違反等の顧客の主張を排斥したが、以下のような判示によって、説明義務違反による不法行為を肯定した。
 まず、本判決は、本件仕組債の性質・特徴についての検討を行った上で、「以上のような本件仕組債の特徴を要約すると、@東証マザーズ指数に大きな下落(当初指数値の45%以上)が生じない限り元本満額の償還を確保できるが、ひとたびそれが生じれば、本件発行体の支払能力の有無とは無関係に、大きな欠損の生じるおそれがあり、欠損の割合は東証マザーズ指数値の下落率よりも大きくなる、A東証マザーズ指数が一定の範囲(当初指数値の80%以上105%未満)を維持する限り年率10%という相当高水準の利息を収受できるが、各利払日ごとの基準日に当初指数値の105%に達すれば早期償還が行われ、以降は利息を収受することができなくなるし、80%未満になった場合の受取利息は年率0.1%に急減する(もっとも、その後80%の水準を回復すれば再度年率10%の利息を収受する余地も残されている。)というものである。したがって、社債という名称は付されていても、一般的な社債とは全く異質であることはもちろん、償還価格や受取利息の利率が東証マザーズ指数という株価に依存して変動するにせよ、株式や投資信託との類似性もない、新規性・独自性の顕著な金融商品であり、なおかつ、償還額や受取利息の決定方法やその条件も相当に複雑で、ノックイン事由が生じた場合という限定は付くにせよ、元本欠損のリスクも相当に大きい、投資判断の難しい商品ということができる。」とし、「本件仕組債を購入する際には、こうした特徴を正確に理解できなければ投資対象としての適格性を判断することができず、一審被告及び○○(注・証券会社担当社員)が一審原告に本件仕組債の購入を勧誘する際にも、そうした理解につながる十分な情報を提供し説明を尽くすことが不可欠の前提になるというべきである。とりわけ、上記特徴からすれば、一般投資家においては、条件の限定があるとはいえ利息が年率10%という相当高水準に設定されていることや、ノックイン事由が当初指数値の55%という相当低い水準に設定されていることに目を奪われ、東証マザーズ指数値がそこまでは下落しないとの安易な期待を抱くであろうことは容易に予想されるところであるから、償還価格の元本割れが起こり得ること、それが東証マザーズ指数という株価の水準に依存しており、かつ、元本の欠損割合も株価の変動率よりも大きくなること、後にそうした事態が生じ購入者に損失が生じたとしても、それは購入者の相場観・投資判断に基づくものであり、自己責任に帰すべきものであることを強調し、注意喚起に遺漏なきを期すべきことは当然である。」と判示した。
 そして本判決は、説明義務の内容や程度につき、「(本件仕組債の)償還価格とその時期、受取利息の利率の決定条件は複雑であって、一般投資家にとっては知識・経験の乏しい新規性・独自性のある金融商品である上、ノックイン事由が生じた場合の元本毀損のリスクは大きなものがある反面、一定の条件の下での受取利息の利率が相当高水準であることや、ノックイン価格が低水準に設定されていることに目を奪われて、元本を確保しつつ高い利息を受領する期待を安易に抱くであろうことが容易に想定できるから、これを販売商品として扱う金融商品取引業者等には、そのリスクの内容を具体的かつ正確に認識させ、顧客が冷静かつ慎重な判断が可能となるよう、過不足のない情報提供を行い説明を尽くすことが要求される」と判示した上で、顧客に交付されていた説明資料(提案書)について、「確かに満期償還額の変動リスクや価格変動リスクその他のリスク説明はあるものの、その記載は概して具体性を欠いた単調・平板なものであり、本件取引から実際に生じうる具体的なリスクを意識・注意喚起させる上で不十分なものと評さざるを得ない。」と指摘し、さらに、担当社員の説明内容についても、シナリオ分析の表を示すなど具体性のあるもので説明資料の不足を一定限度補っているとはいえ、口頭説明にとどまるもので、ノックイン事由が生じた場合に下落率が2倍の割合で償還価格に反映される算式も具体的に説明しなかったことを指摘し、「したがって、商品説明の過程で上記のような情報が提供されたとしても、顧客である一審原告にその重要性がどの程度意識され、注意喚起され、その記憶にとどめられ、高率の受取利息や低く設定されたノックイン価格という利点と比較対象されるなど、一審原告の投資判断において、実質的な判断材料・考慮要素とされ得たのか甚だ心許ないところである」「上記説明内容を図表化するなどリスクの具体的内容をわかりやすく整理した資料を用意することに大きな労力・困難を伴うとも考えられないことからすると、相当複雑でその理解も容易でなく、かつ、新規性・独自性もある本件仕組債の購入を勧誘するに当たり、そうした資料を準備・使用することもないまま、口頭の説明で事足れりとする対応は、本件仕組債の性質・特徴に即した説明を尽くしていないとのそしりを免れ難いものである。」とした。
 さらに本判決は、担当社員が、当初は東証マザーズ指数ではなく日経平均株価指数と連動するタイプの仕組債(以下「日経仕組債」という)を紹介したところ、顧客がこれに興妹を示さなかったために本件仕組債の勧誘を試みたと証言している点に注目し、証券会社側が主張する「金融工学」の設計思想に従えば、東証マザーズ指数が日経平均株価よりも価格変動リスクが大きいために、ノックイン価格やクーポン判定価格、利率が変更されていたこととなるはずであることを前提に、「一審原告が日経仕組債に興味を示さなかったという経緯を踏まえるならば、上記のような日経仕組債との比較、異なる設定条件の意味、想定されるリスクとの対応関係は投資判断をする上で極めて重要な情報と考えられるが、○○がこうした点に説明を加えた形跡は全く存在しない。かえって、○○の証言からは、一般投資家が目を奪われやすい10%の利率やノックイン価格が55%と低く設定されているという利点のみを強調して、勧誘対象を日経仕組債から本件仕組債に切り換えたことがうかがわれ、現実に一審原告がこれに飛びついた可能性が高い。上述した日経仕組債との比較につき正確かつ具体的な説明が加えられていれば、一審原告が本件仕組債を購入しなかった蓋然性は相当程度高いのであって、この点についての説明不足も看過できない。」と判示した。
 加えて、本判決は、担当社員が相当程度具体的な説明を行っていたとはいえ、顧客が本件仕組債の性質、特徴、リスクの具体的な内容を正確に理解していたことをうかがわせる証拠はなく、むしろ、既に指摘した問題点も踏まえるならば、顧客がそうした理解を欠いていたとしても無理からぬところがあり、実際にもそうした理解を欠いたまま本件取引を行ったものと認めるのが相当であるとし、担当社員が、顧客は株価について強気の見通しを述べており、本件仕組債購入の勧誘時も東証マザーズ指数のチャートの提示を受けて、当時の株価の水準が低いので高い利息が期待できる、早期償還も見込めるなどと述べていたと供述・証言している点についても、「こうした発言から、一審原告が本件仕組債の利得が東証マザーズ指数の変動に依存しており、値上がりが生じた場合に早期償還される点を理解していたこと、株価の動向に一定の相場観を持っていたことまではうかがえるものの、それ以上に本件仕組債の特徴、性質、リスクの具体的内容につき正確に理解していたことをうかがわせるものではない」とした。
 以上によって、本判決は説明義務違反による不法行為を認め、本件仕組債の期限は未到来ではあったものの、現在の指数値を前提とすれば償還金額は0となり、償還日までに償還金額が生じる見込み等について何らの主張立証もないとして、償還金額が0であることを前提とした損害を認めたが、担当社員が相当程度の説明を行っていたことや、顧客には交付を受けた資料を検討する時間的余裕もあったことなどを理由に、7割の過失相殺を行った。
 本判決も、一審判決と同様、事実面では顧客の主張がほとんど排斥されてしまっている点や、高率の過失相殺は極めて問題であるが、証券会社担当社員が述べていた「相当程度の説明」を前提にしながら、仕組債の問題性を踏まえた高度の説明義務を前提に説明義務違反が認められた点において、意義のある判決であると言える。