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解    説

■判  決: 東京地裁平成23年3月31日判決

●商  品: 仕組債(株価連動債)
●業  者: その他(三菱UFJメリルリンチPB証券)
●違法要素: 説明義務違反
●認容金額: 627万1200円
●過失相殺: 8割
●掲 載 誌: セレクト41・27頁
●審級関係: 東京高裁平成23年10月19日判決で認容額増額



 事案は、雑貨の輸入販売を業とする株式会社の代表者である顧客が、平成19年2月に、株価連動型の仕組債(額面3000万円)を2946万6000円で購入し、損失を被ったというものであった。なお、判決の認定によれば、本件仕組債は、東証マザーズ指数値を対象とする期限5年の仕組債であり、ノックイン条件は当初指数値の55%未満、早期償還判定価格は当初指数値の105%とされており、ノックイン事由が発生すると指数値の下落率の2倍の割合で元本が毀損されるというもので、さらに、クーポンも指数値によって変動し、利払日(年4回)の10取引所営業日前の指数値が当初指数値の80%以上であれば年率10%、80%未満であれば年率0.1%となるものとされていた。
 判決は、争いがあった事実関係(勧誘時の説明内容や、申込書の投資目的等の記載を誰が行ったか、顧客の実際の金融資産の額など)について、ほぼ被告証券会社の主張あるいは担当社員の証言に従った認定を行い、顧客の適合性原則違反等の主張を排斥した。また、判決は、本件仕組債の商品特性についても、上記のような表面的な条件以外の踏み込んだ検討や認定は行っていない。
 それでも、判決は、「本件仕組債の特徴は、年率10%のクーポン(配当)を確実に取得できるのが当初の3か月に限られており、東証マザーズの指数が80から105の間に変動している間だけであることを明確に認識させ、東証マザーズ指数の過去の変動幅を説明して、その変動幅は、東京マザーズ市場に上場されている株式にいわゆる小型株が多く、他の市場に比べて大きいこと、その変動幅をさらに2倍にすれば、東証マザーズの指数が年利10%のクーポンを取得することができる変動幅(80から105)に収まらない可能性が高くなること、○○(注・証券会社担当社員)が資料として使用した乙第9号証2枚目の東証マザーズ指数の過去の値動き(2003年9月15日から2007年2月26日までの問の3年6か月間)のチャート(表)によれば、1000から2500を超える動きをしており、これを2倍にしたときは、おおよそ5倍の変動幅になり、長期にわたり、年率10%のクーポンを取得できる可能性は少なく、むしろ早期償還されるか、元本き損が生じるかのいずれかになる可能性が相当程度あることを認識した上で、年率10%のクーポン(配当)を取得できる可能性がどの経度あるのかを検討しなければ、本件仕組債を購入する判断を的確に行うことが難しいと思われるところ、証人○○の証言によっても、上記の事柄について十分な説明がされたとはいえない」とし、説明義務違反による不法行為を肯定した。また、判決は、「上記説明義務の不十分さは、顧客の重要な権利保護にかかわるリスク説明等について適切な組織態勢をとってこなかった管理者を含む被告の組織全体の問題であろう」との指摘も行っている。
 そして、判決は、本件仕組債の期限は未到来ではあったものの、現在の指数値を前提とすれば償還金額は0となることから、購入代金から顧客が受領したクーポンを差し引いた金額を損害と認めたが、その一方で、担当社員は十分とはいえないにしても相当程度の説明義務を尽くしたなどとして、8割の過失相殺を行った。
 商品特性についての踏み込みが著しく浅く、このことも影響してか事実面では顧客の主張がほとんど排斥されてしまっている点や、高率の過失相殺は極めて問題であるが、かような不十分な判示内容を前提としてさえ、説明義務違反が肯定されている点には、仕組債の販売そのものの重大な問題が示されていると言える。