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解    説

■判  決: 福岡高裁平成23年4月27日判決(2)

●商  品: デリバティブ取引(金利スワップ)
●業  者: 三井住友銀行
●違法要素: 説明義務違反
●認容金額: 790万円(他に銀行からの約4654万円の反訴請求が棄却されている)
●過失相殺: 4割
●掲 載 誌: セレクト40・131頁、判例タイムズ1364・176頁
●審級関係: 高裁逆転勝訴、上告・上告受理申立


 判決の認定によれば、顧客は株式会社であり、平成14年10月末当時の総借入残高は約9億6000万円(この時点では本件の相手方たる被控訴人銀行からの借入はなかった)であったところ、平成15年3月に被控訴人銀行から合計4000万円の融資を受け、さらに平成15年6月に、被控訴人銀行担当社員から、プレーン・バニラ・金利スワップ取引の提案を受けた。そして、顧客は同年7月に最初の金利スワップ契約を締結し、平成16年6月に、2回目の金利スワップ契約を締結した(この間、顧客は他の銀行でも金利スワップ契約を締結しており、また、被控訴人銀行からは繰り返し融資を受けていた)。ところが、同契約に基づくその後の金利授受において、顧客は被控訴人銀行に金利の差額を支払い続けなければならない事態となり、被控訴人銀行に対して訴訟を提起したが、一審では2回目の契約につき優越的地位の濫用による不法行為が認められたが、説明義務違反は否定され、顧客の請求額のごく一部(約74万円)が認容されたにとどまっていた。
 なお、本件金利スワップ契約の概要を1回目の契約を例に言えば、想定元本を4億円、取引期間を平成16年7月12日からの6年間とし、3ヶ月毎に、顧客が被控訴人銀行に固定金利年2.145%を支払い、被控訴人銀行が顧客に変動金利(3ヶ月TIBOR)を支払うというものであった。また、判決においては、本件金利スワップ契約の提案に際しては、被控訴人銀行から顧客に対し、損益シミュレーションが提示されていたが、被控訴人銀行が提案する固定金利と顧客の現実の借入利率を条件とするシミュレーションがなされなかったことは争いがない、とされている。さらに、本判決の時点でも、本件金利スワップ契約は解除されないままとなっており、形の上ではスワップ契約が続いたままとなっていたようである。また、控訴審では、被控訴人銀行から顧客に対し、本件金利スワップ契約に基づき、顧客が支払を行わないままとなっていた金利の差額分(請求額約4654万円)につき、反訴が提起された。
 判決は、まず、金利スワップ契約の基本的構造や原理自体は単純で、特に銀行間市場を前提にするときには、その理解は一般的にも困難ではないとし、本件の顧客もその原理ないし構造自体については理解していたとし、また、顧客は被控訴人銀行から提案を受けた後、社内で検討した上でその締結を決定したものであること、最初の契約後に他の銀行でも金利スワップ契約を締結したこと、被控訴人銀行との2回目の金利スワップ契約の際には被控訴人銀行からの想定元本1億円の提案を5000万円に減額していたことを認定した。
 他方で、判決は、顧客に専門的な知識ないし経験が豊富でない限り、その目的とした変動金利リスクヘッジとしての効果が、どの程度の金利水準であれば有効であるかを顧客自身が判断することは極めて困難であるとした。また、判決は、中途解約の場合の清算金について、提案書の記載内容は極めて抽象的で、解約は合意解約に限定され、場合によっては清算金の支払が必要になるときがあることが理解できるだけで、「その清算金(損害填補金)の具体的算定方法ないし概算額については全く推測もできず、顧客が金利スワップ契約を続行すべきか、清算金を支払ってでも解約の申入れをすべきか等については全く判断できなかったもので、その解約制限に基づくリスクを評価して購入の可否を決めることは不可能であった」と判示した。さらに、判決は、「金利スワップ契約における先スタート型とスポットスタート型における固定金利水準が理論的に異なることになる理由とか、その各特徴や利害についても、本件銀行の説明においては全く無かった等から、当面は狭義の変動金利リスクが存在しないとしたときに、スポットスタート型を将来選択すべきなのか、現時点で先スタート型を選択すべきかの客観的判断は、本件提案書による説明では、一般の顧客には不可能であった」と判示した。加えて、判決は、対顧客市場において銀行が設定する固定金利水準は、営業として金利スワップ取引を販売することから、顧客の信用リスクや銀行が負担する変動金利リスク並びに営利企業としての銀行の利益と販売コストが考慮された利率部分がスワップレート金利(銀行間のスワップレートを指すものと思われる)に少なくとも加算された利率と理解されるとした上で、顧客の立場からすると、「その双方の経済的価値が著しく異なるときは、スワップされる金利関係同士の経済的等価値関係を基礎とする狭義の変動金利リスクヘッジ機能は、十分に果たせないことになると解される。本件銀行の説明においては、この点に関する説明は一般的なものにせよ全くなかったものである」と判示した。
 そして判決は、専門的性質の契約等においては、その知識を有する当事者には、しからざる他方当事者に対する契約に付随する義務として、個々の相手方当事者の事例に見合った当該契約の性質に副った相当な程度の法的な説明義務があるとし、「金利スワップ契約締結の是非の判断を客観的に左右する可能性のあるいずれも重要な要素である、中途解約時において清算金がどの程度必要とされるのか、先スタート型とスポットスタート型の各利害・得失、さらには契約締結の目的である狭義の変動金利リスクヘッジ機能の効果の判断に必須なスワップ対象とされる金利同士の価値的均衡の観点等からみた固定金利水準についての説明等がされていなかったなど、全体としてその説明の程度は、控訴人会社において契約締結に際して合理的判断ができない極めて不十分なものであったと言わざるを得ない」と判示した。さらに判決は、本件スワップ契約の固定金利が、契約締結当時に金融界で予想されていた金利水準の上昇に相応しない高利率であったばかりでなく、顧客側が訴訟中で例示した他の金利スワップ契約のそれよりかなり高いものであったことから、スワップ対象の各金利同士の水準が価値的均衡を著しく欠き、通常ではあり得ない極端な変動金利の上昇がない限り、変動金利リスクヘッジに対する実際上の効果が出ないものであったとし、従って、「本件金利スワップ契約は、被控訴人銀行に一方的に有利で控訴人会社に事実上一方的に不利益をもたらす内容のものであって、到底、その契約内容が社会経済上の観点において客観的に正当ないし合理性を有するものとは言えない」とした。以上により判決は、説明義務違反による不法行為を肯定し、さらに、その違反は重大であるため、本件金利スワップ契約は契約締結に際しての信義則に違反するものとして無効であるとした。(但し、不法行為による損害賠償請求に関しては、原告会社が支払った実損額の4割と提訴日までの遅延損害金が過失相殺として減じられた。被控訴人銀行からの反訴は、全部棄却された)。
 本判決は、多数の被害が生じている中小企業の銀行によるデリバティブ被害に関しての初の逆転勝訴判決(但し、同日に同じ裁判所で全く同様の判決・福岡高裁平成23年4月27日判決(1)が言い渡されている)であり、先例的意義を持つ重要な判決である。