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解    説

■判  決: 福岡高裁平成23年4月27日判決(1)

●商  品: デリバティブ取引(金利スワップ)
●業  者: 三井住友銀行
●違法要素: 説明義務違反
●認容金額: 530万円
●過失相殺: 4割
●掲 載 誌: セレクト40・100頁、判例タイムズ1364・159頁、金融商事判例1369・25頁
●審級関係: 高裁逆転勝訴、上告・上告受理申立


 判決の認定によれば、顧客(株式会社)は「地方の中堅企業」であったもので、主たる取引銀行(本件の相手方たる被控訴人銀行ではない)から総額約15億円程度の借入を行っていた。そして、被控訴人銀行は、優良企業として知られていた顧客を新規顧客として開拓し、積極的に金融取引をする方針をとって、まず平成15年12月に1億5000万円の融資を行い、次いで、顧客の複数の銀行からの借入が主に変動金利であったことを知って変動金利リスクヘッジのニーズがあると考えて、プレーン・バニラ・金利スワップ取引を提案することとし、これによって、平成16年3月に本件金利スワップ契約が締結された。ところが、同契約に基づくその後の金利授受において、顧客は被控訴人銀行に金利の差額を支払い続ける事態となり、被控訴人銀行に対して訴訟を提起したが、一審では顧客全面敗訴となっていた。
 なお、本件金利スワップ契約の概要は、想定元本を3億円、取引期間を平成17年3月8日からの6年間とし、3ヶ月毎に、顧客が被控訴人銀行に固定金利年2.445%を支払い、被控訴人銀行が顧客に変動金利(3ヶ月TIBOR)を支払うというものであった。また、判決においては、本件金利スワップ契約の提案は、原告会社の全借入金のうちの一部をヘッジの対象とするいわゆるマクロヘッジとしての提案として行われており、実際の借入利率をその条件として用いたシミュレーションがなされなかったことは争いがない、とされている。さらに、本判決の時点でも、本件金利スワップ契約は解除されないままとなっており、形の上ではスワップ契約が続いたままとなっていたようである。
 判決は、まず、顧客においては、金利スワップ契約自体が初めて聞く商品で、知識も経験もなかったことから、説明を受ける際に税理士を同席させたり、説明を受けた後に相当期間、社内で検討していたことを認定し、また、金利スワップ契約の基本的構造や原理自体は単純で、特に銀行間市場を前提にするときには、その理解は一般的にも困難ではないとし、本件の顧客もその原理ないし構造自体については理解していたことは明らかであるとした。
 他方で、判決は、中途解約時に必要とされるかもしれない清算金額については、極めて抽象的な説明しかなされておらず、解約手段は合意解約に限定され、場合によっては清算金の支払が必要になるときがあることがわかるだけで、「清算金の具体的算定方法ないし概算額については全く推測もできず、顧客が金利スワップ契約を続行すべきか、清算金を支払ってでも解約の申入れをすべきか、その解約制限に基づくリスクを評価して、購入(契約締結)の可否を決定することの判断材料は与えられなかった」と判示した。また、判決は、被控訴人銀行の担当社員がスポットスタートと先スタートの各案内書面を持参して説明を行い、顧客は当面は変動金利リスクのヘッジは必要ないと考えていたため先スタート型を選択したことについて、「先スタート型とスポットスタート型の各スワップ金利が理論上なぜ異なることとなるのか、スタート時点の相違による利害等については、本件銀行説明においては全く無かった等から、将来はともかく当面は変動金利の上昇はないため、当面は狭義の変動金利リスクが存在しないと考えていた控訴人会社にとって、スポットスタート型を将来選択すべきなのか、先スタート型を現時点で選択すべきかの判断は客観的にはできなかった」と判示した。さらに、判決は、対顧客市場において銀行が設定する固定金利水準は、営業として金利スワップ取引を販売することから、顧客の信用リスクや銀行が負担する変動金利リスク並びに営利企業としての銀行の利益と販売コストが考慮された利率部分がスワップレート金利(銀行間のスワップレートを指すものと思われる)に少なくとも加算された利率と理解されるとした上で、顧客の立場からすると、「その双方の経済的価値が著しく異なる(実際には、双方の金利水準に大きな差がある。)ときは、スワップされる金利関係同士の経済的同価値関係を原則とする金利スワップ契約は、そのヘッジとしての機能を十分に果たせないこととなるのに、本件銀行説明においては、この点に関する説明は一般的なものにせよ存しなかった」と判示した。
 そして判決は、専門的性質の契約等においては、その知識を有する当事者には、しからざる他方当事者に対する契約に付随する義務として、個々の相手方当事者の事例に見合った当該契約の性質に副った相当な程度の法的な説明義務があるとし、「契約締結の是非の判断を左右する可能性のある、中途解約時における必要とされるかも知れない清算金につき、また、先スタート型とスポットスタート型の利害等につき、さらには契約締結の目的である狭義の変動金利リスクヘッジ機能の効果の判断に必須な、変動金利の基準金利がTIBORとされる場合の固定金利水準について、これがスワップ対象の金利同士の価値的均衡の観点からの妥当な範囲になること等の説明がなされなかったことからすると、同説明は、全体としては極めて不十分であったと言わざるを得ない」と判示した。さらに判決は、本件スワップ契約の固定金利が、契約締結当時に金融界で予想されていた金利水準の上昇に相応しない高利率であったばかりでなく、顧客側が訴訟中で例示した他の金利スワップ契約のそれよりかなり高いものであったことから、スワップ対象の各金利同士の水準が価値的均衡を著しく欠き、通常ではあり得ない極端な変動金利の上昇がない限り、変動金利リスクヘッジに対する実際上の効果が出ないものであったとし、従って、「本件金利スワップ契約は、被控訴人銀行に一方的に有利で、控訴人会社に事実上一方的に不利益をもたらすものあって、到底、その契約内容が社会経済上の観点において客観的に正当ないし合理性を有するものとは言えない」とした。以上により判決は、説明義務違反による不法行為を肯定し、さらに、その違反は重大であるため、本件金利スワップ契約は契約締結に際しての信義則に違反するものとして無効であるとした(但し、不法行為による損害賠償請求に関しては、顧客が支払った実損額の4割と提訴日までの遅延損害金が過失相殺として減じられた)。
 本判決は、多数の被害が生じている中小企業の銀行によるデリバティブ被害に関しての初の逆転勝訴判決(但し、同日に同じ裁判所で全く同様の判決・福岡高裁平成23年4月27日判決(2)が言い渡されている)であり、先例的意義を持つ重要な判決である。