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解    説

■判  決: 大阪地裁平成22年10月28日判決

●商  品: その他(匿名組合型不動産投資ファンド)
●業  者: 高木証券
●違法要素: 説明義務違反
●認容金額: 2710万3307円、3729万2001円、1488万3396円
●過失相殺: 3割
●掲 載 誌: セレクト39・21頁、判例タイムズ1349・157頁、金融商事判例1356・28頁
●審級関係: 大阪高裁平成23年11月2日判決で認容額増額。


 事案は、被告証券会社が原告ら(3名)に対して匿名組合型の不動産投資ファンド(レジデンシャル−ONE)への出資を勧誘し、原告らがこれに応じて平成15年7月から平成19年11月にかけて出資を行ったところ、償還時に大きな損失が生じたというものである。(同種商品について各地の顧客が複数の訴訟を提起しており、本件はその第1弾判決である。)
 判決の認定によれば、本件ファンドは、三大都市圏の住居用不動産(主にマンション)を信託財産とする信託受益権を中心に投資するファンドであり、設定期間は3年間で中途解約はできず、運用期間中の分配と最終償還の原資は、不動産の賃料収入と売却代金に依存しており(従って元本も分配金も保証されていない)、さらに、ノンリコースローン(借入)の導入により投資不動産の総額が顧客の出資金の額よりも大きく、しかも償還時には出資金の償還より借入金の償還が優先されるため、賃料収入や物件が値上がりすれば投資利益を大きく見込むことができる反面、値下がりした場合には不動産価格の下落以上に出資金が大幅に元本割れするリスク(レバレッジリスク)が内在する商品であった。そして、出資金に対する借入金の割合が大きくなればなるほどレバレッジリスクも大きくなるところ、その割合の上限は、平成17年11月募集分までは300%、平成18年4月募集分以降は400%と定められており、運用コストがないものと仮定しても、不動産価格が10%下落すれば、出資金元本の40〜50%が毀損し、20%下落すれば90〜100%が毀損するという関係にあった。
 以上を前提に、まず、判決は、「バブル崩壊後の不動産市況の動向を見れば、3年間で不動産価格が2割を超えて下落するリスクは、公知の事実である地価公示の平均価格の推移をみただけでも社会的経済的に見て決して無視し得ない可能性を有するリスクであり、3年後には必ず不動産を売却して償還資金を調達しなければならないという本件ファンドの特質からしても、投資勧誘の専門家である証券会社(被告)にとって十分に想定可能な危険であったと認められる。そうすると、本件ファンドは、決して小さくない割合で想定される3年間での2割の不動産価格の下落によって、ファンドの出資元金が全く償還されずに毀損するリスクを伴うものであって、その意味で、レジデンシャル−ONEのレバレッジリスクは、投資家の投資判断にとって極めて重大な意義を有する高いリスクであるということができる。」として、このようなレバレッジリスクはファンドの募集時に顧客に説明されるべき投資判断に影響を及ぼす重要な事項であると判示した。(これらの点に関して、判決は、「バブル崩壊後の金融・不動産市況の激変を考えれば、サブプライムローンの問題やリーマンショックに端を発した金融危機の影響などの最近の動向は、決して不可抗力のようなものではない。不動産価格の下落の可能性に気づかず、これを前提とするレバレッジリスクの重大性に思い及ばなかったことを正当化するものではないし、その点で被告の言い訳になるようなものでもない。」との判示も行っている)
 そして、判決は、本件ファンドの説明資料の内容を子細に認定して、そこにはレバレッジアップ(レバレッジによる利益増大の効果)は記載されているが、レバレッジリスクを説明する記載は全くないことを指摘して、被告従業員らが勧誘にあたってレバレッジリスクの説明をしなかったことは明らかであると判示し、併せて、証券取引等監視委員会の調査によれば、多数の被告従業員がレバレッジリスクを理解しておらず、ヒアリング等による確認が行われた営業員34名(販売顧客数延べ1866名)のうちレバレッジリスクの説明をしないで不適当な勧誘行為を行っていた営業員は32名(同1754名)に及んでいることをも指摘した。また、判決は、レバレッジリスクの性質からすれば、少なくとも借入金の優先返済及び出資金に対する借入金の割合の上限率に係る説明がなされるべきところ、商品パンフレットにはこれらが記載されておらず、目論見書には記載があるものの、営業員から説明を受けない限り顧客には分かりづらい表現となっており、営業員ですらほとんど理解していなかったことを考えれば、レバレッジリスクを一般投資家である顧客が理解することは困難であったと判示している。
 以上により判決は、本件ファンドの勧誘に際しては、「『予想配当利回りが年7〜11%である』というレバレッジの有利な側面を説明するばかりでなく、不即不離の反面であるレバレッジリスク、すなわち、不動産が値下がりしたときはリスクが極端に増幅されること、具体的な程度として、『投資対象の不動産が1割値下がりすると、出資金は約半分になること』、あるいは、『不動産が2割値下がりすると、出資金はほとんど0円になる可能性があること』を説明するとともに、その理由として、本件ファンドの仕組みについて、『銀行借入によるレバレッジがかかるため、リターンが大きくなる反面、リスクも増幅されるということ』を十分に説明すべき義務があった」のに、これに違反した勧誘が行われたことを認めて、説明義務違反を肯定した。なお、判決は、かかる説明義務違反を肯定する判示に続いて、「決して勧誘をした営業員だけの問題ではなく、レバレッジリスクについて投資商品企画上の十分な注意を払うことなく、またそのような顧客の重要な権利保護にかかわるリスク説明等について適切な組織態勢をとってこなかった管理者を含む被告の組織全体の問題である」との指摘も行っている。
 本判決は、レバレッジリスクの説明義務違反に関する限りは極めて正当な判断を行っており、後に続く同種訴訟においても、同様の判断による被害救済が果たされることが期待される。但し、本判決は、最も分かりやすい問題であるレバレッジリスクに注目するあまり、原告らが説明義務違反に先立つ違法要素として主張していた適合性原則違反に関する判断を全く行っておらず、レバレッジの点をも一要素とした本件ファンド全体の説明義務の問題も検討していない。にもかかわらず、本判決は、原告らの個々の属性等を全く検討することなく、本件の損失にはレバレッジリスクとは無関係の不動産価格の下落による損失も含まれていることや、高利回りを期待してリスクの高い不動産投資を行ったこと自体が原告らの過失であることを理由に、3割の過失相殺を行っており、この点に関しては大いに問題があると言わざるを得ない。