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解    説

■判  決: 大阪高裁平成22年10月12日判決

●商  品: 仕組債(為替連動債)
●業  者: 野村證券
●違法要素: その他(錯誤無効)
●認容金額: (証券会社からの4272万2741円の請求を棄却)
●過失相殺: −
●掲 載 誌: セレクト38・155頁、金融商事判例1358・37頁、金融法務事情1914・68頁
●審級関係: 大阪地裁平成22年3月30日判決の控訴審、上告受理申立


(事案の内容及び一審判決の内容は、一審判決の解説を参照されたい。)
 本判決も、一審判決と同様に、為替連動型仕組債の購入に関し、顧客の錯誤無効の主張を認めて、証券会社からの購入代金の請求に関しての控訴を棄却した。その理由としては、一審判決の判断がほぼそのまま維持されているが、さらに本判決は、「補足説明」との表題を付して、以下のような注目すべき判断を付加している。
 まず、本判決は、本件仕組債の商品特性について、証券会社側が「広く一般投資家に浸透しており、デリバティブ取引を組み込んだ特殊な商品ではない」と主張していたのに対し、「対米ドル又は対豪ドルのいずれかの関係で円高傾向が続く場合には、当初1年間は高率の利息を受け取ることができるが、その後、最長30年間償還されず、わずかな利子を受け取ることができるだけで長期間資金を拘束され、しかも、30年後の償還額は外貨で算出されることから、為替相場及び金利水準によって、大幅な元本毀損のリスクが生じうる(この場合、1審被告野村證券の関連会社である発行体は有利に資金調達ができるという利益を得る)。さらに、本件仕組債について、市場取引は想定されないため、本件仕組債を途中売却する場合には、期待収益によって算出される理論値より更に買い叩かれるリスクがある。以上によれば、本件仕組債は、為替相場や金利水準によるリスクを回避するために開発された金融派生商品であり、本件仕組債を購入した者は、それによって、為替相場や金利水準によるリスクを負担する(逆の場合には、限界の設定されたリターンを得る)ことになるが、通常の社債と異なり、市場での売却が著しく困難であるため、購入者は、償還期限までの為替相場及び金利相場の変動状況、さらに、発行会社や保証会社の存続可能性を見越して本件仕組債に組み込まれた償還条件や利子の条件が有利であるか否かの判断を要することになる。」とした上で、「本件仕組債は、償還期限が30年後とあまりに遠い将来であり、しかも、その購入代金が5000万円という高額であるため、上記の判断を相応にすることは、個人の一般投資家にとって、著しく困難であるというほかない。」との判示を行っている。
 次に、本判決は、錯誤無効の争点に関しても、証券会社が作成していた説明資料では、通常の個人投資家が本件仕組債の条件を正確に理解できるとは言えないとした上で、担当社員らの説明内容について、「本件仕組債を勧誘する際、為替相場が円安ドル高方向に進むことを詳細に説明し、「年15%、10年で150%で回る」と述べて、確定利息の有利さを強調し、「株式は上がったり下がったりするので一つくらいこういうものを持っておくのもいいのではないか」と述べて、本件仕組債が株式より安定した商品であるかのような誤った情報を提供しており、円安に推移すると予想しその旨述べていた一審原告に対し、逆に、円高に推移した場合のリスクを理解させるに足りる説明をしたとはいえない。」との認定を行い、さらに、本件仕組債は、上記のとおりの特性を持った商品であったにもかかわらず、顧客には電話で購入の意思表示をするまでの間に本件仕組債の内容やリスクを検討するに十分な時間的余裕が与えられなかったこと、顧客は、その日の夕方に改めて本件仕組債の内容について説明を受けて、認識していた内容と異なると述べてキャンセルを申し出ており、その後は、担当社員らから円安ドル高傾向に進むことを説明されても、本件仕組債についてのリスクについて説明がなかったことを一貫して述べていることを指摘して、「これらを総合すれば、一審原告は、本件仕組債を購入する際、本件仕組債の権利内容について錯誤に陥り、そのリスクについて理解しないままであったと認めるのが相当である。そして、この錯誤は、本件仕組債を購入するかどうかを判断する上で、最も、重要な事項についての錯誤であり、しかも、錯誤に陥っていたことは表示されていたと認められるから、本件仕組債を買い受ける旨の意思表示は、民法95条により無効である。」と結論付けている。
 一審判決の解説でも述べたとおり、本件の一審判決自体が先例的価値を持つ画期的な判決であったが、さらに本判決は、単に一審判決の判示内容を維持するだけではなく、為替連動型仕組債の構造的な問題点に踏み込んで個人の一般投資家には投資判断が著しく困難な商品であることを明らかにし、誤った情報提供による仕組債勧誘の実情を改めて積極的に認定した上で、錯誤無効を認めているもので、高裁レベルでかような判断がなされたことの意義は極めて大きいと言える。(但し、本判決は、一審判決が認容していた説明義務違反による損害賠償請求部分については、取引が無効である以上は不法行為としての損害は発生していないとの論法で、これを排斥している。この部分の請求額自体は少額であり、しかも、改めて預託金返還請求が行われれば足りる問題とも言えるので、かような判断部分が本判決の価値を失わしめるわけではないが、このような「取引が無効であるから損害は発生しない」との論法には、疑問があると言わざるを得ない。)