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解    説

■判  決: 大阪地裁平成22年5月12日判決

●商  品: 株式
●業  者: 高木証券
●違法要素: 適合性原則違反、説明義務違反、過当取引
●認容金額: 493万4957円
●過失相殺: 2割
●掲 載 誌: セレクト37・37頁
●審級関係: 大阪高裁平成22年10月29日判決で認容額増額


 事案は、身体の障害で車椅子での生活を余儀なくされ、本件取引の頃から抑うつ状態との診断を受けて通院もしており、収入は年金のみであった無職の男性が、判決の認定によれば金融資産は800万円程度の預金しかなかったにもかかわらず、平成12年4月以降の株取引(同14年9月からは信用取引を開始)によって、700万円を超える損失を被ったというものである。
 判決は、最高裁平成17年7月14日判決に基づいて適合性原則違反の一般論を述べた上で、信用取引のリスクの高さを指摘し、他方で、顧客の上記のような属性に加え、顧客は信用取引開始までに株式取引経験を多く積んでいたわけではなかったこと(約2年4ヶ月で20銘柄を購入したが売却は1銘柄のみであったと認定されている)、約800万円の預金は将来の生活資金として必要な財産であったこと、顧客の投資目的は中長期的に株式を保有して安定的に財産を増やすことにあったこと(証券会社側は、取引開始後に短期的な利益獲得目的に変わったと主張していたが、判決はかかる主張を排斥している)、信用取引開始後すぐに取引全体が信用取引に傾斜していき平成15年5月以降はほぼすべての取引が信用取引となり、同月から同年9月初めまでに約90回に及ぶ取引(新規取引)が行われており、このような取引は顧客の投資意向と全く異なること、しかもこれらの取引は担当社員の主導によってなされたことなどから、適合性原則違反を肯定した。
 次に判決は、信用取引開始時に説明書が交付されたとは認められず、取引の仕組みやリスクについて顧客に十分に理解させるだけの説明はなされていないとして、説明義務違反を肯定した。
 さらに判決は、上記のような信用取引の内容や、売買回転率の高さ(平成15年は13.928、同年5月から9月に限ると19.753)から、取引の過当性を認め、個別の取引につき顧客から注文を付けることはあったとしても全体としては担当社員が取引口座を支配していた実情が認められるとして、本件信用取引は過当取引として違法となるとした。
 以上により判決は、信用取引によって生じた損失について不法行為による損害賠償を認めた(過失相殺2割・現物株取引については違法性を認める根拠がないとされた)。