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解    説

■判  決: 大津地裁平成21年5月14日判決

●商  品: 仕組債(株価連動債・EB、日経平均連動債)、投資信託
●業  者: 国際証券(現・三菱UFJ証券)
●違法要素: 適合性原則違反
●認容金額: 2369万6491円
●過失相殺: 4割
●掲 載 誌: セレクト35・104頁
●審級関係: 控訴審で和解成立

 本件は、大卒で栄養士資格を持ち、病院でアルバイト勤務をしていた主婦が、夫が単身赴任中であった平成11〜12年に、自己名義及び子や母親の名義で、勧誘を受けて行ったEB(対象銘柄はNTTドコモ、ソニー、フジテレビ、ローム・株式償還され、投資家はそれらの株式を保有し続けていた)、日経平均連動債(ドイツ銀行発行・無事に償還される都度、次の商品が買い付けられて最後に損失が生じた)、投資信託(グローイングエンジェル、エンジェルファンド、ガロア、メロングローバル)の一連の取引によって損失を被った事案である。
 まず、判決は、本件で問題となった各投資信託の商品内容を具体的に認定した上で、積極的な運用を投資方針としていることや投資対象、高率の申込手数料及び信託報酬を指摘するなどして、これらの投資信託について「元本損失が生じる可能性の高いハイリスクな商品であり、上記のような高率の申込手数料及び信託報酬を負担してでも相当な利益を得ることを目指す、積極的な投資意向に適合する投資商品と認められる」とした。また、EB及び日経平均連動債についても、利益は利金の限度であるのに対し株価が下落した場合は利金程度にとどまらない損失を被る可能性があること、期限前償還条項があるため、株価がどのように変動すればどのような利益を得られるのかの判断は容易ではないこと、流通市場が確立しておらず原則として途中売却できないこと、高率の利金の交付が予定されていること自体、その反面としてリスクが大きいことを示していること、を指摘した上で、「本件EBを購入すべきかどうかを決定するに際しては、そのリスクとリターンの仕組みを的確に理解し、経済や株式市況の動向に関心を払い、6か月先(ドコモEBについては1年先)までの株式市況の動向を予測して、途中売却ができないというリスクを負担してでもなお、購入すべきかどうかを検討する必要があるというべきであり、本件EBは、そのような投資判断が可能な投資家に適合する投資商品と認められる」「本件日経平均連動債を購入すべきかどうかを決定するに際しては、そのリスクとリターンの仕組みを的確に理解し、経済や株式市況の動向に関心を払い、5年先(本件日経平均連動債Aの場合)ないし3年先(本件日経平均連動債Bの場合)までの株式市況の動向を予測して、途中売却ができないというリスクを負担してでもなお、購入すべきかどうかを検討する必要があるというべきであり、本件本件日経平均連動債は、そのような投資判断が可能な投資家に適合する投資商品と認められる」と判示した。
 他方で、判決は、投資家は相続等によって本件取引開始時点で約7000万円の預貯金を有していたと認定し、投資経験については、過去に株式投信や株式の取引を行ったことが何度かあったものの、株式については、その動機や銘柄などから、さしたる投資経験とは言えず投機的な取引とはいえないとし、投資信託についても、積極運用のものもあったが本件で問題となる商品のようなハイリスクな商品に投資した経験はなく、しかも本件取引まで約9年間、投資信託取引を行っていなかったことから、かような取引経験を重視できないとした。さらに判決は、投資家の投資意向につき、過去の取引内容等から、自発的に投資取引を行う意向を有しておらず、仮に投資取引を行うとしても、資産の安定的な運用を望んでいたと認定し、投資取引の知識についても、投資家は本件取引時点においても経済情勢に応じた投資取引を行うため必要な知識を有していたとは認められないと認定した(なお、投資家名義の口座の顧客カードには値上がり益指向重視型との記載があり、子の名義の顧客カードにも「成長も加味した値上がり益指向」の欄にチェックがあったが、判決は、前者は被告証券会社の電磁記録であっていつどのような情報に基づいて記載されたかが全く明らかでないこと、後者のチェックは投資家ではなく担当社員が行ったものであること、を指摘して、これらの記載は上記認定を左右するものとはいえないとした)。加えて、判決は、取引の経緯を具体的に検討した上で、投資家が「損はしたくない」とよく述べていたにもかかわらず、本件取引の内容は、担当社員の積極的な勧誘によって、ハイリスクな商品に積極的かつ多額の資金を投入するものとなっていたことを指摘し、かつ、担当社員が、本件取引の勧誘に際して、投資家の投資経験や財産状況を十分に把握しておらず、投資意向についても、投資家に尋ねたことがなかったことをも指摘した。
 以上に基づき、判決は、最高裁平成17年7月14日判決以来、完全に定着した適合性原則違反の違法要件を述べた上で、「○○(注・担当社員)は、原告の意向と実情に反し、明らかに過大な危険を伴う取引を、原告の意向と実情を十分把握することなく積極的に勧誘したもので、○○による本件商品の勧誘行為は一連のものとして、全体として原告に対する適合性原則違反の不法行為を構成」するとした(説明義務違反も主張されていたが、この点を判断するまでもなく不法行為が成立するとされた)。
 上記最高裁判決以降、「一連の勧誘行為による全体としての適合性原則違反」の法理が定着しつつあるが、本判決は、これも複数の投資信託や日経平均連動債が対象であった大阪高裁平成20年6月3日判決と同様の判断枠組みによって、ハイリスク型投資信託や株価連動の仕組債の商品特性とリスク及び適合性に関する問題を的確に指摘した上で、これに顧客の属性をはじめとする諸事情を加えての総合判断を行って、一連の勧誘行為による全体としての適合性原則違反を認めており、大いに意義がある判決であると言える。