[検索フォーム]
解    説

■判  決: 東京高裁平成21年4月16日判決

●商  品: 社債
●業  者: 野村證券、国際証券(三菱UFJ証券)
●違法要素: 説明義務違反
●認容金額: 22万3620円、20万8290円(野村證券分)、70万0040円、17万3432円(国際証券分)
●過失相殺: 3割、3割(野村證券分)、7割、7割(国際証券分)
●掲 載 誌: 判時2078・25頁、セレクト34・417頁
●審級関係: 高裁逆転勝訴・敗訴した顧客1名が上告及び上告受理申立を行ったが不受理及び棄却により確定


  本判決は、東証一部上場企業であるマイカルが平成13年9月に破たんしたことによってマイカル発行の社債や転換社債について生じた損害に関し、一般投資家が販売証券会社に対して東京、名古屋、大阪で提起した集団訴訟の大阪高裁平成20年11月20日判決に続く控訴審判決であり、一審では各地とも投資家全面敗訴であったが、大阪高裁判決と同様、一部逆転勝訴となった。但し、大阪高裁判決が一部の投資家との関係で認めた格付け等に関する具体的な信用リスクの有無と程度の説明義務違反は否定されてしまっており、この点においては大いに問題がある判決であると言わざるを得ない。(以下、一部勝訴部分の判示内容のみを紹介する。)
 まず、本判決は、日本証券業協会が発表していた気配値(基準気配)と相当の乖離がある価格(1人は気配値88円49銭に対し97円40銭、1人は気配値89円78銭に対し97円79銭)により社債販売が行われた2つのケースについて、気配値は、本件社債を購入するか否かを決定する上において重要な事項であったとして、説明義務違反を認めた(但し、気配値と購入額の差額だけが損害と認められた)。なお、証券会社からは、気配値は店頭売買の参考とされるに過ぎず販売価格は各証券会社が複雑な諸要素を考慮の上で独自に決定すべきものであるとの反論がなされていたが、本判決は、そうであるとしても、勧誘を受けた顧客が気配値を知ることは通常は困難であり、気配値を告げることが要求されるだけであってその数値によって取引をすべきことまでが要求されるわけではなく、数値を告げた上で「複雑な諸要素を考慮」したことを説明して顧客の了承を得るべきであるとして、かかる反論を排斥している。気配値と実際の販売価格の著しい乖離という問題を説明義務違反として処理し、違法性を認めている点は、相対での金融商品取引の公正さや適正さの確保に関して、極めて有益であると思われる。(以上、野村證券分)
 次に、本判決は、平成12年10月に第27回債を購入した後、平成13年4月に買い増しとして既発の第26回債が買い付けられたケース(投資家は母と子の2名で子が母の代理人も兼ねて取引を行っていた)について、説明義務違反を認めた。具体的には、本判決は、投資家は第27回債購入後の価格下落について担当社員から「本社も下がっている理由が分からない」「経営が苦しくなっているといううわさで下がっているだけで、うわさも何か月かすればおさまるのではないか」との趣旨のことを言われたことから、価格が80円位にまで下がったら買い増しをして90円位に回復したら全部を売却して損失の発生を防ごうと考え、担当社員にその旨を伝えて、80円位になったら教えてほしいと頼んでいたところ、平成13年5月に80円位になったとの連絡を受けたため購入に至ったと認定した。その上で本判決は、第27回債を投資家に販売した担当社員としては、販売後にマイカルでは重要な経営状態の変更があったのであるから、少なくとも平成13年1月に社長の辞任発表や、従前の再建計画を断念しての新たな新経営再建計画の発表があったこと、平成13年2月期の決算内容(従前よりさらに悪化していた)、これらに伴い格付けの低下が予想されたこと(ある指定格付機関が格付け見直しに着手したことを発表していた)を、投資家に告げるべきであったとし、これらを告げずに第26回債の購入に応じた点で説明義務違反があるとした(投資家が以上の事情を既に知っていたとかそれにもかかわらず価格が回復すると考えてあえて第26回債を購入したことを認めるに足りる証拠はないとされた)。なお、本判決は、総論部分においては「証券会社である被控訴人らは、信義則上、老齢者や高齢者で理解力の劣る者や投資資金が老後の生活資金である者等投資不適格者に対しては本件各社債を購入しないよう指導助言すべき義務があり、また、購入した本件各社債について継続的な指導助言を受けることができる権利ないし利益があると認められる控訴人に対しては、本件各社債の購入後といえども、指導助言をなすべき義務(購入後の指導助言義務)がある」との判示を行っているところ、上記ケースは、第26回債について担当社員が積極的な勧誘を行ったわけではない中で先行する第27回債の勧誘、販売との関係において「購入に応じる際の説明義務」が問題とされていることからして、実質的には指導助言義務(上記判示内容との関係で言えば「購入後の指導助言義務」)が認められているとも言え、この点において上記判示内容は、最高裁平成17年7月14日判決の補足意見で示されて以来発展を続けている指導助言義務を普通社債にまで及ばせたものとして高く評価することができる。(以上、国際証券分)
 なお、上記のいずれについても、購入時(購入代金支払時)からの遅延損害金が認められている。