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解    説

■判  決: 津地裁平成21年3月27日判決

●商  品: 投資信託、株価連動債(EB)、外債、社債
●業  者: 岡三証券
●違法要素: 説明義務違反
●認容金額: 359万1580円
●過失相殺: 8割
●掲 載 誌: セレクト33・83頁
●審級関係: 控訴

 本件は、勤務先を定年退職し、本件取引開始時に退職金を含めて約3000万円の資産を有していた男性が、平成10年に電車内の広告を見て近鉄社債を購入するため被告証券会社を訪れたのを契機に(それまで取引経験は全くなかった)、担当社員の勧誘によって、社債や投資信託、外債、EBの取引を繰り返すこととなり、口頭弁論終結時の含み損を含めて約2111万円の損失を被った(投資信託の分配金等を控除した後の損失額は約1645万円と認定されている)という事案である。
 判決は、資産面からすると本件取引は適合性を欠いていた疑いがあるとし、また、多くの投資信託の取引が「RR4以上の値上がり益を追求した危険な取引であった」ことや1年間の平均売買回転率が2.62257回で、乗換売買も行われており、その規模・回数は、取引期間から考えても多いとしつつ、顧客の属性や投資意向が積極的であったことなどを指摘して、適合性原則違反や過当売買等の違法を認めなかった。
 しかし、判決は、説明義務違反については、各商品の販売の都度、受益証券説明書ないし目論見書とお客様用資料を用いての説明が行われていたと認定しつつも、取引全体及び個別取引における説明不足の問題を幾つも指摘して、「被告は、原告が自己責任をもって取引を行うことができるだけの取引に伴う危険性についての説明をすべき信義則上の義務を果たしたということはできない」として、本件取引全体が説明義務違反となることを肯定した(但し、投資家にも一般論として危険性の認識があったはずであることや、損失拡大防止についての落ち度が強調されて、8割の過失相殺が行われた)。
 判決が説明義務違反を肯定する要素として指摘した主な点をあげれば、以下のとおりである。
 まず、判決は、担当社員自身が説明資料に記載された専門用語を十分に理解しないまま説明していたことを指摘し、セールストーク以上に具体的な運用方針やそれに伴うリスクがどのようなものであるかについて十分説明できていたかどうかは甚だ疑わしいとした上で、「60歳以降の運用スタンスとしては、退職後の老後の生活設計を考えて、リスクの高い商品は避けると言われているにもかかわらず、RR4、RR5に分類されている金融商品の取引を多く行っていたが、これは、被告から原告への危険性に関する説明が十分になされていなかったことも理由になっているものと考えられる」としている。また、判決は、手数料と短期売買との関係について、本件取引のほとんどが短期取引であったことを指摘した上で、本件取引当時の経済情勢からして長期投資が原則であったとは言えないとの被告証券会社の主張や担当社員の証言に対し、かかる見解を一概に否定することはできないとしつつ、「しかしながら、短期投資で大きな利益を得ようとすれば、必然的に危険性も大きくなってしまうし、それを避けて堅調な取引を数多く行えば、手数料の負担が大きくなり、それを上回る利益を出さなければならなくなるのであり、そうだとすると、結局、被告が考えるような取引形態は、一般投資家にとって、決して危険の少ない取引ということはできない。一般投資家にとっては、長期保有を原則とした方が、少なくとも手数料の負担は少なくてすむという意味において、危険性は少なくなるということができるのであり、このような観点から、一般に長期保有が原則であると言われているとも考えられる」と述べ、「そうだとすれば、被告がこのように、一般的に言われているところと異なる考えを持って投資勧誘するのであれば、被告の担当者としては、そのことを十分に顧客に説明する義務があるというべきであるが、○○(注・担当社員)が、原告に対し、特に、そのような点を配慮したとうかがえるような事情はない。そうすると、○○の証言をふまえたとしても、原告に対する説明は不十分であったといわざるを得ない。」としている。さらに、判決は、取引途中に顧客が被告証券会社の書類に記載した投資意向(利子・配当と値上がり益のバランスを重視)との関係で、その時点で保有していた値上がり益追求型の商品は原告の投資意向にそぐわないものであったことを明確に伝えて、値上がり益を追求する投資意向とするのか、投資対象を変更するなどといった対応をとるべきであったのに、この点について何ら説明が行われていないことを指摘している。加えて、判決は、個別取引についても、丸紅社債につき2つの格付機関が格付けを下げていたこと(但し投機級の格付けではなかった)は、一般に購入あたっての重要な判断材料であったのに、何ら伝えられていなかったこと外債取得後に円高が進行していたのに注意喚起が行われた様子はうかがえず、さらに外債の勧誘が行われていたこと、ハイリスクの投資信託について、リスクの高い商品であることの注意喚起した説明をした様子まではうかがえないこと、分配金の実績や短期売却との関係について詳細な説明が行われていたかは定かではないし、一時的に分配金が取得できてもそれがどの程度継続するかは定かではないことや基準価額が下落すると結局は損失が出ることも十分考えられることなどについて注意を促した事実もうかがえないこと、を指摘している。
 なお、被告証券会社からは時効の主張も行われており、判決は、不法行為構成については時効が成立していることを認めたが、債務不履行構成(判決は「本件証券取引委託契約に付随する信義則上の説明義務違反に基づく損害賠償請求」と位置付けている)については、時効期間は10年であるとし、また、仮に商事時効期間の5年としても本件取引の最後の売却時点が起算点となるため時効は成立していない、とした。
 適合性原則違反や過当売買等についての判示内容及び過失相殺については大いに問題があるが、説明義務違反に関する詳細な判示内容は極めて適切であり、今後の同種事案において参考とされるべきものと言える。また、大阪高裁平成12年5月11日判決以来の、時効期間を10年とした判示部分も、注目に値する。