[検索フォーム]
解    説

■判  決: 大阪地裁平成19年10月17日判決

●商  品: 株式、投資信託
●業  者: SMBCフレンド証券
●違法要素: 適合性原則違反
●認容金額: 503万5773円
●過失相殺: 8割
●掲 載 誌: セレクト30・123頁
●審級関係: 大阪高裁平成20年3月25日判決で維持、上告等の却下等により確定


 本件の投資家(取引開始時67歳)は、大手上場企業A社において主に海外関係や輸出業関係の業務に携わった後、定年退職しており、A社の持株会でのA社株の取得以外には証券取引経験はなかった。しかし、投資家は平成10年以降、商品先物取引被害に遭い、この取引でA社株も失うこととなった。投資家は、かかる被害について訴訟を提起し、和解により被害額の大半を回復できる状態に至ったため、その和解金で改めてA社株を購入することとし、本件の被告証券会社との取引を開始し、当初はA社株の取引だけを行っていた。ところが、次第にリスクの高い取引が行われるようになり、とくに平成15年8月からは短期乗換売買が繰り返され、対象銘柄も材料株や仕手株、新興市場株や二部上場株が多くなって、多額の損失が発生した。
 判決は、全体として、投資家が十分な社会経済上の知識や判断能力を有し、商品先物取引被害によって金融商品取引で多額の損失を被るリスクがあることも理解していたこと、各取引につき投資家の承諾があったことや取引報告書や説明書、確認書をはじめとする各種書類の送付や徴求が行われていることを強調した上で、過当取引については投資家の意思に反した取引でなかったこと、説明義務違反に関しては投資家の判断能力等に照らし説明に不足はなかったことを主たる理由に、投資家の主張を排斥した。これらの判示内容は、「承諾した以上は自己責任、確認書を書いた以上は自己責任」といった、十数年前の偏った自己責任論を彷彿とさせるものであった。
 ところが判決は、適合性原則違反についてだけは、別人のような判示を行っている。すなわち、判決は、最高裁平成17年7月14日判決を引用して、同判決が示した要件に沿った検討を行い、まず、取引対象となった商品等の具体的特性及び本件取引全体の特性については、信用取引や2部上場株及び新興市場株、ブルベア投信やPCA米国高利回り社債オープン(米国のジャンク債を運用対象とした投資信託)のリスクの大きさを認め、取引全体としても短期的に頻繁な売買が行われて多額の手数料負担が生じたことを指摘して、「本件取引は、主にリスクの大きい金融商品を対象としており、その中には投資経験の浅い者にとっては相場の変動を予測することが困難な金融商品も含まれているとともに、顧客の及ぼす手数料負担が大きいことから、売買により相当な利益を上げなければ顧客が取引損を被ることになるという特性を有していた」「したがって、本件取引は、全体として、顧客が利益を得るには相応の投資経験・知識を必要とする取引であり、積極的な投資意向を有する顧客に適した取引であった」とした。次に判決は、投資家の属性について、前記のとおり投資家に十分な社会経済上の知識や判断能力があり、投資には多額の損失が生じるリスクがあることも理解していたとし、財産状況を見ても投資資金に乏しかったとは認められないとしつつも、株式や投資信託の取引に精通していて相場変動の要因等について高度の知識を有していたとは認められず、その投資意向はA社株の購入を目的としたもので積極的な投資を行う意向を有していなかったとした。そして判決は、このような投資家を上記ハイリスクな金融商品の取引に導いた担当社員の勧誘行為は、適合性の原則から著しく逸脱したものとして、不法行為法上違法となると判示した。なお、判決は、投資意向に関し、投資家は次第に投資に対する積極性を有するに至ったと認定したが、これは担当社員から多種のハイリスク商品の勧誘を受けたことの影響であるとして、あくまで取引開始時の投資意向を適合性判断の基礎としており、この点は実に正当である
 全体としては偏った姿勢が見受けられる判決であって過失相殺が著しく高率である点も不当であるが、それでも、最高裁判例が存在する適合性原則に関してだけは丁寧な認定、判断が行われており、かような偏った裁判所の説得には、明文法規や最高裁判例への地道なあてはめ作業が重要であることを示唆する判決であると言える。