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解    説

■判  決: 大阪地裁平成19年7月26日判決

●商  品: 投資信託、仕組債(株価連動債・日経平均ノックイン債)
●業  者: 野村證券
●違法要素: 説明義務違反
●認容金額: 1404万8699円
●過失相殺: 7割
●掲 載 誌: セレクト30・217頁
●審級関係: 大阪高裁平成20年6月3日判決で認容額増額、確定


 事案は、昭和13年生まれの歯科医(但し本件取引時は母親の看護や家事に専念していた)であり証券取引経験のなかった女性が、平成11年12月以降、勧誘によって、養父が被告証券会社に預託していた株式(すべて一部上場株)を売却させられ、株式投資信託や日経平均ノックイン債等の買付を行って、損失が生じたというもので、原告は、6種類の投資信託(フィデリティジャパンオープン、日本株戦略ファンド、ジャナスグローバルテクノロジーA、ジャナスグローバルライフサイエンスA、ファンドR&R、フィデリティ中小型オープン)と上記ノックイン債による損害につき損害賠償請求を行った。(なお、本来なら口座開設時の申込書に顧客の投資経験や投資意向が記載されるのであるが、本件においては、原告名義の口座は10年以上前に養父によって開設されており、その際の古い申込書には上記のような記載はなく、他に本件取引時点における原告の投資経験や投資意向が記録された書類は提出されないままであった。)
 判決は、適合性原則違反については、原告には相当の資産と十分な判断力や理解力があったとし、また、本件取引の間に多額の株式や公社債投資信託を購入していることから一定の投資意欲や投資経験の蓄積はあったとして、これを認めなかった。しかし、説明義務違反については、一般論として「投資の適否について的確に判断し、自己責任で取引を行うために必要な情報である、当該商品の仕組みや危険性等について、当該顧客がそれらを具体的に理解することができる程度の説明を、当該顧客の投資経験、知識、理解力等に応じて行う義務を有する」と述べた上で、以下のような判示を行ってこれを認め、不法行為ないし債務不履行が成立するとした。
 すなわち、まず、判決は、上記各商品の商品特性を検討して、本件各投資信託は比較的リスクの高いもので一般の顧客が上場株式の取引をする場合よりも収益の予測が難しいこと、本件ノックイン債は仕組みが複雑である上に償還について日経平均株価の変動リスクを伴う商品であってやはり収益の予測が難しいことを認めた。他方で、原告にはもともと投資経験がなく、一定の投資意欲はあるものの投資意向は必ずしも高いものではなかったとし、にもかかわらず、担当社員は原告の投資経験や投資意向を確認することもなく、「収益(リスク)に影響を及ぼし得る事項」(当該投資信託の具体的な運用対象や投資方針が挙げられている)の具体的な説明を行わずに株式投資信託の勧誘を行ったこと、これによって原告は養父の遺産たる前記株式の売却代金にていきなり5000万円もの大金を投じての買付を行うに至ったこと、その際に原告が不安や疑問を述べた形跡はないことから、原告はかかる投資信託のリスクを具体的に理解していなかったと判示した。そして、判決は、以後に買い付けられた各株式投資信託についても、その取引経緯や取引額、担当社員の説明内容と原告の反応(不安や疑問を述べていたか)を子細に検討し、原告は各取引のリスクを具体的に理解していなかったと認定した。
 また、判決は、ノックイン債についても、もともと投資意欲が高くなく、母の付き添い看護で忙しい時期にあった原告が、勧誘された当日に、当時は日経平均株価の変動予測が困難な時期であったにもかかわらず、さして検討を加えないまま、何ら不安を述べずに自宅売却代金から4000万円も注ぎ込んで購入に及んだ事実から、原告が仕組みやリスクについて具体的に理解した上で購入したものとは言えないとした。
 次いで、判決は、各商品の目論見書やパンフレットの交付と一応のリスクの説明は行われていたと認定したが、その説明の程度は、原告にリスクの内容を具体的に理解させるだけのものではなかったとした。さらに、判決は、担当社員が原告の投資経験や投資意向を確認しておらず、しかもこのような状況下で次々にハイリスク商品を勧誘した際、原告が具体的な質問もせずに勧められるままにこれに応じていた事実から、担当社員は原告がリスクについて具体的な認識や理解をしていないことを認識できたとし、また、担当社員が原告の経験や意向を十分確認していれば原告の能力や理解度に応じて徐々にリスクの高い投資商品へ移行したり投資額を増やすといった対応ができたし、そうすべきであったとして、以上の認定に基づいて、説明義務違反を認めた。(但し、一応の説明があったのに原告が熟慮することなく各商品を購入し、送付を受けた報告書等にも目を通していなかったことや、原告の属性、本件各取引の前後の多額の株取引等による経験の蓄積が重視されて、7割の過失相殺が行われた。)
 適合性原則違反が否定された点や高率の過失相殺は問題であるが、原告の経験や意向と取引の内容や経緯を比較して、原告の理解の程度やこれについての担当社員の認識を丁寧に認定した上で、「相当の資産と十分な判断力や理解力があった」とされる顧客との関係において、株式投資信託や日経平均ノックイン債についての説明義務違反が認められた点には、意義があると言える。