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解    説

■判  決: 東京地裁平成18年3月6日判決

●商  品: 仕組債(株価連動債・EB)
●業  者: 国際証券(現・三菱UFJ証券)
●違法要素: 適合性原則違反、説明義務違反
●認容金額: 722万5000円
●過失相殺: なし
●掲 載 誌: セレクト27・269頁
●審級関係: 控訴

 本件は、問題の取引が行われた平成12年当時86歳であって、聴力に問題があった投資家が、税制変更との関係でいわゆるクロス取引(保有している株を一旦市場で売却して市場で買戻す取引)を行うため株の売却を行ったところ、当該株の買戻しが行われないまま、売却代金によって他の株やEBの無断売買が繰り返されたとして、主位的に預託金返還請求、予備的に損害賠償請求(損害額約2264万円)が行われた訴訟である(なお、投資家は既に死亡しており、本件に関する権利の遺贈を受けた親族が原告となって訴訟を提起したため、原告適格も点の1つとされた)。
 判決は、原告の無断売買の主張を排斥し、EB以外の取引については損害賠償請求も認めなかったが、EBについては、大阪地裁平成15年11月4日判決と同様の総論を述べた上で、適合性原則違反及び説明義務違反を肯定し、過失相殺を行うことなく原告の請求を認容した。
 判決は、まず、EBの基本構造につき、「株式プットオプションを売却した場合と近似した効果をもつ」とした上で、上記大阪地裁判決とほぼ同様の判示を行い、「一見しただけでは比較的安全性の高い商品であるとの誤解を招きやすいと考えられ、本件EBに内在する危険性は相当高いものであったというべきである」と述べた。その上で、一般投資家がEBの買付を自己責任において決定するには、第1に、株価が計算日に一定額を下回れば、EBの額面金額より低い株価の対象株式を引き受ける義務を負い、差額相当の評価損を被るリスクがあること、第2に、途中売却できないため、かかる評価損の軽減ないし回避ができないこと、第3に、クーポンは株式償還リスクの対価であるという点を具体的に理解することが必要であり、かかる理解ができない者はEB購入者としての適合性を欠くとした
 そして判決は、投資家には過去に現物株や外国債券、投資信託の取引経験しかなかったこと、投資家の年齢、学歴、職歴(工業高校卒業後、一貫して技術関係の仕事に就いていた)から、EBは投資家にとって適合性を欠くものであったとし、さらに、担当者が上記事項を説明した形跡はないとして、説明義務違反を肯定した。なお、投資家はEBの説明書を受領し、確認書を差し入れていたが、判決は、その内容は通読すれば理解が可能というものではないことや、購入希望者はとくに留意すべき点を指摘されるなどしない限り、担当者の説明に加えて自ら子細に説明書の内容を検討することは希であることなどから、かかる説明書は類型的に読まれることを期待しにくい体裁、内容のものであるとして、説明書交付をもって説明義務が尽くされたとは認め難いとした。(なお、過失相殺の主張は行われておらず、これについての判示も行われていない。)
 無断売買の否定やEB以外の取引の損害賠償請求に関する判示には問題があるが、EBに関し、初めて適合性原則違反が認められた点、過失相殺が行われなかった点において、注目すべき判決である。