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解    説

■判  決: 大阪地裁平成15年11月4日判決

●商  品: 仕組債(株価連動債・EB)
●業  者: 国際証券(現・三菱証券)
●違法要素: 説明義務違反
●認容金額: 100万5400円、13万3320円
●過失相殺: 6割
●掲 載 誌: セレクト23・327頁、判例時報1844・97頁、金融商事判例1180・6頁
●審級関係: 控訴審にて原審の認容額で和解成立

 原告は有限会社の経営者とその妻であり、証券会社との取引は、妻が担当者(女性)の勧誘に依拠して行っていた。過去の取引内容としては、株取引は勧誘を受けてのJR株の公募買付及び売却が各名義で各1回行われたのみであったが、平成8年頃からは、担当者の勧誘により、外債(デュアルカレンシー債を含む)や日経平均連動債、株式投信の取引も行われていた。
 その後、担当者の勧誘により、平成12年2月7日にNTTドコモ株を対象株式とするEB債が夫名義にて、同年9月26日には東芝株を対象株式とするEB債が妻名義にて購入された。EB債は、対象株式が下落した場合には、現金に代えて下落した株式で償還される仕組みの債券であったところ、上記各EB債は、いずれも対象株式の株価が下落して株式償還となり、原告らは株価下落による損失を被ったため、適合性原則違反及び説明義務違反を理由に、本件訴訟を提起した。
 判決は、まず、EB債の基本構造につき、「株式プットオプションを売却した場合と近似した効果をもつ」「EB購入者は株式プットオプションの売り手と同様の危険を負担する地位に立つと言っても差し支えない」とした上で、@リスクとリターンの非対称性(クーポンを上回る利益は得られない一方で、株価下落に応じた損失を被ることを指す)、A損失の回避可能性の欠如(購入代金は前払い、クーポンは後払いなので、期間中に代金相当額やクーポンを運用できず、途中売却もできないため、購入者は、期限到来前に損失を回避する可能性がないことを指す)、B利害相反(株価変動度合いの大きい商品を設計すれば、業者が利益を得る確率が高まる一方、株価下落のリスクは購入者のみに帰属する点を指す)といった特徴があることを指摘し、「かようなEBの商品構造は、後記のとおり、適合性ないし説明義務の内容に影響を及ぼすものといわなければならない」とした。
 次に判決は、上記のような点を踏まえて、「一般投資家にとっては、通常売却が容易でかつ元本割れがほとんどない円建ての社債のように見えるが、・・・(中略)・・・一見しただけでは比較的安全性の高い商品であるとの誤解を招きやすいと考えられ、このような一種誤導的な要素も勘案するならば、EBに内在する危険性は相当高いものであったといわざるをえない」と判示して、一般投資家がEB債の買付を自己責任において決定するには、@)株価が計算日に一定額を下回れば、EBの額面金額より低い株価の対象株式を引き受ける義務を負い、差額相当の評価損を被るリスクがあること、A)途中売却できないため、かかる評価損の軽減ないし回避ができないこと、の理解が必要であるとした。
 さらに判決は、EB債においては、構造上、株価変動度合いが高いほど業者の利益は大きくなり、クーポンも高くなることから、「通常の社債としての利率相当分を超えるクーポンは、下落した株式でEB購入者に償還されるというリスクの実質的な対価に他ならない」と指摘し、「一般投資家が、元本保証の商品と誤解し、あるいは元本割れのリスクを軽視し、クーポンの利率のみに目を奪われがちであることは容易に想定できる。このような一般投資家の誤解を防止し、EBに内在する危険を避けるために、高利率のクーポンは株式償還による元本割れリスクの対価であり、その大きさと連動することを理解することが必要不可欠であると考えられる。」と判示して、このことを前提に、上記の2つの事項の他に、B)クーポンは株価変動度合い等に応じて設定されている結果、株式償還リスクの対価となっており、これと連動していること、の理解が必要であり、かかる理解ができない者はEB債購入者としての適合性を欠くこととなるとした。
 そして判決は、適合性原則違反については原告らの過去の取引経験等からこれを否定したものの、説明義務に関しては、EBは非常に難解な構造を持つところ、上記の3点の説明がなければ一般投資家がその商品構造に由来するリスクを踏まえて自己決定することは期待できないとして、証券会社には、当該EB債の条件のみならず上記の3点を説明する義務があるとした。その上で、上記@)A)の説明はあったが、上記B)の点の説明はなかったとして、「原告○○が相当の取引経験を有し取引能力にも問題がないことは前記のとおりであるが、かような点に加えて後に目論見書等を送付していること等を考慮しても、上記事項についての説明が欠如すれば、本件ドコモEBのクーポンの対価として実際に負担することとなるドコモ株による株式償還リスクの程度を具体的に理解することはできないから」説明義務違反となると結論付けた。
 適合性原則違反の否定や大幅な過失相殺などの問題はあるものの、EB債についての初の投資家勝訴判決であること、商品構造に深く踏み込んだ検討によって、単に「株価が幾らに下がれば株で償還される」といった説明では足らず、商品構造に根ざしたリスクの程度をも理解させなければならないとした点において、先例的意義を有する判決であると言える。