[検索フォーム]
解    説

■判  決: 東京地裁平成17年7月25日判決

●商  品: 株式(信用取引)
●業  者: 日興證券
●違法要素: 説明義務違反
●認容金額: 487万8784円
●過失相殺: なし
●掲 載 誌: セレクト26・47頁、判例タイムズ1203・217頁、金融商事判例1227・56頁
●審級関係: 東京高裁平成18年3月15日判決で維持(但し損害額が変更されて認容額減少)


 事案は、原告が勧誘を受けてドンキホーテ株の信用取引(売建)を行ったところ、多額の逆日歩(判決の定義によれば「信用売り取引を行う際に場合により発生する、投資家が負担すべき信用売り株式の借り賃」)による予想外の巨額の投資コストが発生したというもので、逆日歩についての説明義務の有無が争われた。
 判決は、まず、「証券会社は、自らの顧客である個人投資家に対し、信義則上の義務として、その投資判断を誤らせないよう、その顧客の知識、経験等に応じて、取引の仕組みについて見落としがちな点や誤解しやすい点であって重要な事項について注意喚起するなど、投資判断に必要となる必要かつ十分な情報を提供すべき信義則上の義務を負う」とした。そして、判決は、原告は信用取引経験があるものの、プロの機関投資家ではなく、逆日歩の仕組みや投資判断に影響を与える場合のからくりについては、原告のような個人投資家は知らないのが通常であり、現に原告も知らなかったとし、また、担当社員は原告がこの程度の個人投資家であることを認識していたと判示した。続いて判決は、説明書等に逆日歩についての一応の説明はあったことや、逆日歩は発生しても通常は投資判断に影響を与えない程度のものであることから、勧誘時における逆日歩についての説明義務は否定したが、信用売りの取引開始後については、担当社員は前取引日の逆日歩に関する情報を容易に入手できたこと、本件での逆日歩は1日1株あたり18円(株価は8000円台〜9000円台であった)にも及んでいたことなどから、「顧客が機関投資家など信用取引の仕組みの細部に至るまで精通した者であることが明らかである場合を除き、証券会社の従業員は、顧客に対し、通常は生じないような巨額の逆日歩が発生したこと、逆日歩が当該投資家の投資判断に与える影響のからくり及び今後も当該銘柄の株式の逆日歩の動向に継続的に注意すべきことにつき情報の提供をすべき義務を負う」として、説明義務及びその違反による不法行為を肯定した。
 なお、具体的な情報入手は自己責任によって行うべきであるとの証券会社の主張に対しては、判決は、勤労者たる個人投資家が証券投資に必要な微細な情報を逐一収集し、分析することは困難であり、「これに代わって微細な情報の中から必要な情報を選択して顧客に提供することが、証券会社の一つの役割であり、義務である」として、これを排斥している。
 損害については、最初の売建後に高額の逆日歩の情報が知らされていれば、ドンキホーテ株について新たに信用取引の売りを繰り返すことはなかったとして、繰り返された売建による損失はすべて損害として認められ、最初の売建についても、高額の逆日歩が続いていることが知らされていれば取引の翌週の最終取引日には決済が行われたとみるのが合理的であるとして、この日に決済していた場合との差損が損害と認められた。過失相殺は行われていない。
 通常ではない事態が発生した場合の証券会社の注意義務の有無や程度、損害論の両面において、実に正当な判示が行われており、貴重な先例となるものと思われる。