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解    説

■判  決: 大阪地裁平成17年6月1日判決

●商  品: 投資信託、株式
●業  者: 日本アジア証券(旧商号・丸宏大華証券)
●違法要素: その他(危険連絡義務違反)
●認容金額: 2083万5991円
●過失相殺: なし・8割(投資信託)、4割(株式)
●掲 載 誌: セレクト26・111頁
●審級関係: 大阪高裁平成18年3月30日判決で維持(損害認定の変更により認容額減少)


 事案は、疾病のために平成12年に勤務先を早期退職した原告が、その前後に、勧誘を受けて合計1億2000万円近い代金で3つの投資信託を購入し、これらの投資信託の時価が下落して原告が担当社員に苦情を述べた後には、損失の回復を図るために勧誘による株式取引が行われ、結局は3つの投資信託について約6600万円、株式取引について約1000万円の損失を被ったというものであった。
 原告は、これらの取引においては、「下限10%」の約束で管理する旨の合意があったのに、担当社員はこれに違反したと主張した。これに対して判決は、10%を超えて下落すれば直ちに売却するという意味の合意の存在は否定したが、「下限10%」という話が出ていたことは認め、原告が10%を超えて下落した場合には売却を含めてどのような対策をとるか検討したいという意向を担当社員に明示していた旨を認定し、3つの投資信託が10%を超えて下落する危険が生じた時点において原告にこれを連絡し、売却するかどうかの判断をする機会を与えるべきであったと判示した。そして判決は、かような連絡が現実になされた時期(メールで足るか電話が必要か争いがあったが、判決はメールで足るとした)を認定し、この時期までは連絡義務の遅滞があったことを認めた。
 次いで判決は、株式取引につき、一任売買ないし実質的一任売買とは認められないものの、一般にはほとんど知られていない銘柄が多く含まれていることなどから、担当社員の判断により、原告がこれをそのまま受け入れる形で行われた売買であると認定した。そして判決は、かかる株式取引についても、前同様の「下限10%」の意向が告げられていたことを認め、かつ、個々の株式取引は担当社員の提案によってなされたもので、上記のとおり一般にはほとんど知られていない銘柄が多く含まれていたのに、その会社の業務内容や株価の推移、今後の見通しの具体的根拠等を原告に伝えていなかったのであるから、担当社員の情報によるのでなければ、売買についての判断ができない状態にあったとして、担当社員には、購入した株式が10%を超えて下落するおそれが生じた時ときは原告に連絡して速やかに売却の打診をするなどの適切な措置をとるべき義務があったと判示し、かような連絡は行われていなかったから、危険連絡義務違反があったとした。
 その上で判決は、投資信託、株式のいずれについても、1割を超えて生じた損失部分を原告の損害と認め、投資信託については10%の下落があった後、危険連絡が遅滞していた間の損害については過失相殺を行わず、その後に拡大した損害については8割の過失相殺を行った(危険連絡後に原告自身の判断で売却を行わなかったために拡大した損失についても、連絡があったときには既に10%を超える下落が生じており、その後回復を待つ間に損失が拡大したのだから、連絡義務違反との相当因果関係はあるとされ、過失相殺事由とされた)。
 危険連絡義務違反という特殊な注意義務違反が肯定された点で、その損害論も併せ、興味深い判決であると言える。但し、本判決は、適合性原則違反や説明義務違反、過当取引といった原告の主張を、何ら説得力のない判示内容で排斥してしまっており、この点には大いに疑問が残る。