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解    説

■判  決: 大阪高裁平成16年10月15日判決

●商  品: 株式(信用取引)
●業  者: 日興証券(現・日興コーディアル証券)
●違法要素: 過当取引
●認容金額: 3754万7476円
●過失相殺: 7割
●掲 載 誌: セレクト25・137頁
●審級関係: 

 事案は、主として安定株・優良株を中長期的に保有する取引を行っていた会社経営者たる投資家が、平成11年にAが担当社員になった途端に、極端な過当取引をなさしめられ、とくに光通信株の信用買付によって約1億5000万円の損失を被ったというものであった。一審では、取引の過当性や担当社員の悪意は認められながら、投資家の意思で取引が行われたとして、投資家全面敗訴となっていた。
 これに対して本判決は、まず一般論として、「証券会社が、顧客の取引口座について支配を及ぼし、顧客の信頼を濫用して、手数料稼ぎ等の自己の利益を図るために、顧客の資産、経験、知識や当該口座の性格に照らして社会的相当性を逸脱した過当な取引勧誘を行うことは、証券取引法33条(誠実公正義務)、43条1項(適合性原則遵守義務)、42条1項6号(一任勘定取引の禁止)の趣旨、同法161条(過当数量取引の制限)、過当取引制限省令1項、投資者本位通達1項(2)4ロ等に違反するのみならず、顧客に対する誠実公正義務に違反する詐欺的・背任的行為として、私法上も不法行為と評価される」とした上で、判断要素としては、従前の裁判例と同様、過当性・口座支配・悪意性の3要件を指摘した。
 そして本判決は、過当性については、夥しい取引回数や、資金回転率の高さ(Aが関与する以前の取引の45倍となる36.95回)、手数料率が30%以上であることを指摘し、「資金回転率が年6回であっても、投資資金の総体が2か月に1回回転することになり、一般的な個人投資家としては冷静な投資判断が明らかに困難であると考えられるところ、本件においてはそれをはるかに上回る36.95回に及んでいる上、多種の投資対象に対し、頻繁に複雑かつ不合理な取引がされているのであるから、従前の控訴人の証券取引の態様からしても、控訴人にとって過当性の要件を充足するのは明らかである」と判示した。また、口座支配性に関しては、「証券会社ないし外務員が、当該顧客の口座を実質的にその支配下に置き顧客の意思決定を排除して自由に取引できるような状況にある場合に限らず、投資家が自ら判断できる十分な情報を持たず、外務員から提供された情報があっても、それを分析し理解する状況になく、専ら又は主として外務員の判断に従う他ない状況にあるような場合にも、実質的には当該口座を支配しているものというべきである」とし、本件においてもAの主導で取引が行われたのは明らかであるとして、要件の充足を認めた。さらに、悪意性についても、本判決は、証券会社からのいくら手数料がかかっても利益が出ていれば問題ないとの主張に対し、「結果的に利益が出たとしても、手数料分だけ利益は圧縮されるのであって、被控訴人の立論は、顧客の利益を軽視するものというほかはない」と判示した上、本件における信用取引の金利や諸経費も加えた手数料率は31.8%となることにつき、「このことは、投資対象とした信用銘柄が平均31.8%以上上昇しなければ利益を出すことができないことを意味し、税負担も考慮すれば損益分岐点は更に高くなるのであって、平成11年、12年当時の経済動向を見れば、株価についてそのような高騰を期待すること自体著しく非現実的であって、手数料率を適正な範囲に収めることは、顧客の利益を考えれば当然考慮しておかなければならないところである」とし、以上に、出し入れ取引、日計り、手数料不抜け、因果玉の放置、難平等複雑かつ不合理な取引がなされていることや、2要件が充足されていることを併せ考慮すれば、悪意性の要件も認められるとした。
 但し、本判決は、過当取引の違法性の本質は、証券会社が顧客の利益より自己の利益を優先して過大な手数料を取得したことにあることを理由に、損害を証券会社が取得した手数料に限られるとし、さらに、7割の過失相殺を行った。
 過当取引の違法性に関する上記判示内容は極めて有意義であるが、損害につき、背任性を強調して手数料が損害であるとしつつ、そこからさらに高率の過失相殺を行った点は、著しく疑問である。(なお、同じ合議部が過当取引を認めた判決である大阪高裁平成16年11月5日判決では、取引全体が著しく不誠実であることを理由に、取引上の損失全体が損害と認められている。)