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解    説

■判  決: 大阪地裁平成16年5月28日判決

●商  品: 仕組債(株価連動債・EB、日経平均リンク債)
●業  者: 日本グローバル証券
●違法要素: 説明義務違反
●認容金額: 500万2714円
●過失相殺: 5割
●掲 載 誌: 金融・商事判例1199・24頁、セレクト24・163頁
●審級関係: 確定

 事案は、小規模な株式会社である原告が、会社の資金の健全な運用を投資意向とし、原則として株取引は行わないことを証券会社の担当者に伝えていたにもかかわらず、平成10年12月以降、EBや日経平均リンク債の取引が繰り返され、平成11年12月以降に購入した2つのEB(対象株式はDDI、ソニー)と日経平均リンク債について損失が生じたというものであった。
 判決は、まず、EBの購入者は対象株式の株式プットオプションの売主の地位と同様の地位にあると評価できるとした上で、EBの特質から、EBを購入する一般投資家が自己責任を負う前提として、以下の事項の理解が不可欠であり、これらを具体的に理解できる者以外に販売することは、適合性原則に反し許されないと判示した
 @ 評価日における転換対象株式の時価が、行使価格を下回った場合には額面金額と評価日における転換対象株式の株価の差額分の損失を被ること、A 転換対象株式を購入した場合と異なり、転換対象株式の株価がいかに上昇しても、EBの額面の元本とクーポンを得られるだけであること、B EBのクーポンの大半を占めるプレミアム部分は、転換対象株式のボラティリィティ、行使価格の設定水準、残存期間の長さに応じて設定されていることから、プレミアム部分が大きければ大きいほど、下落株式による償還リスクは高くなること(なお、プレミアムの額が形成される要因については必ずしも正確に理解する必要はない)、 C 購入時から償還時までの間、EBの転換対象株式の価格変動に応じてEBを売却するなどして、損失を回避することができないこと。
 そして判決は、適合性原則違反については、原告代表者個人の過去の取引経験(信用取引もあった)から、理解能力はあったとして、違反を否定したが、EBは原告代表者の投資意向に合致した商品ではなかったといえなくもないとして、このことは証券会社の説明義務を加重する要素となるとした。次いで判決は、説明義務については、証券会社は、上記4つの事項を、EBを購入する一般投資家の能力等に応じて、当該投資家が理解できる程度に説明する義務を負うとし、さらに、原告の投資意向に必ずしも合致しないEBについては、通常の場合より一層慎重かつ丁寧な説明が必要であったとした上で、本件では上記@は説明があったが、A〜Cは説明がなかったと判示した。また、パンフレットや目論見書の交付は認定されたものの、口頭説明がなければ上記各事項は理解できないとされ、結局、上記A〜Cの事項を理解できていなければ、EBに内在する危険性を真に理解したことにはならないとして、説明義務違反が認められた。(日経平均リンク債についても、基本的な特質はEBと異ならないとして、同様の理由で説明義務違反が認められた。)
 なお、本件のEBには、行政処分の対象となったものが含まれており、これについて判決は、原告が購入の申し込みをして購入に至るまでの間、対象株式の株価が行使価格を下回る状況にあったから、購入時の対象株式の時価と設定された行使価格との関係についての説明義務違反があり、この点も違法となるとした。
 損害については、一連のEB等の取引による損益が通算され、償還後保有したままの株券については、株券償還時点の株価を損害から控除すべきであるとの証券会社の主張が排斥されて、口頭弁論終結時の時価が算定の基準とされた
 大阪地裁平成15年11月4日判決に次ぐ株価連動債(EB)の勝訴判決であり、同判決と同じく、単に「株価が幾らに下がれば株で償還される」といった説明では足らず、商品構造に根ざしたリスクの程度をも理解させなければならないとした点や、さらに進んで日経平均リンク債について同様の説明義務を肯定した点において、重要な判決であると言える。