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解    説

■判  決: 東京地裁平成15年4月21日判決

●商  品: 株式
●業  者: 野村証券
●違法要素: 説明義務違反、その他(推奨の合理的欠如)
●認容金額: 600万円
●過失相殺: 8割
●掲 載 誌: 金融商事判例1189・51頁
●審級関係: 東京高裁平成15年11月12日判決により控訴棄却、確定

 事案は、被告証券会社と取引を行っていた会社経営者たる原告が、同証券会社の課長らから、同社部長の承諾の下に、未上場企業が増資のため発行する新株(第三者割当)の勧誘を受け、これを購入(引受)したが、発行企業は次の決算期には事実上倒産状態となり、株式も無価値となったというものである。
 判決は、本件勧誘当時、既に発行企業の財務状態は悪化しており、同社の増資に応じることには相当高いリスクがあったとした。そして判決は、被告証券会社の社員には、「日本最大手の証券会社の幹部社員として、証券取引の分野で専門的な知識とともに絶大な信用を有しているのであるから、そのような特別の立場にある者が顧客に対して積極的に投資を勧めるときには、これを信頼して投資に応じようとする者がその利害得失を検討することができるように、必要な資料を提供するとともに、自らも事前に資料を検討して、自らの経験と知識とを前提とした適切なアドバイスをなすべき条理上の義務があるというべきである」と判示した上で、被告証券会社課長は、発行企業の財務状況が必ずしも良好なものでないことを認識しており、容易に関係資料を見ることもできたから、事前にこれらを検討して適切なアドバイスをなすべきであったのに、漠然と当該発行企業に成長性があるなどと判断して、積極的に原告に連絡をとり、将来上場すれば相当の利益が見込めると説明するなどしたとして、同課長の不法行為責任、被告証券会社の使用者責任を認めた。また、上司たる部長についても、原告に自ら直接働きかけたかことを認定するに足る証拠はないとされながらも、その認識内容や、課長が原告に上記増資に関して紹介を行うことにつき承諾を与えたことなどから、不法行為責任が肯定された。(過失相殺8割)
 なお、被告証券会社からは、原告から、「必要な情報は発行企業から直接入手し、自らの判断と責任で取引を行う」旨が記載された覚書を徴していることを根拠に、被告らに責任はないとの反論がなされていたが、判決は、かかる覚書が準備、作成された経緯等から、「被告らの免罪符になるものではない」として、被告らの反論を排斥している。
 実質において合理的根拠の法理に基づく責任を肯定したものと言える点で、注目すべき判決である。