東京地裁 平成30年10月19日判決
- 商品
- 東証マザーズ上場株式等
- 業者
- 岡三証券株式会社
- 違法要素
- 説明義務違反
- 認容金額
- 168万8906円
- 過失相殺
- 5割
- 掲載誌
- セレクト56・44
- 審級関係
- 控訴審で和解
事案は、東証一部上場株式、東証マザーズ上場株式及びジャスダック上場株式の現物取引並びに投資信託取引を行った顧客が、一連の取引において適合性原則違反や説明義務違反、過当取引の違法行為があったとして、損害賠償請求を行ったものである。
判決の認定によれば、顧客(取引当時87歳男性)は、高等小学校卒業後、町工場工員として勤務し、その後定年退職し、取引時は無職で年金収入で生活していた。顧客は、酷い難聴で、アルツハイマー病の初期の可能性があると診断されていた。以前に岡三証券で投資信託を中心とする取引経験があった。
顧客は、平成27年4月、15万円を落としてしまったので、その損失を取り戻したということで、現金500万円を持参して岡三証券との取引を再開し、平成27年4月から平成28年3月にかけて上記の現物取引や投資信託取引を行った。
かかる事案につき、判決は、まず、最高裁平成17年7月14日判決の規範を示したうえで、顧客属性については「自らの資産を証券取引に用いるか否かの判断能力に関して相当程度問題を抱えていたのみならず、難聴のため、その判断能力の前提となる情報を聞き取る能力も不十分であった」などと判示したものの、リスクが小さいことや仕組みが単純であることなどを理由に適合性原則違反を否定した。すなわち、本件取引のうち、東証一部上場株式については東京証券取引所が定める厳しい審査基準を満たした比較的信頼性の高い銘柄であったことを理由に否定した。ETFについては比較的リスクの小さい商品であることを理由に否定した。また、東証マザーズ上場株式とジャスダック上場株式については上場基準が緩やかで株価の値動きの幅が大きいという特有のリスクがあるとしながらも、先物取引等と異なり単純な仕組みであることなどを理由に否定した。投資信託(新興国株式等を投資対象とするもの)についてもある程度リスクを伴うものとしながらも、先物取引等と異なり単純な仕組みであることなどを理由に否定した。
一方で、判決は、説明義務違反については、一部の商品について認めた。
まず、判決は、「証券会社の担当者が、一般投資家である顧客に対して金融商品取引を販売するに当たって行うべき説明は、顧客の知識、経験、財産の状況及び当該金融商品の販売に係る契約を締結する目的に照らして、当該顧客に理解されるために必要な方法及び程度によるものでなければならず、このような説明義務を尽くさずにされた勧誘行為は、不法行為上も違法となると解するのが相当である。」とし、高齢顧客への勧誘による販売に係るガイドラインにも触れた上で、「商品を問わず、高齢者が抱える理解力の低下等の問題や、電話による説明に限界があることなどの問題は存在し得るし、勧誘留意商品以外の商品であっても、そのリスク等には一定の幅があると解されるから、当該高齢顧客の状況にも応じて、どの程度の説明が必要であったかを個別具体的に判断すべきである」と判示した。
そのうえで、東証マザーズ上場株式とジャスダック上場株式については、いずれも外務員による5分程度の電話での勧誘により行われているところ、ガイドラインがあること、顧客は自らの資産を証券取引に用いるか否かの判断能力に相当程度問題を抱えており、高度の難聴を患っていたこと、外務員は難聴を認識していたこと、勧誘に対して相槌を打つ程度の顧客の対応状況を踏まえると疑念を差し挟む余地があったこと、電話で勧誘する場合は適切に説明を行う必要があったこと等から、説明義務違反を認めた。しかし、東証一部上場株式とETFについては特段大きなリスクを伴うものではないことなどを理由に、投資信託(国内外の複数資産に分散投資を行うもの)についてはリスクは存在するが対面で説明しており確認書に署名押印していることを理由に、投資信託(インド中型株式)については親族が説明を受けていることを理由にそれぞれ説明義務違反を否定した。
過当取引については、個人の取引として通常想定される範囲を超えるものであるとはいえないとして否定した。
過失相殺は5割であった。
本件は、顧客が判断能力に相当程度問題を抱えていた事案である。にかもかかわらず、適合性原則違反を否定し、5割という大きな過失相殺をした点には疑問が残る。しかし、高齢顧客への勧誘による販売に係るガイドラインにも触れたうえで、高齢者の抱える理解力の低下や、電話による説明の限界を指摘し、当該顧客の状況にも応じて、どの程度の説明が必要であったかを個別具体的に判断すべきと判示した点は、他の高齢顧客事案の参考となり、意義のある判決である。また、電話録音で、顧客が相槌を打つ程度で、時間も5分と短かったことが明らかになった。この録音が説明義務違反肯定の重要な理由の一つとなっている。電話録音を証拠化することの重要性を再認識させられる判決である。