神戸地裁 平成30年9月10日判決
- 商品
- 株式、投資信託
- 業者
- 岡三証券
- 違法要素
- 適合性原則違反、過当取引
- 認容金額
- 252万4673円、414万4894円
- 過失相殺
- 2割(夫)、4割(妻)
- 掲載誌
- セレクト56・1頁
- 審級関係
- 確定
事案は、高齢の夫婦が国内現物株式を中心に取引を勧められた結果、夫が半年あまりの間に約587万円の損害を、妻が約2年の間に約245万円の損害を被ったというものである。取引当時、夫は88~89歳、妻は84~89歳であった。
まず、判決は、夫は取引経験があり、本件取引が開始されたのもその意向を受けてのものであると認定しつつも、基本的には金融商品を中長期的に保有する意向であること、記憶力や取引管理能力に減退が見られたこと、担当者もそのことを把握していたこと、夫は売買をやめたい旨の意思を繰り返し明確に示していたことをそれぞれ認定したうえで、「被告としては、同月2日以降、夫の上記意向に変化がない限り新規の買付勧誘を差し控えるべきであったのに、同日以降にされた勧誘及び取引の内容をみると、同月17日に買い付けた日経レバレッジETFを同月29日に全部売るという短期売買や、ボラティリティの大きい日本通信株及びワイヤレスゲート株の多額の買付けを含むものであって、金融商品取引(殊に短期売買)を望まない夫の投資意向に真っ向から反するものであったというべきである。」と判示して適合性原則違反を認めた。
次に、判決は、夫は能力の減退などを背景として担当者を信用してその提案を甘受していたこと、担当者は取引における銘柄、売買時期及び数量の決定について終始主導的立場にあったこと、担当者は夫の短期的記憶力や取引管理能力が十分でないこと等を認識していたこと、それにもかかわらず、売買回転率が1年当たり16.32回と高く、その手数料額は売買損失及び手数料の合計額の45.2%に及ぶ額であり、その取引内容は、夫から取引を止めたいとの意向が示された日以後においても、多額の短期売買やボラティリティの高い銘柄の多額の買付けを含むものであったことをそれぞれ認定したうえで、本件取引は「夫の能力及び投資意向並びにその取引銘柄に照らした場合、回数及び金額において社会的相当性を著しく逸脱した過当な取引に当たり、全体として違法というべき」と判示した。
さらに、判決は、妻は確たる方針はなく、損をせず利益を得られる取引であればよいという程度の漠とした考えのもと、担当者からの提案に対し大部分は「分からない」「任せます」「分からないから任せます」などと言って受け身の姿勢による取引方法を採っていたこと、それにもかかわらず、本件取引では買付銘柄が約30種類と多く、売買回転率が1年当たり4.99回とやや高く、その手数料額は申告資産の20%以上で、手数料及び売買損失との合計額の46.3%に相当する多額に及んでおり、被告は、妻が被告からの取引提案に依存してこれに概ね追従する態度であったことに乗じ、妻の利益に配慮せずに多数回の取引を主導して行わせたというべきであることをそれぞれ認定し、本件取引は「妻の年齢及び投資意向並びに取引銘柄に照らした場合、回数及び金額において社会的相当性を著しく逸脱した過当な取引に当たり、全体として違法というべき」と判示した。
本判決は、一定の資産及び証券取引について一定の知識・経験がある顧客との関係でも、消極的な投資意向を重視して適合性原則違反を認めた点で有意義なものである。
また、高齢顧客は記憶力や取引管理能力の衰えという問題を抱え、消極的な投資意向を有したり、担当者の勧誘に追従したりする場合が多い。本判決は高齢顧客のこのような実態を的確に捉え、適合性原則違反及び過当取引の判断において十分に考慮したものである。過失相殺の割合(夫2割、妻4割)については疑問が残るが、本判決の判示は高齢顧客の取引が問題となっている他の事案でも大いに参考になるものとして有意義である。