広島高裁岡山支部 令和6年9月26日判決

商品
仕組債
業者
大和証券
違法要素
適合性原則違反
認容金額
1770万円
過失相殺
3割
掲載誌
セレクト62
審級関係
3割

1.事案の概要及び原判決の内容

控訴人の認知機能が低下し、外務員がそれを十分に認識し得たのに、仕組債を次々と勧誘した事案である。

控訴人は昭和16年生まれであり、平成23年に軽度認知機能障害、平成24年に高度アルツハイマー型認知症と診断された。令和元年に後見開始の裁判が確定した。被控訴人の担当者は平成25年から仕組債を勧誘し(当時控訴人72歳)、平成27年までの間に合計9本の仕組債を購入させた。そのうち平成26年9月~平成27年1月に勧誘した3本に損失が発生した。損失の合計は約2500万円である。

損失が発生した仕組債は2種類あった。一つは、日経平均株価及びブラジルレアルの為替レートを参照し、大きい方の下落率の2倍の割合で元本が毀損されるもの(複数指数・2倍連動債)で、もう一つは、米国銘柄の株価三つを参照し、もっとも大きい下落率の株式への転換が強制されるもの(3銘柄参照EB債)である。一審での請求原因は前者による損失のみであったが、控訴審では後者による損失にも拡張された。

原判決は上記仕組債について次のように評価して、適合性原則違反も説明義務違反も否定した。

  • 損失の上限は限定されているからリスクは限定されている。その一方で高い利息を期待できる。
  • 仕組み自体は比較的単純であり、平易な言葉で説明を受けるなどすれば理解困難ではない。

2.本判決の内容

仕組債の特性についての評価を変更して、適合性原則違反一本で違法性を認めた。一般人でも理解困難な仕組債を、認知機能が低下した控訴人が十分に理解したとは到底考えがたいというのが核心部分である。

(1)判決の認定した商品特性は以下である。

ア 複数指数・2倍連動債

前記前提事実(4)イ、ウ及び(5)イ、ウのとおり、本件仕組債1、2は、日経平均株価を参照株価指数、レアル・レートを参照為替とし、期間5年とする、期限前償還条項付・デジタルクーポン型株価指数・為替リンク債(ノックイン、株価指数・為替参照型)で、5年間の期間中に一度でもノックインした場合、償還評価日に、日経平均株価又はレアル・レートが当初価格未満であれば、当初価格からの下落率が高い方の下落率の2倍の下落率で償還され、売買する流通市場が十分に整備されていないため、売却することができない、または購入時の価格を大きく下回る価格での売却となるおそれがあり、株価指数変動リスク・為替変動リスク・元本毀損リスク・流動性リスクを有するものである。

具体的には、日経平均株価とレアル・レートを参照するため、どちらかが一度でもノックイン基準価格(当初価格の約60%)以下となった場合はノックインが生じることとなっており、そのような場合、日経平均株価及びレアル・レートがいずれも当初価格以上に回復することは容易ではないから、元本毀損の危険性が高い。期限前償還になればノックインを回避できるとはいえ、いずれも参照価格(当初価格)以上でなければ期限前償還にならないから、期限前償還によるノックイン回避の可能性も極めて限定的である。しかも、新興国通貨であるブラジルレアルの為替変動リスクは大きく、元本毀損リスクを高めることとなる。

また、期間は5年間と長期であるところ、その間に経済状況が変化し、参照指数・参照為替が下落しても、流通市場が十分に整備されていないため、途中売却して投資元本を回収したり、損失額を確定したりすることが困難であるし、途中売却できたとしても購入時の価格を大きく下回る価格でしか売却できない。

他方で、利金は、参照指数・参照為替のいずれもが利率基準価格以上であれば11.00%又は9.10%の利率を得られるとはいえ、期限前償還となれば高金利が得られる期間は早期に終わってしまうし、また、参照指数・参照為替のうちの一つでも、利率基準価格未満であれば0.10%の利率しか得られず、長期間高金利を得ることは困難である。

そうすると、本件仕組債1、2のリスクは、株式の現物取引や投資信託取引等に比べ非常に高いものであるが、他方、リターンについては、元本を維持した上で満期まで高金利を取得できる場合は極めて限定的であり、高いリスクに見合うものとはいい難い。

このような本件仕組債1、2に関するリスクとリターンの内容を一般人が一見して理解することは困難であるし、リスクとリターンを判断するためには、5年間もの長期間にわたる日経平均株価及びレアル・レートの動向に関する見通し、それらの変動に応じて取得できる利金、償還額の決定方法を正確に理解しておくことが必要であるが、これまた困難である。この点に関し、「ヒストリカルデータに基づく想定損失」の資料(乙36の3、乙40の3)が被控訴人から交付されているものの、一般人がこれらを一読してリスクを的確に把握できるとは認め難い。

イ 3銘柄参照EB

前記前提事実(3)イ、ウのとおり、仕組債⑥は、3銘柄の外国株式を参照銘柄とし、期間を3年とする、外貨建て・期限前償還条項付・デジタルクーポン型他社株償還可能債(ノックイン、複数株価参照型)で、3年間の期間中に一度でもノックインした場合、償還評価日に、3銘柄の参照銘柄の株価のうち一つでも当初価格未満であれば、参照銘柄のうち最も株価の下落率の大きい銘柄の株式及び(もしあれば)調整金の交付により償還され、売買する流通市場が十分に整備されていないため、売却することができない、または購入時の価格を大きく下回る価格での売却となるおそれがあり、株価変動リスク・為替変動リスク・元本毀損リスク・流動性リスクを有するものである。

具体的には、参照銘柄が全て外国株式であって、国内株式と比較して株価の変動を予測することがより一層困難であり、そのリスクはより大きい。そして、参照銘柄の株式が3銘柄もあって、そのうちの一つが一度でもノックイン基準価格以下となった場合はノックインが生じることになっており、元本毀損の危険性が高い。期限前償還になればノックインを回避できるとはいえ、参照銘柄の価格が全て参照価格以上でなければ期限前償還にならないから、期限前償還によるノックイン回避の可能性も極めて限定的である。また、期間は3年間と比較的長期であるところ、その間に経済状況が変化し、参照銘柄の株価が下落しても、流通市場が十分に整備されていないため、途中売却して投資元本を回収したり、損失額を確定したりすることが困難であるし、途中売却できたとしても購入時の価格を大きく下回る価格でしか売却できない。

他方で、利金は、参照銘柄の株価全てが利率基準価格以上であれば19.70%の利率を得られるとはいえ、期限前償還となれば高金利が得られる期間は早期に終わってしまうし、また、参照銘柄のうちの一つでも、利率基準価格未満であれば0.10%の利率しか得られず、長期間高金利を得ることは困難である。

そうすると、仕組債⑥のリスクは、株式の現物取引や投資信託取引等に比ベ非常に高いものであるが、他方、リターンについては、元本を維持した上で満期まで高金利を取得できる場合は極めて限定的であり、高いリスクに見合うものとはいい難い。

また、リスクとリターンの内容を一見して直ちに理解することは困難であるし、リスクとリターンを判断するためには、3年間もの長期間にわたる外国株式及び為替の動向に関する見通し、それらの変動に応じて取得できる利金、償還額の決定方法を正確に理解しておくことが必要であるが、これまた困難である。この点に関し、「ヒストリカルデータに基づく想定損失」の資料(乙27の3)が被控訴人から交付されているものの、一般人がこれらを一読してリスクを的確に把握できるとは認め難い。

ウ 上記二種の仕組債の特性のまとめ

以上のとおり、本件仕組債1、2及び仕組債⑥は、リスクが高いにもかかわらず、リターンは限定的である上、その商品構造は相当複雑であって、一般人が理解することは困難であるといわざるを得ない。

(2)適合性原則違反を導いた骨子は以下である。

控訴人は、仕組債取引開始当時、それなりに高額な金融資産を有していたが、無職で収入は減少していた状態であり、リスクの高い金融資産に投資することを積極的に望んでいたとまでは認められない。

担当者とのやり取りをみると、控訴人は、仕組債取引とは関係がなく、複雑でもない事柄を理解できていない。このことからすると認知機能は相当程度低下していたというべきである。

商品構造が相当複雑であって、一般人が理解困難な仕組債1、2及び仕組債⑥について、認知機能が低下した控訴人が十分に理解したとは到底考えがたい。現に仕組債の基本的仕組みを理解できていないやり取りがある。

控訴人は、株式の現物取引や投資信託等元本割れのリスクのある金融商品への投資経験はそれなりにあったものの、本件仕組債1、2及び仕組債⑥は、控訴人が過去に投資経験のある金融商品よりもリスクが高く、商品構造も相当複雑で理解困難であるから、上記のような過去の投資経験ゆえに本件仕組債1、2及び仕組債⑥についてもリスクの高さや商品構造を十分理解して購入していたということはできない。

本件仕組債1、2及び仕組債⑥はリスクが高く、商品構造が複雑で理解困難であることなどに照らすと、これらを購入する顧客としては相当高度な投資判断能力が必要となるところ、控訴人の年齢、認知症の程度に加え、その投資経験、投資意向、財産状態等の諸要素を総合的に考慮すると、被控訴人の担当者が控訴人に対し本件仕組債1、2及び仕組債⑥の購入を勧誘したことは適合性原則から著しく逸脱したものであり、当該勧誘によってこれらの取引を行わせたことは、不法行為法上違法となると解するのが相当である。

したがって、説明義務違反の有無及び実質的投資一任業務の違法の有無を検討するまでもなく、被控訴人は控訴人に対し、民法715条に基づく損害賠償責任を負う。

(3)判決は説明義務違反の判断はしていないが、過失相殺の判示において、「上記程度の説明では、控訴人が(中略)各種リスクを具体的に理解できる情報が、十分に提供されたとは認めがたい」とした。判決が認定した事実のうち、リスクを低く見積もる言動は以下である。

  • 「今の株価の水準よりも3つとも上を維持していれば、判定のときにですね、また今回みたいに償還されるんですよ。経過利息、ですから、保有していただいた期間の金利と一緒に元本が返ってくるということなんで、多分、今のマーケット環境からしますと、そうなる可能性は高いと思うんですが、」などとリスクが発生する可能性が低いかのような説明をした。
  • 「ノックインした場合でございますから、ノックインしなければ」「ノックインしなかった場合は関係ありません。」などとノックインの可能性が低いと思わせるような発言を行った。
  • 「今の状況が続けば、恐らく 3か月、6か月、9か月、1年、この3か月単位のところで返ってくる可能性が私は高いんではないかなと思います。」「その可能性が高いとは思っています」とノックインの可能性が低く期限前償還の可能性が高いかのような説明を行った。

3.考察

(1)本判決が述べた商品特性論は次の二点で先例的意義がある。

① 本件仕組債はリスクが高いにもかかわらず、リターンは限定的である上、その商品構造は相当複雑であって、一般人が理解することは困難であると述べた点である。

本件は認知症事案であるが、認知症のみを重視して適合性原則違反を導いたものではない。一般人でも理解困難な仕組債を、認知機能が低下した控訴人が十分に理解したとは到底考えがたいという判示が核心部分である。

あえてこのような判示をした背景には、一般顧客に仕組債を勧誘するのは、基本的には適合性原則違反だという価値判断があるといえる。このような価値判断は、「EB債は(中略)中長期的な資産形成を目指す一般的な顧客ニーズに即した商品としてはふさわしいものとは考えにくい。」(金融庁「資産運用業高度化プログレスレポート2022」)という考え方に合致する。

② リターンがリスクに見合わない点に着目した点である。

金融庁の今日の問題意識に合致する。この着目点は、仕組債の取引コストを金融業者は開示するべきであるという考えにつながる。取引コストの全面的な開示は今日の潮流であるから、本判決は最新の問題意識を反映させたといえる。

(2)本判決は、顧客と担当者との間の電話録音記録に基づいて、詳細な事実認定をした。その手法も意義深い。

すなわち、電話録音記録では、控訴人は担当者と会話が一応成立するような発言をしてはいる。しかし仕組債の取引と現物株の取引を混同しているものがある。ただ「はい。」と言ったり、おうむ返ししたりしているだけのものもある。リスクが大きく、一般人も理解困難な仕組債を、真に理解していたとすればそのような発言はおかしい。控訴人が仕組債を理解していたとはいえない。

判決は、事実の持つこのような説得力をそのまま判決理由とした。

(3)本判決は確定した高裁判例という点でも重要である。商品特性論及び事実認定方法において、仕組債被害事件すべてにおいて参照されるべきである。

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