東京地裁 令和4年3月16日判決

商品
投資信託
業者
大和証券
違法要素
指導助言義務違反
認容金額
6114万6264円
過失相殺
5割
掲載誌
セレクト60掲載予定
審級関係
控訴審で和解

1. 事案の概要

大和証券担当者が、当時78歳の原告に対し、「証券担保ローン」制度を利用した投資スキーム(保有する投資信託を担保にして大和証券から借入を行い、その借入金を原資として投資信託等を購入し、その購入した投資信託等を担保にして更なる借入を行いまた投資信託等を購入し、というように、「借入」と「その借入金を原資とした投資信託等の購入」を繰り返す取引手法。7掛けで借りることを繰り返すので、投入資金の3.3倍の投資ができる。以下本件スキームという)の勧誘を開始し、その後、4年間にわたり反復継続して行い原告が応じ続けたことから、原告が、最大で、11億円を超える借入金を負担し、16億円を超える投資信託等を保有することとなった結果、相場の下落時に、担保となっていた投資信託等の評価額が下落したことを理由として、被告から、当該投資信託等をすべて売却して借入金を返済するよう迫られ、最終的に、合計約3億2826万円の損害を被った。この間に被告に対し支払った借入金利息、投資信託の購入手数料等の合計は、2億3000万円に達する。

2. 争点と結論

(1)主な争点

本件の主たる争点は、以下の3点に関する不法行為法上の違法性である。

  • 原告が78歳~82歳の間に行われた本件スキームの勧誘(利乗せ満玉の勧誘手法)
  • 特にその後半(80歳以降)、証券担保ローン制度の年齢上限80歳に達したので、合同会社を設立させ、借入金とその担保となっている投資信託等を同会社にすべて移管させた上、同会社において、本件スキーム(法人スキーム)を行うことの勧誘
  • 81歳8か月時点で原告が体調不良等を理由に法人スキーム終了を希望したときに、終了させる方向での指導助言を行わず逆に終了を阻止したこと(「今やめると損です、回復を待ちましょう」)

(2)争点の結論

原判決は、①②の違法性(適合性原則違反、説明義務違反、過当取引等)を否定し、③について指導助言義務違反の違法性を肯定した(3(1))。過失相殺5割(3(2))。

(3)損害

1の時点で保有投資信託等の評価額は相当下がっていたが、それでも、その時点で清算すれば、その半年後に実際に本件スキームが破綻して生じた損失よりも1億1129万2584円少ない損失で済んだ。したがって、これが取引による損害額であり、過失相殺5割で、この半分の5564万6264円及び弁護士費用としてその約1割である550万円の合計6114万6264円と遅延損害金の賠償を命じた。

(4)帰結

双方控訴し、控訴審で和解。

3. 判決文

(1)指導助言義務違反

「以上を踏まえると、平成28年1月15日時点においては本件取引による〇〇研究所(原告)の損失が現実化する危険が高まっていたというべきであること、原告は上記危険を適切に認識していたものとはいい難く、そのことをPらは十分に認識していたというべきであること、しかもPらが原告の意向に必ずしも沿わない形で取引を勧誘した結果、〇〇研究所の借入金残高が高水準のまま推移し、これが上記危険の要因の一つであるといえること、原告の上記認識も、Pが原告に対し繰り返しアラームを軽視するような説明を続けた結果であるともいえることからすると、同日時点において、Pらは、原告に対し、投資信託等を売却して借入残高を減少させ、当初の原告の投資意向に沿った本件取引の終了に向けた指導助言をすべき義務があったというべきである(証人Pも、同日時点で〇〇研究所が保有する投資信託等を全て売却しても借入金等を返済することができない事態に至る危険が生じており、本件取引が終了することが相当であったと述べている。)。

しかるに、同日、原告がPらに対して本件取引を終了したい旨を述べたにもかかわらず、Pらは、これを説得して本件取引の終了を妨げ、原告をして本件取引を継続させたものであって、かかるPらの行為は、原告に対する上記指導助言義務に違反するものであるというべきである。

そして、Pら被告担当者を指揮監督する立場にある被告は、その指導助言義務違反につき、これによって原告に生じた損害につき不法行為(民法715条1項)に基づく賠償責任を負うものというべきである。」(137頁~138頁)

(2)過失相殺

「他方で、原告は、投資信託等の取引を継続すると、利益を得ることができる反面、損失を被る危険があることは一般論として十分に認識していたと認めることができ、被告から毎月送付されていた取引残高報告書をみれば、原告は、平成28年1月時点で既に本件取引により相当額の損失を生じており、更に損失が拡大する危険があることを認識することができたものであるといえ、また、通知されたアラームの通知文書に記載された内容についても認識はしていたものといえる。

そして、原告は、その判断能力等に照らせば、Pが述べる相場予測が確実なものではないことを当然理解していたというべきであるから、原告は、平成28年1月15日に本件取引を終了したい旨を述べた際、Pらからこれに反対されたとしても、自身の判断により強固にその方針を主張することで、本件取引を終了することは可能であったといえ、これを行わず、Pらの説得に応じた原告においても、本件取引を継続し、損失を受けたことに関する落ち度があるというべきである。

以上に加え、前記認定した原告の投資に関する判断能力、投資経験、Pらの指導助言義務の違法の程度など本件における諸事情を考慮すると、原告の過失割合を5割として過失相殺をするのが相当である。」(142頁~143頁)

4. 検討

(1)裁判例

指導助言義務違反で不法行為になるとした裁判例として、日経平均オプション取引に関し、①東京地判平成29年5月26日(金商1534号42頁)、②大阪高判平成17年12月21日(セレクト27巻370頁)、株式信用取引に関し、③大阪高判平成20年8月27日(判時2051号61頁)、融資と投資信託取引を組み合わせて投資信託の信用取引となるような取引に関し、④東京地判令和4年3月15日(判例セレクト59巻205頁)、⑤本判決(東京地判令和4年3月16日判例セレクト60巻掲載予定)がある。

①は過当取引でもあるとし、③は適合性原則違反、説明義務違反でもあるとしたが、②④⑤は、指導助言義務違反だけを根拠に不法行為になるとしている。適合性原則違反が不法行為になることがあるとした最判平成17年7月14日において、具体的事案に関し指導助言義務違反の有無を検討すべしとの補足意見があったことが影響を与えている可能性がある。

(2)指導助言義務違反による不法行為について

証券会社は第一種金融商品取引業者であり投資助言業者ではないので、一般には、顧客に対する助言義務があるわけではない。上記裁判例をみると、証券会社に特別に指導助言義務が発生するとしているのは、一定の先行行為がある場合であることがわかる。抽象的に言えば、顧客が大きなリスクを負う状態をつくるのに証券会社が関与した場合に、証券会社には、その後の損失拡大の危険が切迫した時点で、その防止に向けた行為が求められるとしている。たとえば、大きなリスクを負担する可能性がある複雑な取引を多数回、多額に及んで勧誘した場合に、勧誘する側に、顧客に過大なリスクを負担させないように配慮した一定の行為をする指導助言義務が発生し、その義務違反は不法行為になるとしている。

(3)過失相殺について

判決文の記載は、5割もの過失相殺をする根拠となるか、疑問が呈されている。

(4)本判決の意義

本判決は、証券担保ローンと投資信託取引を組み合わせて事実上、投資信託の信用取引を行うことを勧誘して行わせた事案であり、④の判決とともに、この取引手法に対する判断の先例として位置付けられる。また、指導助言義務違反を根拠に不法行為の成立を認めた事例の一つとして意義がある。

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