京都地裁 令和3年8月4日判決

商品
国内株式、外国株式
業者
 
違法要素
取引勧誘が著しく不公正、社会的許容性を欠く、願客の意思決定の自由を不当に侵害、善管注意義務違反
認容金額
68万4566円
過失相殺
なし(0割)
掲載誌
セレクト59
審級関係
控訴審で原審認容額を上回る額で和解成立

原告とその夫は、被告証券会社において、10年以上にわたり、国内株式、外国株式、外国債券などの金融商品取引を行ってきたが、原告の夫が病気になり、その病気が悪化する中、原告は、平成25年5月から平成28年6月にかけて被告従業員らの勧誘を受け、国内株式、外国株式、外国債券などの金融商品取引を行い、そのうち11の取引において合計558万5844円の損失を被った。

判決は、不法行為ないし善管注意義務違反の有無に関し、違法事由を、①広義の適合性原則違反等、②狭義の適合性原則違反、③断定的判断の提供、④説明義務違反、⑤事実上の一任売買の違法性、⑥取引勧誘の態様が社会的許容性を欠くことの6つに整理した上で、11の取引すべてについて①から⑤の違法事由はなかったと判断しつつ、そのうち3つの取引については、次の通り判断し、⑥取引勧誘の態様が社会的許容性を欠く違法事由があることを認めた。

すなわち、判決は、「金融商品取引業者の個々の取引勧誘が著しく不公正なものであって社会的許容性を欠く場合には、不法行為ないし善管注意義務違反に当たる。例えば、個々の取引において、勧誘した顧客がその商品は取引したくない旨の意思を表示したからといって、その後の勧誘が直ちに不法行為ないし善管注意義務違反に当たるとの評価を受けるものはないが、金融商品取引業者の担当者が更に執拗ないし強引な勧誘を継続して取引を断ることを著しく困難にさせるなど、当該勧誘が願客の意思決定の自由を不当に侵害するような場合には、当該勧誘は著しく不公正な方法によるものとして社会的許容性を欠くものと解される。」というものであるとの判断枠組みを示したうえで、本件における取引の勧誘に係る事実関係に照らし、3つの国内株式や外国株式の取引の勧誘が原告の意思決定の自由を不当に侵害する著しく不公正な方法によるものであって社会的許容性を欠くものというべきであると判断した。

勧誘に違法事由があると認められた3つの取引については、執拗ないし強引な勧誘によって原告の意思決定の自由を不当に侵害して取引をさせたというものである以上、そのような取引をしたことについて原告に落ち度はないというべきであるとの理由により過失相殺はされていない。

なお、具体的な勧誘態様は、判決末尾の証券会社従業員と原告との間の通話録音記録の反訳において示されている。

判決は、広義の適合性原則違反が、直ちに不法行為上の注意義務ないし善管注意義務を発生させる根拠となるかは疑問であるとして、広義の適合性原則違反による不法行為の成否の判断を回避し、挙句、そのことも理由にして適合性原則違反を否定している。このような判断手法によると、単に顧客が当該取引について投資不適格者であるかのみに焦点が当たってしまい、当該事案における具体的な勧誘態様に根差した実質的な違法判断がなされない危険や業法ルールと民事ルールの接合が裁判において果たされなくなる危険がある。ゆえに、適合性原則に関する原判決の判断手法は、是認し難い。

他方で、判決が、金融商品取引業者の個々の取引勧誘が著しく不公正なものであって社会的許容性を欠く場合には、不法行為ないし善管注意義務違反に当たるとの判断枠組みを示し、正面から業者の取引勧誘の態様を捕捉した上で、3つの取引について願客の意思決定の自由を不当に侵害していると判断した点、および、過失相殺をしなかった点は極めて高く評価できる(ただし、判決は、広義の適合性原則違反の判断を回避した結果、強引かつ執拗な勧誘という点にフォーカスし過ぎてしまい、他の取引の違法性について実態に即した違法判断をしきれていない点が残念である)。

このような判断枠組みと判断手法は、適合性原則違反や説明義務違反等が極めて形式的な判断により否定された場合であっても、あるいは、取引の規模や頻度が小さい場合であっても、事案の実態、とりわけ、業者の勧誘実態に即した適切かつ柔軟な違法判断を可能にする点で、投資家保護に資する。国内株式取引や外国株式取引に限らず、あらゆる金融商品取引の勧誘について、問題となりうる違法事由であることからしても、当該判断枠組みと判断手法は、先例的意義が大きく、投資家保護法理としての発展が期待されるところである。

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