名古屋地裁 令和3年1月20日判決

商品
株式(信用取引)
業者
東海東京証券
違法要素
過当取引、購入時の助言義務違反、事後の助言・情報提供義務違反
認容金額
2587万1338円
過失相殺
5割
掲載誌
セレクト58
審級関係
確定

事案は、小さな会社の60歳代の経営者(男性)が、平成29年6月〜11月の6ヶ月間に行われた信用取引で約4710万円の損害を被ったことについて、過当取引の違法を理由に不法行為を認め、さらに、担当者の個々の銘柄の取引に関する情報提供義務違反及び指導助言義務違反も認めた事件である。

判決が認定した事実経緯は概ね以下のとおりである。

原告は被告証券会社に約1億1500万円、他社2社に各2000万円台の資金を投資するなど金融資産の殆どを有価証券に投資しており、被告証券会社との間では平成13年頃から、国内株式、外国株式、株式投資信託、仕組債(EB債、日経平均リンク債)等の取引を、また他社とも外国株式、国内株式、株式投信等の取引を行ってきた。平成29年5月末、信用取引の口座を開設。取引は、担当者が架電し銘柄を提案し原告がそれに従って判断するというもので決済も同様である。架電時間は1分から数分で、銘柄の業種・業績等詳細の説明はなく、銘柄の単位と数量を言うものの約定金額や全体の取引規模の説明はなかった。本件信用取引の28銘柄中、新興市場銘柄が19、当時17銘柄が日々公表銘柄に指定(7銘柄が委託証拠金引上措置)、17銘柄中13銘柄は日々公表銘柄中の取引、うち2銘柄は貸株注意銘柄が占めていたが、担当者は、注文内容の確認の際、日々公表銘柄、貸株注意銘柄という単語を発するものの、その意味内容やリスクを説明することはなかった。原告(の妻)は7月初めまでは1日の損益のノートにつけていたが、それ以降は原告らは10月まで取引報告書の確認もせず取引残高報告書も見ておらず、多額の評価損に気が付かなかった。6月中旬に1700万円、6月末時点で2000万円を超える評価損が発生していたが、担当者はそのことを原告らに報告せず、その後も短期多数高額のリスクの大きい売買を繰り返した。10月になり、原告(の妻)が9月末付け取引残高報告書を確認したところ、信用取引の評価損が2870万円余との記載を見て支店に電話し多額の評価損の存在を知るに至った。その後新規建玉はせず、11月下旬、全建玉を決済し約4710万円余の損害を被った。

判決は、一般投資家は証券取引の専門家である証券会社の勧誘、助言指導に依存して取引を行うことが少なくない一方で証券会社は取引頻度や取引金額が多い程手数料等利益が多くなり、そのため顧客を過当な取引に誘う危険が内在していること及び金融商品取引法の規定の趣旨に照らすと、証券会社が取引口座に対して支配を及ぼして顧客の信頼を濫用して顧客の利益を犠牲に手数料稼ぎ等自己の利益を図るために、顧客の意向・知識経験・資産状況等に照らし過当な頻・数量等の取引を行わせた時は、誠実義務に違反する背信的行為にあたり不法行為として違法になるとの過当取引の違法性についての規範を定立した上で、過当性、口座支配性、悪意性(故意)について以下のように検討しその違法性を肯定した。

まず過当性については、本件信用取引の取引回数(新規426回、決済334回、合計760回)、保有期間(日計り約35%、3日以内が約7割)、買付総額(12億円4900万円余)から、短期、多数回、高額の売買が行われたといえること、本件信用取引では新興市場銘柄、日々公表銘柄等の銘柄が大半を占めており、値動きが激しく相場変動幅が大きい銘柄が中心であったこと、本件信用取引前、外国株式やEB債等の経験があるも、信用取引の経験はないこと、1年前の同時期の取引は合計16回で買付総額は1億0900万円であったこと、外国株式やEB債の対象銘柄の株価変動率よりも本件信用取引の銘柄の方が相当大きいこと、「値上がり益期待」から「積極値上がり期待」への投資方針変更も、信用取引を開始するための会社の手続上のもので原告の意向をそのまま表したものではないこと、「無理をしないように」との意向と、日々公表銘柄が大半を占めることとはマッチしない旨をと支店長が法廷で証言していることも考慮すると、信用取引の特徴や原告の資産を考慮しても、原告の意向に照らして、過当な頻度・数量の取引であったとした。

次いで、1回の指値注文以外は全て担当者の提案に基づくもので担当者の主導によって行われたことは明らかで、担当者も原告が担当者の提案や判断に依存しそれを信頼して取引をしていることを十分に認識していたことから口座支配性を肯定した。

そして、悪意性については、担当者は推奨する銘柄についてその業種・業績等の詳細、約定金額や全体としての取引規模、日々公表銘柄の意味・背景事情やリスク等を説明せず、本件信用取引開始後2週間の6月16日で1700万円、6月末時点で2000万円を超える評価損が生じているにもかかわらず、これを報告しないで、短期で多数かつ高額のリスクの大きい売買を繰り返しており、手数料等諸経費が1310万円余と相当高額であること等も踏まえると、手数料稼ぎ等利益を図る意図があったと推認できるとし、過当取引についての不法行為を認定した。

また判決は、情報提供義務違反、指導助言義務違反についても論及し、投資家が投資経験や投資意向等に照らして過当な取引を行おうとする場合、それが投資家の意思に基づくものであったとしても、証券会社は個々の取引に関して十分な情報を提供すべき義務があり、また過当な取引を行わないよう指導助言する義務を負うとした上で、本件担当者は勧める銘柄について、その業種・業績等の詳細、約定金額や全体としての取引規模、日々公表銘柄の意味やリスク等の説明をせず、また保有銘柄の評価損益の報告をしていなかったのであるから、個々の銘柄の取引に関する情報提供義務や指導助言義務を尽くしていないのであり、情報提供義務違反や指導助言義務違反があるとした。

過失相殺については、原告の属性、取引残高報告書に評価損が記載されており評価損を認識する契機は当初から十分にあったこと等から、過失相殺を5割としている。

この判決は、本件取引は原告の投資意向に反し、過度な頻度、数量等の取引であった、また、担当者の主導によって行われたのは明らかであるとして、担当者には手数料稼ぎ等の利益をはかる意図があり、原告の口座に実質的支配を及ぼして原告の利益を犠牲にして取引を行わせたものとして、原告に対する誠実義務に反する背信的行為にあたるとし、過当取引についての不法行為を認めたものである。

さらには、担当者の原告に対する情報提供義務違反及び指導助言義務違反も認めたもので、その点においても先例的意義の大きな判決である。

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