大阪地裁 令和2年1月31日判決

商品
仕組債(日経平均連動債)、株式(信用、外国株)
業者
SMBCフレンド証券(現・SMBC日興証券)
違法要素
適合性原則違反、過当取引
認容金額
1199万5877円/868万3793円
過失相殺
2割~6割
掲載誌
セレクト57
審級関係
双方控訴

事案は、対象となる一連の取引が開始された当時、70歳の母親(高齢)と43歳の長女の女性顧客らが、それぞれ、仕組債、投資信託、外国株、株式信用取引等に関し、適合性原則違反、説明義務違反、過当取引等の不法行為に基づく損害賠償請求を行ったものである。

判決の認定によれば、母親は、高校卒業後、K産業に入社し、3年間事務職で勤務した後、職場結婚して退社し、以後は専業主婦をしていたが、昭和63年5月、亡夫から相続したK産業14万3000株、イオン100株を保有するほか、自宅土地建物も所有していた。上記取引開始当時の収入は、亡夫の遺族年金(年間約180万円)及び上記株式の配当等であり、平成25年当時、約1000万円の預金を保有していたものである。

同じく判決の認定によれば、長女は、上記取引開始当時、ピアノ教室の講師 をしており、当時の収入源は、ピアノ教室の授業料とアルバイト代であり、平成14年6月、亡父親から相続したK産業5万4000株、トヨタ自動車1300株、日本航空1000株を保有していた。また、長女は、母親の近隣に居住して母親宅でピアノ教室を開いていたが、平成22年11月以降は母親宅に同居して仕事を継続していたこと、平成19年8月9日、A職員の質問に対し、中長期投資で配当が入るのが一番と回答したため、運用期間について中長期と属性登録がされたことがそれぞれ、認定されている。

以上の前提の下、判決は、顧客らが主張した請求のうち、母親については、①仕組債につき、適合性原則違反(過失相殺6割)、②株式信用取引につき、適合性原則違反及び過当取引(過失相殺2割)による不法行為、長女については、③仕組債につき、適合性原則違反(過失相殺6割)、④外国株取引につき、過当取引(過失相殺5割)による不法行為をそれぞれ肯定した。

上記①の判示によれば、本件各仕組債の商品特性として、「いずれも満期10年の日経平均株価連動債券であり、償還内容が複雑で、利率低下や元本毀損のリスクを相応に伴う・・中途売却が困難であり、中途売却の場合には元本毀損の可能性があり、満期時償還が米ドル又は豪ドルで行われ、為替リスクも有している。」とした上、原告母親は平成19年11月当時、70歳であり、被告証券会社の特認申請手続に基づくコンプライアンス統括部長の承認なしには勧誘できなかったところ、その手続は、同原告の他社取引経験(株式23年、投信10年)、被告預り資産以外の資産状況(三井住友銀行に5000万の預金)、取引開始動機(仕組債購入の申し出あり)が承認を得やすい方向に誤った情報に基づき行われており、実質的に内規違反と評価することが相当であるとし、また、仕組債取引に被告預り資産約1億円のうち、5214万500円を本件各仕組債に投資しているが、同原告は、配当金や利金を得ることが投資意向に沿うものであることは認められるが、仕組債は高利率ではあるがリスクも高い投資を多額の資金で行うとの積極的な意向を有していたとは認められないとし、被告証券会社の本件各仕組債投資は同原告の投資意向に沿ったものであるとの主張を排斥し、適合性原則違反による不法行為を肯定した。

上記②の判示によれば、株式信用取引の商品特性として、現物取引に比べ、短期間での売買の判断が必要であり、投資リスクの高い取引(保証金以上の損失が発生するリスクや損失が大きくなった場合に追証が必要になるリスク等)であるとした上、本件信用取引開始時、原告母親は70歳を越えており(75歳)、年収も500万未満、無職のため、被告証券会社の課長以上の上席者と顧客との面談及びコンプライアンス統括部長の承認なしには取引を開始できなかったところ、その手続は、その資産の根拠(K産業の創業者の娘)、被告預り資産以外の資産状況(1億円の預貯金)、取引開始動機(保有株式を売却して投資信託を買い付けたが、可能であれば信用取引口座を開設して過去に買い付けた国内株式の信用取引をしたいとの、原告母親の信用取引に対する積極的な姿勢・意向が記載されているが、実際には同原告はB職員からの信用取引勧誘を断っていたが、K産業株の売却代金で購入した投資信託を売却することなく、分配金を得ながら、信用取引により利益を得てK産業株を買い戻す資金を得ることを目的としたB職員からの勧誘に応じて取引が行われた)が承認を得やすい方向に誤った情報に基づき行われており、実質的に内規違反と評価することが相当であるとし、被告証券会社の本件株式信用取引は同原告の積極的な投資意向に沿ったものであるとの主張を排斥し、信用取引を行うことは同原告の投資意向に沿うものとは認めがたいとして、適合性原則違反による不法行為を肯定した。

加えて、過当取引の違法性の3要件を吟味し、取引の過度性につき、年次資金回転率は23.83回、取引差損541万円以上に対し、被告は約816万円の手数料を得ているとし、口座支配性についても、原告母親から銘柄や取引数量、取引時期等を指定して発注したり、B職員の提案を断ったことはなかったとし、悪意性も、被告職員が原告母親の利益を犠牲にして自己の利益を図るために社会相当性を逸脱した過度な取引を行わせたものと評価するのが相当であるとして、いずれの要件も満たしていると認定し、違法性を肯定した。

上記③の判示によれば、被告証券会社においては、平成19年当時から、株式取引経験のない顧客等の間での仕組債取引を禁止していたところ、原告長女は父親から相続した株式を投資信託の買付資金として売却した以降、株式を保有せず、仕組債取引開始時の平成19年8月までに株式取引をした経験はなく、最後の仕組債取引を買い付けた平成20年9月までにも株式取引を行ったことが認められないとして、投資家保護のために定めた内規違反による勧誘が行われたものとした。また、平成19年から20年当時、同原告はピアノ講師とアルバイトによる収入があり、父親から相続した株式売却代金で購入した投資信託約3727万円を有していたものの、その半額以上である2000万円を超える金額でリスクの高い仕組債取引を行うことが、中長期投資により配当が入ってくることを重視していた同原告の取引意向に沿っていたとも認めがたいとして、適合性原則違反による不法行為を肯定した。

上記④の判示によれば、外国株取引につき、適合性原則違反、説明義務違反はいずれも否定したが、過当取引のみ、3要件を吟味し、取引の過度性につき、年次資金回転率は8.48回、1019万9291円の損失に対し、被告の見なし手数料は1061万5675円とし、口座支配性についても、取引は主として被告職員の意向に従って行われていたと認めるのが相当であるとし、悪意性も、被告職員が原告長女の利益を犠牲にして自己の利益を図るために社会相当性を逸脱した過度な取引を行わせたものと評価するのが相当であるとし、いずれの要件も満たしていると認定し、違法性を肯定した。

原告両名の本件各仕組債取引について適合性原則違反のみ肯定し、説明義務違反が否定された点、そのため6割もの過失相殺がされている点には疑問が残るが、原告両名の投資意向との違背や被告証券会社の内規違反を鋭く剔抉し、仕組債や株式信用取引の適合性原則違反につき、強度の違法性を肯定して不法行為の成立を認めている点や過当取引の3要件を検討してその違法性をオーソドックスに認めている点(株式信用取引、外国株取引)は大いに評価できる判決である。

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