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解    説

■判  決: 名古屋地裁平成29年9月15日判決

●商  品: 仕組債(為替連動債)
●業  者: 野村證券
●違法要素: 説明義務違反
●認容金額: 1195万7799円
●過失相殺: 8割
●掲 載 誌: セレクト54・79頁
●審級関係: 控訴

 事案は、会社経営者(但し、本件取引時点では78歳で、長男に社長を譲って会長を務めていた)であった顧客が、平成17〜18年に仕組債を2回購入(これらは売却して利益が生じた)した後、さらに平成18〜19年に2つの仕組債を購入して、平成24年に売却し、損失を被ったというものであった。損失が生じた仕組債は、期限30年の2通貨連動型(米ドルと豪ドル)で、為替レートによって支払率が変わるクーポンが一定の累積額に達すれば早期償還されるが、早期償還されないまま期限を迎えた場合は、発行体の選択で、券面額を予め定められた一定の為替レートで換算した米ドルあるいは豪ドルで償還されるというものであった。また、顧客は、被告証券会社では、国内株式や債券型投資信託の取引を行っていた。
 判決は、適合性原則違反については、顧客の属性や投資経験、経済事情の知識・理解力、収益性重視の意向などから、これを否定した。説明義務違反についても、「金融商品の販売者は、当該顧客の知識、経験、財産の状況を踏まえて、当該顧客が金融商品のリスクを理解するのに必要な情報を、理解できるような方法で説明すべき信義則上の義務を負う」とした上で、本件各仕組債のリスクとして、クーポンがゼロになるリスク、30年拘束のリスク、償還時の元本割れリスク、途中売却時の元本割れリスク、発行体の債務不履行リスクの5つが挙げられるとしつつ、途中売却時の元本割れリスク以外の4つについては説明義務違反はないとした。しかし、判決は、途中売却時の元本割れリスクに関し、以下の判示によって、説明義務違反を肯定した。
 まず、判決は、30年拘束のリスクを根拠に、途中売却が可能かどうか、途中売却によってどの程度の損失リスクを負うかは重要な情報であるとした上で、途中売却時には原則として被告証券会社が買い手となることや被告証券会社の提示額で売買されることは説明されていたと判示した。
 次に判決は、途中売却の損失リスクは、、満期償還時の損失リスクと同じく為替レートの状況で生じ得るものではあるが、両者は質的に異なり、途中売却時には大幅に元本割れすることがあり得ることを、ゼロクーポン債としての価値を前提に指摘した(なお、被告野村證券の説明資料に、ゼロクーポン債に言及して仕組債の価値を示す記載があったことも指摘されている)。そして判決は、本件各仕組債の他のメリットやリスクは説明しやすいものとなっているとした上で、「「為替レートによっては元本割れすることがある」という程度の説明をしただけでは、顧客が途中売却時の元本割れリスクを他のリスクと同レベルのものとして誤解しかねないし、仮に途中売却時の元本割れリスクが顧客の投資姿勢と相容れないものであったとしても、そうしたリスクが顧客が違和感を感じない他のメリットやリスクの中に埋没されてしまい、誤った投資判断をしてしまうことになりかねない」として、途中売却の損失リスクを説明する際には、「その損失リスクが、満期償還時の損失リスクとは質的に異なる大幅な元本割れに繋がることを顧客が理解できるような方法で具体的に説明すべきである」とした。
 その上で判決は、被告証券会社担当社員の説明内容や説明資料の内容を子細に検討し、その説明は、他のリスクについては説明資料を基礎に数値を当てはめながら具体的に説明しているのに、「途中売却時の損失リスクについては、金利、為替の変動の影響等で損失を被ることがあることを説明したという程度であって、途中売却時の損失リスクが、満期償還時の元本割れリスクとは質的に異なる大幅な損失を生じさせるものであることを具体的に説明したとは言い難い」、「このような説明を聞いたとしても、途中売却時の損失リスクが、具体的に説明された他のリスク・メリットの中に埋没してしまって、説明を聞いた顧客が、途中売却時の損失リスクに特段の注意を払うことがなかったとしても当然といえる」とし、さらに、顧客が交付を受けた一般的な説明資料の記載事項(前記のゼロクーポン債に言及した部分)を自ら読んで理解することができたとは直ちに認め難いとし、説明義務違反を肯定した。(なお、被告証券会社からの、具体的に説明できる性質の事柄ではないとの主張に対しても、判決は、「途中売却時の具体的な価格を予め算定することができないとしても、途中売却時の損失リスクの程度が、満期償還時の損失リスクとは質的に異なる大幅な元本割れに繋がることを顧客に理解させることは、説明方法を工夫すれば十分に可能である」と判示している。」)
 過失相殺は高きに失するものの、途中売却時の損失リスクの他のリスクとの質的な相違や、それ故の誤解しやすさ・理解の困難さが正しく把握された上で、かかる途中売却時の損失リスクについての具体的で理解可能な程度の説明が、本件に限らず一般的に必要であることが明示されている点で、画期的な意義を有する判決である。