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解 説 |
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■判 決: 静岡地裁浜松支部平成29年4月24日判決
●商 品: 株式(信用取引)
●業 者: 野村證券
●違法要素: 過当取引
●認容金額: 5785万1559円
●過失相殺: 6割
●掲 載 誌: セレクト53・101頁
●審級関係: 控訴
事案は、歯科医師として歯科医院を開業していた顧客が、平成21年から同23年にかけて行った信用取引によって生じた損失につき、被告証券会社及び2人の担当者(前任者と後任者)に対して損害賠償請求を行ったというものであった。
判決によれば、顧客は、約2億円の金融資産を有しており、もともと投資への興味も経験もなかったが、被告の前任担当者の度重なる訪問勧誘で取引を開始し、当初は外債や投資信託、東証一部上場株の取引を行っていた。ところが、平成20年9月のリーマンショックで評価損が発生した後、平成21年には、上記担当者は顧客に対し、遅かれ早かれリーマンショック前の株価水準に戻るとの見立てを伝えて、数年で資産を倍にしたいとなればリスクの大きい取引をする必要があるとして信用取引を提案し、顧客は、損失が2000万円に達した時点で取引を止めるとの条件(これも上記担当者が提案したものであった)の下で、信用取引を開始することを承諾した。その後、平成22年には2000万円を超える損失が発生したが、顧客から意見を求められた上記担当者は取引を続ける方がよいと思うと述べ、顧客もこれに同意して取引が続けられて、結局は損失が拡大した。上記担当者が転勤した後の後任担当者の下でも、同業種の別銘柄の両建をはじめ多数の取引が行われたが、かえって損失は拡大し、最終的に約1億3000万円の損失が生じた。(以上のほか、判決は、顧客と担当者との個別的なやりとりや取引内容について、子細な認定を行っている。)
以上の前提の下、判決は、適合性原則違反については、信用取引はリスクの高い取引でありその仕組みには特有のものがあるとしつつも、顧客の社会知識や判断能力、取引の仕組みやリスクについての一応の理解、信用取引開始時には積極的な投資意向を有していたことなどから、これを否定し、一任売買としての違法性も否定した。しかし、判決は、以下の判示により、過当取引としての違法性を肯定した。
まず、判決は、「顧客の投資経験、証券取引の知識、投資意向、財産状態等に照らして、銘柄数、取引回数、取引金額、手数料等において社会的相当性を著しく逸脱した過当な取引を行わせたときは、当該行為は不法行為法上違法となる」とした。
そして判決は、顧客は歯科医師として多忙であったことに加え、専門家である担当者に任せておけばよいとの考えの下、信用取引についての説明や説明書の記載に注意を払うことなく信用取引を開始し、勧誘に従って信用取引を継続していたとした上で、具体的な取引の経緯や問題点を個別に指摘し、本件信用取引は、最終の決済取引を除いてすべて担当者の提案によって行われたもので、顧客が自らの意思と判断により積極的に注文や決済を行ったことはなく、提案の合理性やリスクについて顧客が理解し検討した上で承諾を与えていたということもできないとして、取引全体を通じての担当者の主導性を肯定した。また、判決は、顧客は取引期限や手数料等について理解しておらず、取引の合理性について慎重に検討することのないまま担当者の提案を安易に採用していたとし、担当者が、顧客が信用取引に関する知識や理解及び具体的な取引状況の把握が不十分であることを認識しながら、顧客の理解力や判断力を超える取引を繰り返し行わせたことも明らかであると判示した。
さらに判決は、本件信用取引全体で、取引銘柄は約50種類、取引回数は同一銘柄の同一日取引を1回と数えても約30ヶ月間で247回、保有期間5日以内の取引が全体の30%、10日以内の取引が全体の約50%を占め、年次回転率は11.85回と高く、途中からは顧客の約2億円の金融資産の9割以上が本件信用取引に充てられ、損失は1億3466万円余りで、手数料額がその31.2%に達していたことを指摘した。
以上から判決は、本件信用取引は、顧客にとって社会的相当性を著しく逸脱した過当な取引にあたり、全体として違法であるとして、担当者らの共同不法行為責任、被告証券会社の不法行為責任(使用者責任)を認めた(過失相殺6割)。
過失相殺割合は高いものの、医院を開業している歯科医師という表面的な属性だけに囚われることなく、個別取引の経緯や取引全体の数値分析などから、取引の実態や顧客が置かれた状況を正しく理解して、過当取引の違法性が認められた点において、意義のある判決であると言える。