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解    説

■判  決: 神戸地裁姫路支部平成27年4月15日判決

●商  品: 株式(信用取引)
●業  者: その他・・・あかつき証券
●違法要素: 適合性原則違反
●認容金額: 598万2935円
●過失相殺: 3割
●掲 載 誌: セレクト49・247頁
●審級関係: 確定 


 事案は、会社員であった顧客が、従業員持株会を通じて購入し保有していた株式を株券の電子化に伴い証券会社に預託しなければならなくなったことを契機に、平成19年に被告証券会社に口座を開設したところ、平成22年11月に信用取引の勧誘を受けて取引を開始し、頻繁な信用取引によって損失を被ったというものであった。
 判決は、適合性原則違反に関し、まず、信用取引の勧誘自体が適合性に反するかという観点からの検討を加え、顧客にはハイリスクの信用取引を行うための十分な経験や知識があったとは言えないこと、本件信用取引開始時の「お客様カード」には投資目的は短期で積極値上がり益重視としてチェックがなされていたが、口座開設時には投資目的は中長期で投資資産の増大を追求するとしてチェックがなされており、それ以降の取引状況の乏しさからみても当初の投資目的を変更するに至った特段の理由は窺われず、信用取引開始時の記載内容は信用取引を開始する上で必要とされた記載にすぎず、顧客の投資意向はあくまで中長期で投資資産の増大を追求するというものであったとし、信用取引開始時の「お客様カード」における「余裕資金」とのチェックについても、口座開設時には「預貯金」としてチェックされていたことなどから、定年に備えて蓄えていた老後の生活資金というべきもので必ずしも余裕資金と言えるものではなかったと認定した。しかし判決は、顧客の投資意向が元本重視とまでは言えないことや、その学歴や社会経験、現に信用取引の仕組みやリスクについて一応の理解はしていたと認められることなどを理由に、およそ信用取引を自己責任で行う適性を欠き、取引市場から排除すべき者であったとまでは認められないと判示した。
 次に判決は、「信用取引を勧誘すること自体については、適合性の原則に反していたとは認められないものの、さらに、本件信用取引の具体的な取引状況ないし実態を踏まえ、適合性の原則から著しく逸脱して不法行為法上も違法となるか否かについて検討する」として、電話によるやりとりの録音内容を含めて取引の経緯や状況の詳細な検討を行い、「顧客の信用取引に関する理解・知識不足のまま、しかも、取引状況の的確な把握がなされないまま、取引が行われていることは明らかである」とし、本件信用取引においてはすべての取引が被告証券会社担当社員らの提案で行われ顧客が自らの意思と判断で積極的に注文・決済を行ったことはなく、被告証券会社担当社員らの提案を分析・検討した上で注文・決済を行ったことも証拠上窺われないとして、被告証券会社担当社員らは顧客の理解や知識が不足し取引状況の的確な把握ができていないことを認識しながら、繰り返し、顧客の理解力や判断力等を超えるとを行わせたと判示した。そして判決は、本件信用取引の回数は約1年7ヶ月間で144回であり、株式の取引銘柄は22銘柄に上り、保有期間10日間以内の取引が約30パーセントになることや、売買回転率は年10.74回と高率であることなどを認定した上で、「証券取引においては、各取引銘柄の業種・業態・価格変動の状況等に関する情報を入手した上、情報を分析・判断する必要があるが、原告のような乏しい投資経験・証券取引の知識しか有しない個人投資家が、かかる情報を収集・分析・判断をした上で、取引を行うことはそれ自体容易ではない。信用取引には6か月の決済期限のあることや、回転率の高さや取引の頻繁性が必ずしも投資家の不利益であるとは限らないことを考慮しても、上記のように、多数回にわたり、しかも、種々の取引銘柄について、短期間に取引を繰り返すのは、原告にとっては困難であるといわざるを得ない」と指摘し、加えて、手数料額が差損額の約47.69パーセントになることも指摘して、「以上、本件信用取引における具体的な取引状況、取引回数、保有期間、売買回転率、差損合計に占める手数料額の割合等のほか、上記(2)アのとおり、本件信用取引開始時の原告の金融資産は約1000万円であり、およそ余裕資金とはいえない財産状態であることや、原告の投資目的は中長期で投資資産の増大を追求するというものであったことに照らすと、本件信用取引は、原告にとっては明らかに過大な危険を伴うものであり、適合性の原則に反し、全体として違法であり、不法行為であると認めるのが相当である」(原文のまま)と判示した。また、損害については、適合性の原則に反して全体として違法と認められるのであるから、過当取引によって被告証券会社が取得した手数料額に限定すべき理由はないとして、信用取引による差損額全体が損害と認められた(過失相殺3割・なお、顧客が主張していたその余の違法要素(説明義務違反等)は否定されている)。
 適合性原則違反を、単に当該取引を勧誘すること自体の是非(当該顧客が取引市場から排除すべき者であったか否か)という狭い範疇だけで捉えることなく、これとは別に、最高裁平成17年7月14日判決が示した諸要素の総合考慮の観点から、具体的な取引状況や実態を踏まえた上での取引全体としての適合性原則違反が検討され、肯定されている点において、適合性原則に関する適切な理解が示された重要な判決であると言える。