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解    説

■判  決: 福岡地裁平成27年3月20日判決

●商  品: 仕組債(日経平均連動債)、外債
●業  者: みずほ証券
●違法要素: 適合性原則違反、説明義務違反
●認容金額: 158万3255円、650万4846円
●過失相殺: 3割(仕組債)、5割(外債)
●掲 載 誌: セレクト49・475頁
●審級関係: 控訴(外国債のみ・仕組債については双方控訴せず)


 事案は、財団法人の嘱託職員であった男性顧客が、3回にわたる仕組債(日経平均連動債)の取引によって損失を被り、その妻(同法人にアルバイトとして勤務)も、豪ドル建の外国債(スウェーデン輸出信用銀行発行)を購入して約1年後に途中売却を行って損失を被ったというものであった。なお、上記の3つの仕組債のうち最初の2つは、利息、ノックイン条件や期限前償還条件の成就の有無、満期償還額が、日経平均株価だけでなく為替レートをも決定要因として定まるという特性を有しており、最後の1つは米ドル建であった。
 まず、判決は、上記仕組債の商品特性を検討した上で、「本件仕組債を購入するか否かの投資判断においては、日経平均株価及び為替レート(本件仕組債3については日経平均株価のみ)の変動に応じて利率の低下、期限前償還、各ノックイン事由の発生が起こるから、これらの変動を予測した上、さらに為替変動リスク、信用リスク、流動性リスク等も考慮した比較検討が必要となるが、上記の仕組みは相当に複雑であって、得られる利益とリスクの比較検討は容易ではない。特に、本件仕組債1及び2については5.5%、同3については9%という比較的高い利率が目を引くものの、日経平均株価が上昇し、為替レートが円高(注・円安の誤記と思われる)に推移した場合には期限前償還となる可能性が高いから、もしこのような高い利率での利息を受け続けようとすれば、現に原告○○が投資勧誘を受けているように、期限前償還が発生する度に新たな商品を買付け、短期間のうちに上記リスクを多数回負担することとなる。そして、ひとたび日経平均株価が下落し、為替レートが円高に推移すると、期限前償還となる可能性は低いから、投資者は、償還期限までの5年間に利率が低下し、各ノックイン事由が発生し元本欠損が生じるリスクを避けられないこととなる。このように、本件仕組債はいずれも、リスクが高く、得られる利益とリスクとの比較が容易でない複雑な仕組みを有する金融商品であるといえる。」と判示した。
 そして判決は、適合性の問題に関し、顧客らはその学歴、勤務歴、当時の年齢(いずれも購入当時60代)等に照らし相応の社会的経済的知識・理解力を有していたと見られ、以前から株式等の投資を行っており、日経平均株価や為替レートについて一般的な理解は有していたと認められるとしつつ、上記のような複雑な仕組みに対応する能力があるとまでは認められず、過去の仕組債等の金融商品の取引の経験も、主体的に商品選択した形跡がなく、ただ勧誘者の勧めに従っていたと見られるとした上で、「原告らの理解力は、本件仕組債の特性とリスクについて、担当者から一応の説明を受けたとしても、抽象的に利回りが良いとか、元本割れの危険があるという程度の表層的な認識にとどまり、商品の特性とリスクを理解した上で主体的に商品を選択するのではなく、ただ勧誘者に対する信頼感情と利回りの良さに惹かれて商品を選択する程度のものであり、○○(注・証券会社担当社員)も勧誘行為を通じてこのことを十分認識し得たと見ざるを得ず、そうすると、たとえ原告らにおいて余裕資金の運用と述べていたとしても、本件仕組債の購入はその能力に比して過大な危険を伴っていたと認められる。」として、上記仕組債の勧誘につき適合性原則違反による不法行為を肯定した。
 また、判決は、説明義務に関しても、証券会社は、顧客に自己責任の下に適切な投資判断を行わせるために必要な当該金融商品の内容、リスクに関する情報を提供し、これを具体的に理解できる程度に説明する義務を負うとした上で、「とりわけ、一般投資家の心理において、高利の商品を勧誘されて購買意欲を刺激されると、その仕組みやリスクを十分理解できないまま、勧誘者ないしはその使用者である金融機関に対する信頼感から、迎合的に投資する傾向を示すことが少なくない一方、業として勧誘する者の心理として、自己または勤務先の実績を大きくしようとする底意により、購入意欲を示した顧客に対し、これを減退させる要素となるリスク等の説明をおざなりにする傾向を示すことが少なくないから、高利を特色とする商品を勧誘した者は、上記通弊に陥らないよう十分に注意しなければならない。」とし、上記の仕組債の特性と顧客らの理解力に照らし、証券会社は、顧客らに本件仕組債の特徴やリスクを十分に説明して具体的に理解を得させるべき義務を負っていたとした。そして、勧誘時には目論見書やリーフレットが交付されていたとしつつ、「本件仕組債が非常に複雑な仕組みを有することからすれば、一般投資家がこれを一読したとしても、本件仕組債の特徴である期限前償還条項の持つ意味や各ノックイン事由が発生した場合には大幅な元本欠損も生じうること等のリスクを具体的に理解しうるものとはいえない」とし、リーフレットを示すなどして一定の説明は行われたが、利率や満期までの期間が5年であることのほかは概要の説明にとどまっていたとして、説明義務違反が肯定された。
 さらに、判決は、妻が購入した外国債(期限2年)については、理解が難しいものではなく投資判断がさほど困難であるとはいえないとしつつ、その投資資金は居住用マンションの購入資金として約1年後には必要となるもので、証券会社担当社員らはその旨を聞いていたのであるから、満期前の中途換金すなわち売付が避けられず、その場合に為替変動リスク、流動性リスク等が現実化し大幅な元本欠損が生じ、上記マンション購入資金に不足をきたすおそれがある本件外国債は、資金の性質に照らし明らかに適合性を欠いていたとして、適合性原則違反を認めた。加えて、証券会社担当社員らは、上記のおそれを具体的に説明した上で慎重な判断を促すこともなかったとして、説明義務違反も肯定された。
 なお、上記外国債に関しては、消滅時効も争点となったが、判決は、顧客が証券会社からの報告で大まかに損害を予測し得た時点を起算点とすることを否定し、実際に売付金及び利息が顧客の預金口座に振り込まれるまでは損害賠償請求が可能な程度に損害を確実に把握していたとは認められないとして、証券会社の消滅時効の抗弁を否定した。また、外貨で償還されて米ドル建MMFが買い付けられていたこととの関係で損害額も争われたが、判決は、米ドル建てMMFの買付も本件仕組債取引と一連のものであるとして、口頭弁論終結時の為替レートで円に換算した金額を損害と認定した。
 仕組債の難解な特性と一般顧客の理解力の関係や、顧客と業者の心理状況を的確に把握した判断が示されている点、さらには外国債に関して資金使途と途中売却の問題を正しく理解した判断が示されている点において、高く評価すべき判決であると思われる。