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解    説

■判  決: 大阪地裁平成27年3月10日判決

●商  品: 外債、社債
●業  者: その他(ばんせい証券)
●違法要素: 説明義務違反
●認容金額: 521万1039円
●過失相殺: 5割
●掲 載 誌: セレクト49・451頁
●審級関係: 控訴


  事案は、独身女性である顧客が、平成23年に繰り返し勧誘の電話を受けたことを契機に、ブラジル国債及び東京電力債を購入し、平成24年に売却して約474万円の損失を被ったというものであった。なお、顧客は、本件取引の数年前に事故に遭い、判断力や記憶力が低下し、約1年間の休職後に復職して補助的な仕事をしていたが、本件取引以前に定年退職し、本件取引時の収入は、週2日程度の仕事の給与と年金のみとなっていた。
 判決は、まず、ブラジル国債については、価格変動リスク、為替リスク、信用リスク、カントリーリスク、流動性リスクが内在することや、格付けはBBBなどの投資適格であったこと、東京電力債については、価格変動リスク、信用リスク、流動性リスクが内在することや、格付けはBB+などの投資不適格であったことを認定し、これらの仕組みやリスクは一般投資家にとって容易に理解可能であるとした。そして判決は、適合性原則違反に関しては、顧客は堅実な運用を望みながらも利子や配当等の収入を重視する投資意向を有しており、その取引経験、経歴、財産状態等に照らせば、国債や社債のリスクを理解して自主的な判断に基づいて取引を行うだけの知識や理解力が欠けていたとはいえないとし(判断能力や記憶力も相当程度回復していたとされた)、取引原資も別会社の投資信託で運用していた資金や当面使用する予定のない資金であったなどとして、不法行為の成立を否定した。
 しかし、判決は、説明義務違反については、証券会社の担当者は勧誘にあたって、「当該顧客が自主的な判断に基づいて当該取引を行うか否かを判断する前提として、当該顧客の理解力や取引経験等に応じて、当該金融商品の仕組みやリスク等の情報につき、必要かつ相当な範囲で具体的な説明を行うべき義務を負う」とし、本件の事実(国債や社債の仕組みやリスクは容易に理解できることや、説明資料の交付及びこれらに基づく説明と確認書への署名押印など)を外形的形式的に評価すれば、説明と理解があった上で購入が行われたようにもみえるとしつつも、録音されていた電話による勧誘、説明の際のやりとりを子細に検討して、説明義務違反による不法行為の成立を肯定した。
 具体的には、判決は、まず、録音された会話の内容から、顧客の理解力や判断力は相当程度回復していたとはいえ健常時よりは低下していたことを認め、証券会社担当社員も、顧客の理解力が高くなく相手の発言に流されて取引に応じやすいことを認識し又は容易に認識し得たとした。そして判決は、ブラジル国債については、証券会社担当社員の説明は、利回りの良さ等といった目先の利益誘導によって顧客を信用させ、このようなリスクは顕在化することがないかのような印象を与えてその判断を誤らせてしまうものであって、顧客に具体的なリスクを理解させるために必要かつ相当なものではなかったとし、東京電力債についても、投資不適格とされ高いリスクを内在する商品であったのに、利回りの良さを強調するとともに元本が確実に回収できる見込みが高いような印象を与える説明がなされたとして、これも顧客に具体的なリスクを理解させるために必要かつ相当なものではなかったとした(なお、本判決には、判決が問題視した証券会社担当社員の勧誘時の発言内容を列挙した別紙が添付されている)。
 5割の過失相殺には疑問が残るが、国債(外債)や社債の売買による損失につき、その仕組みやリスクは容易に理解できることが前提とされつつ、具体的な勧誘、説明内容の問題性から説明義務違反が認められたことは重要であり、同種事案の救済に関し、先例的意義を持つ判決であると思われる。