[検索フォーム]
解 説 |
---|
■判 決: 大阪地裁平成26年10月31日判決
●商 品: 仕組債(株価連動債)
●業 者: 野村證券
●違法要素: 説明義務違反
●認容金額: 5475万1355円、5475万1355円
●過失相殺: なし
●掲 載 誌: セレクト48・144頁
●審級関係: 控訴事案は、本件取引当時の売上高が約9億円で従業員20名の家具附属金具・建築用金具等の製造販売を目的とする株式会社と、その代表者が、平成19年に、為替系の仕組債(代表者だけが1億円で購入・以下「本件仕組債@」)と株価指数2倍連動債を相次いで購入し、損失を被ったというものであった。なお、株価指数2倍連動債に関しては、まず東証銀行株価指数を対象とした2倍連動債(以下「本件仕組債A」)を株式会社たる顧客が5000万円分を4985万円で購入し、その後これを途中売却して(売却益が生じている)、東証電気・ガス業株価指数を対象とした2倍連動債(以下「本件仕組債B」)を5000万円で購入し、その際、代表者も同じ商品を5000万円で購入していた。また、これらの株価指数2倍連動債は、ノックイン条件や早期償還条件が付されるとともに、利率は対象指数の変動によって変動し、対象指数が15%以上下落すると利率は0になる条件が付されていた。
判決は、顧客の属性や取引経験(代表者は株式や投資信託の経験の他に外債を購入し保有していた)等や、購入後損失が発生した後のやりとり(録音テープが提出された)では顧客は本件仕組債Bについて抗議しているのに本件仕組債@は取り立てて問題にしている様子がうかがわれないことなどを指摘して、本件仕組債@については勧誘の違法性を否定し、本件仕組債ABについても、「その内容がやや複雑であって一般投資家にとって必ずしも容易に理解し得るものであるということはできない上、当該指数の変動如何によっては元本の全額が毀損されるという大きなリスクを負う」としつつも、顧客はその内容及びリスクを十分理解するに足りる能力及び経験を有していたとして、適合性原則違反を否定した。
しかし、本件仕組債ABに関する説明義務違反の点については、判決は、「ノックイン条件を満たした場合に投資家の負う元本毀損リスクは大きなものであり、この点が本件仕組債A及び本件仕組債Bの最も重要な商品特性及びリスクである」とした上で、「投資家に対し少なくともノックイン条件及びノックイン条件が満たされた場合のリスクの内容、程度について十分に理解させるに足りる程度の説明をすべき義務を負う」と判示した。そして判決は、被告証券会社担当社員が、購入後損失が発生した後の顧客とのやりとりにおいて、勧誘時に元本保証と述べていたことを肯定するような発言を行っていたこと、購入後にノックイン条件が満たされた事実を顧客に伝えなかったのに、社内の接触履歴には顧客を訪問してノックインした事実や損失状況を伝えたとの虚偽の記載を行っていたこと、これに対して顧客(代表者)は上記のやりとりにおいて一貫して勧誘時に元本保証と告げられていたことを述べていたこと、担当社員が勧誘時に「ユーロ債のご案内」以外の資料等を持参した事実を裏付ける的確な証拠はないこと、顧客はノックイン条件が付されるなどの本件仕組債ABと同種の金融商品を購入した経験がなかったこと(代表者にはいわゆるブルベア投信の経験はあったが、判決はその商品特性は本件仕組債Bとは基本的に異なると判示している)を併せ考えると、顧客が本件仕組債Aの購入に先立って顧問税理士に相談し、本件仕組債Bの買付約定書にリスクについて十分説明を受け十分に理解した旨のチェックを行っていたことなどをしんしゃくしても、担当社員は、上記の説明義務を果たさず、顧客は元本保証の商品と誤信して購入したと判示して、説明義務違反を認めた。
また、判決は、以上のとおり顧客が元本保証の商品と誤信して購入したことを認めた上で、「本件仕組債Bのノックイン条件及びノックイン条件が満たされた場合のリスクは、その最も重要な商品特性かつリスクであるから、本件仕組債Bの購入に係る契約において、原告○○(注・代表者を指す)には、本件仕組債Bの最も重要な商品特性及びリスクに関する錯誤があり、この錯誤は要素の錯誤に該当する」と判示して、錯誤無効を認めた。
なお、判決は、説明義務違反による不法行為に関して過失相殺を行わず、不法行為による損害賠償請求権と錯誤無効による不当利得返還請求の双方を認めつつ(選択的併合として請求されていた)、不法行為の方が認容額が大きくなる(遅延損害金の起算点及び弁護士費用相当額との関係のため)ことから、不法行為による損害賠償請求を認容した。
仕組債の商品特性に関する判示内容は比較的浅いものにとどまっており、為替系の仕組債に関する請求が排斥された点は大きな問題ではあるが、上記の属性や取引経験を前提としつつも安易な自己責任の強調を行わず、過失相殺なしで説明義務違反による不法行為を認め、さらに錯誤無効も肯定された点においては、極めて重要な判決であると言える。