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解    説

■判  決: 京都地裁平成26年9月25日判決

●商  品: 投資信託(仕組投資信託/ノックイン型投資信託)
●業  者: その他・・・りそな銀行
●違法要素: 適合性原則違反、説明義務違反
●認容金額: 121万8801円
●過失相殺: なし
●掲 載 誌: セレクト48・1頁
●審級関係: 確定


 事案は、いわゆる中国残留孤児である男性顧客が、平成18年に勧誘によって、満期前の定期預金を解約して、「CAきくリスク軽減型ファンド2006−11」との名称の投資信託(いわゆるノックイン型投資信託の一種)を228万円で購入し、5年後の満期償還によって損失を被ったというものである。なお、判決の認定によれば、顧客は、国民生活センターによるADRの申立を行い、仲介委員による解決案が呈示されたが、被告銀行が応じなかったため、本件訴訟が提起されたとのことである。
 判決は、まず、顧客の属性等に関し、顧客は勤務先が倒産してからは無職で年金収入のみとなっており、2000万円程度の金融資産を有していたものの、これらは顧客とその妻に将来何かあっても大丈夫なように貯めてきたもので、元本割れリスクを許容するような意向は有していなかったこと、顧客は日本語教育を受けておらず、日本語の理解能力が不十分で、簡単な日常会話程度は可能でも、複雑な内容については理解や表現が困難であること、日本語の読み書きの能力も不十分で、自分の住所や名前以外はほとんど書くことができず、片仮名や数字は読めるがその他はほとんど読むことができないことを認定した。
 次に判決は、事実経過として、顧客が預金先である被告銀行でATMの操作が分からず困っていたところ、行員に声をかけられ、この行員が顧客の通帳を見て投資信託等の窓口に案内し、勧誘が行われたこと、当該窓口ではパンフレットに基づいて本件商品につき一通りの説明がなされたこと、顧客は、パンフレットの記載内容や説明につき正確な内容をほとんど理解できず、本件商品は預貯金の一種であり、利息が多いという内容であると誤解して購入に至ったこと、顧客は元本割れするのであれば購入しないとの意向を伝えようとしていたこと、申込書等の作成に際しては、顧客は記載されている文字がほとんど読めなかったため、記載内容をほとんど理解できないまま、住所氏名等以外は行員の助言に従って記入を行ったことなどを認定した。他方で、判決は、日経平均株価のオプションが内包されていることや、ノックイン条件、早期償還条件、解約に制限があることなど、本件商品の特性を具体的に指摘した上で、「購入者が適切な投資判断を行うためには、少なくとも上記のような本件商品の特性を理解している必要がある」とした。
 そして判決は、「本件商品は、日経平均株価の動向等によっては、元本を毀損する危険性のある金融商品であり、日経平均株価が本件商品の購入者にとって有利に推移すれば、早期償還あるいは満期償還において一定程度の利益が得られる反面、日経平均株価が購入者にとって不利に推移した場合には、購入者には、相当高率の価額減少率で元本を毀損する危険性がある。」「本件商品の購入者が本件商品を購入するか否か、購入額をいくらにするかなどの本件商品に関する投資判断を的確に行うためには、購入者において、少なくとも、被告の販売担当者の説明を聞き、又はパンフレットなど交付された資料を読むことで、本件商品の上記特性を認識し、理解することができるだけの能力及び日経平均株価の推移や動向をある程度は把握し、理解できるだけの能力が必要であるといえる。」「原告の生活歴、資産状況、取引経験、投資意向、とりわけ、その日本語能力及び経済的知識等に照らすと、原告において、本件商品について、被告の販売担当者の説明を聞き、又はパンフレットなど交付された資料を読むことで、本件商品の上記特性を認識し、理解することができるだけの能力及び日経平均株価の推移や動向をある程度は把握し、理解できるだけの能力があったとはいえない。」と判示して、適合性原則違反による不法行為の成立を認めた。
 さらに判決は、説明義務につき、「顧客に対して投資商品に係る取引を勧誘するに当たっては、顧客の自己責任による取引を可能とするため、取引の内容や顧客の投資取引に関する知識、経験、資力等に応じて、顧客において当該取引に伴う危険性を具体的に理解できるように必要な情報を提供して説明する信義則上の義務を負う」とした上で、「原告においては、本件商品について、被告の販売担当者の説明を聞き、又はパンフレットなど交付された資料を読むことで、本件商品の上記特性を認識し、理解することができるだけの能力及び日経平均株価の推移や動向をある程度は把握し、理解できるだけの能力があったとはいえないことは、明らかである。そして、このような原告の能力等に照らすと、本件商品を原告に勧誘するに当たっては、少なくとも通訳人を介し、また、本件パンフレットに記載された用語について、その正確な内容等を原告にも理解できるように訳するなどした上で、原告が本件商品の上記特性を認識、理解できる程度の説明をすることが必要不可欠であるというべきである。しかしながら、被告の従業員である○○においては、原告に対して、本件商品を説明するに際して、通訳人を介することもせず、本件パンフレットを示しながら、同パンフレットの記載内容に沿って一通りの説明をしたにとどまるのであって、原告が本件商品の上記特性を認識、理解できる程度の説明をしたものとは到底認めることはできないというべきである。」として、説明義務違反による不法行為を認めた。
 以上により判決は、「適合性原則違反及び説明義務違反のどちらとの関係においても、過失相殺を行うべきではない」と判示して被告銀行の過失相殺の主張を排斥し、損害額全額の損害賠償請求を認容した(なお、弁護士費用相当額については、顧客の日本語の不自由さを考慮して約92万円の実損に対し30万円が相当とされた)。但し、慰藉料請求は否定されており、本件の極端な内容に照らせば、この点だけは疑問が残るところである。
 過失相殺が明確に否定されている点もさることながら、銀行による投資信託の勧誘の実情が詳細に明らかにされている点において、重要にして貴重な判決であると言える。