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解    説

■判  決: 横浜地裁平成26年8月26日判決

●商  品: 仕組債(株価連動債)
●業  者: 野村證券
●違法要素: 適合性原則違反、説明義務違反
●認容金額: 2625万1668円、4962万8475円
●過失相殺: 5割
●掲 載 誌: セレクト48・99頁
●審級関係: 

 事案は、高齢で視力に障害を有していた女性顧客と、その子であり本件取引当時は無職であった男性顧客(但し父親死亡後に不動産売却で得た約3億3000万円の資金運用を行っていた・女性顧客の取引代理人となっていた)が、平成19年に日経平均株価指数2倍連動債の取引(1回目は両名が各5000万円で購入、2回目は男性顧客のみが約5470万円で購入)を行い、損失を被ったというものであった。判決の認定によれば、これらの仕組債はいずれもノックイン条件、早期償還条件が付されており、クーポンも株価水準で変わり(デジタルクーポン)、ノックイン条件が満たされた上で償還時に損失が生じる際には、日経平均株価の減少率の2倍の損失が生じる商品であった。また、2回目の仕組債は米ドル建であった。
 まず、判決は、上記仕組債の商品特性につき、そのリターンとリスクを比較した上で、「いわゆるハイリスク・ハイリターンの債券である」とし、さらに、「そのリスクとリターンの内容は計算式を一見して直ちに理解することは困難であり、リスクを採るか否かの判断にあたっては、長期的な日経平均株価の動向に対する一定の見通しを持っていることが求められる」とした。
 他方で、判決は、女性顧客は目が見えないという障害を有する高齢者であり、被告証券会社に提出した「お客様カード」において「安全性と収益性のバランスに配慮したい」としつつ「安全性をより重視したい」との申出をしており、被告証券会社で保有していた金融資産も個人向け国債約200万円にとどまっていたことから、ハイリスクを負う投資意向を有していたとは考え難いとし、さらに、仕組債の取引経験はなく、遅くとも視力障害の認定を受けた時期からは取引を子である男性顧客に事実上委任していたと推認されること、自ら計算式や図表等を見てイメージを持つことができないことに加え、男性顧客が取引代理人として補助したとしてもなおリスクとリターンを分析検討した上で長期的な見通しを持ってリスクの採否を判断することは相当困難であることを指摘し、その投資額が女性顧客の投資原資のほぼ全額に相当することから元本毀損のリスクを負う取引としては著しく過大であるとした。加えて判決は、被告担当社員は、投資の与信の関わるものは本人の意向等を基準とすべきで代理人ではできないというのが被告証券会社の社内規則であるとの立場を前提としながら、上記の女性顧客の事情を容易に認識し又は認識し得たにもかかわらず、あえて仕組債を購入させ、男性顧客が女性顧客の分も購入したい旨申し出た際に女性顧客の投資意向に反している旨を警告したことも、女性顧客の知識や投資原資について確認したこともうかがわれないことを指摘し、以上から、女性顧客に関して適合性原則違反を認めた。(これに対し、男性顧客に関しては、5回にわたる為替系の仕組債をはじめとする取引経験や他社取引の存在、約2億円を超える資産などから、適合性原則違反は否定されている。)
 次に、判決は、説明義務に関し、「証券会社は、条理上又は信義則上、一般投資家である顧客に対して証券投資を勧誘するにあたっては、当該顧客に対し、当該投資の内容並びに当該顧客の投資に関する知識、経験、理解力及び意向等に応じて、その自己責任の下に適切な投資判断を行わせるために必要な当該投資商品の仕組みや危険性等に関する情報を提供し、具体的に理解できる程度に説明を行う義務を負う」とした上で、本件仕組債の特性に照らし、投資判断を行う前提として、「クーポンの支払条件、早期償還条件、ノックイン条件等を理解した上、日経平均株価の変動に応じて償還額・支払額がどのように決定されるかを正確に理解していることが不可欠な金融商品である」とし、とくに男性顧客は投資方針として「安全性と収益性のバランスの配慮」を、女性顧客は「安全性のより重視」をもともと希望していたのであり、被告担当社員は顧客らがノックイン条件付きの債券を買い付けたことがないことを知っていたのであるから、「本件各商品のリスクの内容を具体的に認識させ、適切な判断が可能となるように必要かつ十分な情報を提供してその特性を理解させるためには、単なる数式を抽象的に示すのみではなく、本件各債券の特徴及びリスク、とりわけノックイン条件が成就した場合の満期償還額がどのように決定されるのか、条件次第では元本が毀損し、ゼロになる可能性もあること等を、参考事例に基づき価格・下落率等を例示したり、図示する等して説明すべき義務があったというべきである」と判示した。(なお、例示や図示の点に関しては、現に男性顧客は後日に被告証券会社から交付された計算表によって元本毀損割合の理解が可能になったのであるから、それと同様の措置を講じることは可能であったことが指摘されている。また、このような説明義務は、「本件各商品が低経済成長時代において金融商品としては受取利息が著しく高率であるところ、ノックイン価格が低水準に設定されているため、投資家において、ノックイン条件の成就する蓋然性を過小評価する可能性を否定できず、元本額を維持した上に高利息を取得できるという安易な期待を抱き易い側面があることからも首肯することができる」とされている。)そして判決は、事前の電話による勧誘では上記の理解を得させることは著しく困難であるとし、説明資料についても、「その文言・規定形式に照らすと、一通りの説明を受けたり一読しただけでは具体的なリスク等を理解することは困難であるのに、○○(注・担当社員)において、上記のような具体例に基づく説明を行った形跡はない」として、男性顧客(女性顧客に関しても男性顧客が代理人として説明を受けていた)はノックイン条件が成就した場合の計算方法を理解できていなかったとし、説明義務違反を認めた(なお、買付約定書に記載されたリスクを確認した旨などの記載については、判決は、「買付の成立の段階で作成される形式的な文書にすぎず」として、説明義務違反の判断を妨げるものではないとしている)。