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解    説

■判  決: 横浜地裁平成26年3月19日判決

●商  品: 仕組債(株価連動債)
●業  者: その他(三菱UFJメリルリンチPB証券)
●違法要素: 適合性原則違反、説明義務違反
●認容金額: 2310万円、2310万円
●過失相殺: 3割
●掲 載 誌: セレクト47・227頁
●審級関係: 控訴

 事案は、かつては開業医であったが本件取引当時は無職の夫(最初の仕組債購入時81歳)とその妻(同じく73歳)が、日経平均株価指数がノックイン価格以下に下落し、かつ、償還時の指数が当初の指数より下落していたときは、その下落率の2倍の割合で損失が生じる、いわゆる2倍連動型の仕組債(早期償還条項付き・クーポンも株価によって変動)によって損失を被ったというものであった(但し、初回購入の仕組債は早期償還となり、その償還金を原資に再度購入した仕組債によって損失が生じた)。
 判決は、最高裁平成17年7月14日判決に基づいて適合性原則違反が不法行為となる要件を判示した上で、顧客らの意向につき、上記のとおり高齢で仕事は引退して年金生活を送っていたもので、その投資目的は自分達の老後資金と子供らに財産を残すためであったとし、元本が毀損され自分達の生活を脅かされかねないような事態を回避しつつ、少しでも預貯金より高い利率で利息収入が継続的安定的に得られることを希望していたと認定し、投資経験(他社取引があった)についても、その期間は5年程度で76歳ないし68歳になってから始めたことに鑑み営業担当者に勧められるまま受動的に商品を購入していたとみるのが自然であるとし、仕組債については経験がなく、それまでの取引については元本保証はなくても解約や譲渡等による損失回避が可能で元本全部を失うようなリスクは犯していなかったと判示した。そして判決は、本件仕組債につき、「日経平均が設定時の価格(スポット価格)より1%値上がりするだけで早期償還されるため、長期間に渡って安定的に利息収入を得たいというニーズに応えにくく、その目的を達成するために早期償還→次の仕組債への乗り換えが必要な商品であること(本件において、原告らも初回取引から9か月足らずで早期償還となり、○○(注・担当社員)の勧誘に応じ本件商品を購入しているように、乗り換えに誘導されがちな商品とも言える。)、スポット価格から日経平均終値が一旦57%まで下落すればノックインとなり、元本保証がなくなるところ、償還期間が5年もあり、その間の日経平均の変動予測は容易ではなく、ノックインする可能性も相当高かったと窺われること、一旦ノックインした場合、償還金額は、スポット価格からの下落率にレバレッジ(倍数)2倍で元本毀損が生じること、下落局面になっても、私募債として流通市場もなく、損失回避ができないこと、原告A(注・夫)の金融資産は1億円を超えることはなく、原告B(注・妻)の金融資産も8500万円余と推認されるところ、3000万円の投資金額は、原告Aについては30%以上、原告Bに至っては35%近くを占めており、しかも本件取引は、原告ら夫婦で同一商品同一金額を購入するというもので、世帯として元本毀損のリスクが分散できない状態になっていたことを踏まえると、高齢かつ仕組債を購入したことがなく、従前の投資も受動的であったと認められる原告らが、従前の投資信託等と質的に異なるリスク(5年間のノックインの可能性、リスク2倍により元本を大きく失う可能性)を具体的に理解したとは認めがたい。」とした上で、2回目の仕組債購入であった点については、初回取引は早期償還されたため仕組債のリスクを学ぶ機会になっていないとし、さらに本件仕組債は前記の原告らの投資目的にそぐわないことや集中投資の点を踏まえると、本件勧誘は適合性の原則から明らかに逸脱していたとして、適合性原則違反による不法行為の成立を認めた。(なお、判決は、顧客カードの投資経験や金融資産の記載が顧客ら自らが記載したものであるかどうかに疑問を呈した上で、この点に関する担当社員の供述の不自然さを指摘し、適合性審査が相当いい加減であったことや、担当社員には顧客らの適合性を糊塗すべく誇大化した報告を行う動機もあったことをも指摘している。)
 次に、判決は、以上のとおり本件仕組債は顧客らには適合性を欠いており、本件取引時点においてもそのことが十分に危惧されたと認められるとし、「原告らの自己決定権(自己責任)を担保するため、被告証券には、本件商品を勧誘するにあたって、仕組債である本件商品について、投資信託等と異なり元本償還金額が大きく損なわれる危険性があること、私募債として市場がなく損失回避ができないこと、5年間の間にノックインの可能性があること等について具体的に説明をすべき義務があった」とした。そして、交付された説明資料につき、「上記書面の内容のみでは、仕組債について全く初めての者には、ノックインやクーポン判定価格等の意味内容等本件商品の内容を十分理解することは困難というほかない。」とし、実際にどのような資料をもってどの程度具体的に商品内容の説明が行われたかは必ずしも明らかではなく、担当社員の供述は全体として信用性に乏しいとし、さらに、説明資料の内容は抽象的な株価変動リスクを記載するのみで、具体的に5年間の償還期間の間のノックインの可能性等については何ら触れるところではなく、担当社員がこの点を説明したことを窺わせる証拠もなく、「仮に過去の株価の変動状況を参考に説明等をしていれば、原告らが本件商品の購入を止まった可能性も十分あった」として、説明義務違反を認めた。(なお、顧客らは、被告証券会社を紹介し勧誘にも担当者が同席していたことなどを理由に三菱東京UFJ銀行に対する損害賠償請求も行っていたが、この請求は棄却されている)
 顧客の属性や投資意向を中核とした的確な総合判断によって適合性原則違反が肯定され、過失相殺も3割に止められている点で、参考となる判決であると言える。