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解    説

■判  決: 大阪地裁平成26年2月18日判決

●商  品: 株式等
●業  者: SMBCフレンド証券
●違法要素: 適合性原則違反
●認容金額: 668万9366円
●過失相殺: 5割
●掲 載 誌: セレクト47・63頁
●審級関係: 控訴審で和解


 事案は、夫とともに被告証券会社に口座を開設し、夫を窓口として取引を行っていた女性顧客が、夫死亡後の平成20年11月に、新たな証券会社担当社員から勧誘を受け、保有していた株式をすべて売却した上で、南アフリカランド債を購入したのを皮切りに、外国株式や投資信託、国内株式の購入及び売却を繰り返し、損失を被ったというものであった。判決は、取引の経緯を丁寧に認定した上で、以下のような判示によって適合性原則違反による不法行為を認めた(顧客はこの他にも過当取引や説明義務違反を主張していたが、これらは判断されていない)。
 まず判決は、顧客は夫が死亡するまでは主に国内株式の現物取引をしていたにもかかわらず、担当社員が代わって本件取引を開始した途端に、保有していた株式がすべて売却された上で投資対象が南アフリカランド債や外国株式の売買などへと大幅に変化していること、これらは国内株式とは異なり為替変動リスクを有していることを指摘し、顧客の投資対象は日本国内において比較的情報が得やすく価格の上下も概ね日本国内の情勢を判断すれば足りるものから、担当社員が代わった以降は、米国、香港、南アフリカなど各国の情勢及びそれらの国の通貨と円の為替相場の動向まで判断しなければならないものへと変化し、取引主体に求められるリスク判断の内容が質的に大きく変化したと認められると判示した。
 次に、判決は、顧客の意向に関し、口座開設時の申告内容の上では、主たる投資目的は「利回りを追求するが値上がり益を重視」とされていたものの、これは夫が窓口となって取引を行っていた当時にされたもので、顧客は本件取引直後に、株式取引についてわからないし、株式取引は損が生じることから堅いのにかえたいと思っている旨述べていることからすれば、顧客の取引意向としては、実際は相対的に高いリスクを負ってまで高い利益を得られるような商品を投資対象としたいというものではなかったとした。また、判決は、夫が死亡するまでは夫が窓口となって実質的に投資判断を行っていたのであって、この時期の投資経験をもって即座に顧客が本件取引に適合性を有していたとは認められないとした。
 他方で、判決は、取引の際の会話の録音内容などを根拠に、顧客は担当社員の提案に対し、単に相づちを打って承諾と相手に受けとめられる返事ないし対応をしていたにすぎないのであって、具体的な投資判断ができずにすべてを担当社員の提案に任せていたものとみるのが相当であるとして、本件取引は担当社員による事実上の一任売買であったことを認めた。
 そして判決は、「被告○○(注・担当社員)が原告の担当者となって以降の本件取引は、被告○○の主導の下に行われた一任的なもので、かつ、被告○○が主導した各取引によってそのリスク構造が従来のものから大きく転換させられたものである。また、被告○○の上記一連の勧誘は、同被告が、△△(注・顧客の亡夫)死亡前の取引が△△を窓口とするものであり、必ずしも原告のみの意向や判断に従って行われた取引でないことを十分窺い知ることができたし、また、原告との電話のやりとりを通じて、原告の応答ぶりから原告が本当に取引の内容を理解しているかどうか疑念をもつことが相当であったにもかかわらず、安易にそれまでの原告の取引履歴に依拠し、改めて原告の理解度や取引意向を再確認することをせず、原告が被告○○に取引を事実上一任しているのを奇貨として行われたもので、顧客の証券取引に関する能力、投資姿勢を無視し、財産状態への適切な配慮を欠いたまま行われたものとして、適合性の原則に著しく違反し、社会通念上許容された限度を超えるものとして、不法行為を構成するものというべきである。」とした(過失相殺5割)。
 なお、損害額の認定については、本件取引開始時に顧客が保有していた有価証券の評価額の合計に、取引終了までの入出金額を加除した額の合計とするのが相当であるとされている。