[検索フォーム]
解    説

■判  決: 大阪地裁平成25年11月21日判決

●商  品: 仕組債(日経平均連動債、EB)
●業  者: 岡三証券
●違法要素: 適合性原則違反、説明義務違反
●認容金額: 493万6154円
●過失相殺: 3割
●掲 載 誌: セレクト47・111頁
●審級関係: 控訴審で和解 


 事案は、最初の仕組債を購入した平成18年当時73歳であった一人暮らしの女性顧客が、いずれも仕組債である外貨建日経平均連動デジタル・クーポン債を13回、EBを1回購入し、最初の4回は早期償還されたものの、その余の一連の仕組債取引によって損失を被ったというものであった。
 まず、判決は、「本件各仕組債の内容及び問題点」との表題の下に各仕組債の具体的な商品特性を検討し、「本件各仕組債は、いずれも元本が保証されておらず、しかも株価等の内容によっては、非常に大きな損失を被ることもあり、最大限元本全額の損失まであり得るものであって、重大なリスクの存する商品であるといえる。一方で、本件各仕組債は、株価等の内容によっては、年10パーセント前後の高利率での利息を得ることができるなど、高リターンの側面も有するものといえるが、上記損失の内容は高リターンにより得られる利益に比して大きなものであり、非対称となっているといえる。しかも、本件各仕組債は、株価等の内容に応じて大幅な利率変動リスクや早期償還リスク、為替変動リスク、中途売却が困難であることに伴うリスク等も存するものであって、損得の見極めが極めて困難であり、その購入に際しては、株式や投資信託等に係る専門的知識・経験を十分に備えていることが求められるものといえる」と判示した。
 次に判決は、顧客の属性や投資意向につき、顧客は約20年にわたる株式等の取引経験を有し、投資信託や債券の取引も相当程度行っており、100万円規模の損失を被った取引も複数存在し、セミナーにも頻繁に参加していたもので、株式等の取引についてそのリスクを含め、一定程度の知識・経験を有していたと認定しつつ、自らの判断で銘柄等の取捨選択を行っているというよりは、証券会社の担当者等が勧めた商品を購入する傾向が見受けられるとし、とりわけ被告証券会社における取引を中断した時期があったことやその前後で担当者が替わったことで取引傾向が大きく異なっていることから、顧客は取引内容についてそのリスクを十分に理解し、考慮した上で取引に及んでいるものとは解されないとした。また、判決は、顧客の資産内容についても、姉との共有でマンションを所有していることをはじめ相応の資産を保有していたことを認定しつつ、主として年金収入で生活していたことや老後の蓄えも必要であったことなどを指摘し、以上から、「原告は、必ずしも優良銘柄を保有し続けることを目的として投資していたものということはできず、証券会社の担当者等の勧誘等に応じて安易に高い利益を得られるものと考えて取引に及んでいるものといえるところであるが、とりわけリスクの高い商品について、そのリスク内容を踏まえた上でなお高リターンを求めて購入するといった投資意向を有していたものと認めることはできない」と結論付けた。
 そして判決は、最高裁平成17年7月14日判決が判示した適合性原則違反が不法行為となる要件を等を述べた上で、前記のような顧客の属性、その資産状況や使途の見込み等に照らせば元本を失うことになっても問題がないといえる程度の余裕資金を有していたとまではいえないこと、その投資経験や投資意向も前記のような実質を有するものであったことから、前記のような重大なリスクを有する本件各仕組債の勧誘は、原告の意向と実情に反して、明らかに過大な取引を勧誘するものといえ、適合性原則に反するものとして不法行為を構成するとした。
 また、判決は、各仕組債の勧誘の経緯を子細に検討し、一定程度の説明があったことが伺えるとしつつ、被告証券会社担当者が記載していた接触履歴の内容からはリスクの説明がきちんとなされていた否かは必ずしも明らかではなく疑義が存在するとした上で、担当者が供述する説明内容によってはノックインが生じた場合の元本割れのリスクについての説明がなされたものとは認められず、どの程度の利益を得られるかについて幅があることは理解できても、元本割れの損失を被るおそれがあり、しかもその損失幅が非常に大きなものになるおそれがあることについては全く想定できないような説明内容というほかないとし、さらに、「元本割れのリスクを含めた本件各仕組債のリスクを説明していたとしても、高金利の説明等や上記リスクが現実に発生する可能性は低いと思われる旨の相場観の説明も相まって、かかるリスクの存在やその内容が原告には十分に伝わっていなかった、あるいは、原告が十分にそのリスクの存在、内容を理解していなかったものと認めるのが相当であって、その説明内容は不十分なものであった」として、「原告に本件各仕組債が有する危険性を具体的に理解させる程度の説明であったということは到底できず、説明義務に反するものとして不法行為を構成する」とした。(なお、判決は、上記接触履歴の記載中には、顧客がリスクも十分に理解している旨の記載もあるとしつつ、「同履歴は、被告の担当者が接触(対面、電話等)時の内容を簡潔に記載したものであって、原告自身が現に発言したものとして正確に記載されているかの担保はなく、また、同担当者の主観に係る部分も大きいものといえることからすると、同履歴の記載内容をもって、上記判断が左右されるものとはいえない」との判示も行っている。)
 以上により判決は、未償還の仕組債については口頭弁論終結時に近接する参考時価評価額を基準に損失額を算定し、EBについては購入額と償還された株式の売却価格の差額を損失額とし、早期償還された仕組債の利益や各仕組債の利金を損失額から控除して損害額を算定した上で(但し訴訟の対象とされなかった最初の4回の仕組債の利益や利金は控除されていない)、顧客がEBの購入資金に充てるために解約した個人年金保険の解約手数料をも損害と認めて、3割の過失相殺にて顧客の損害賠償請求を認容した。
 各仕組債の具体的な商品特性、顧客の属性や投資経験及び投資意向、勧誘の経緯や説明内容のいずれにおいても、深く実情に踏み込んだ具体的な検討が行われている点において、安易で表層的な検討や判断のみで顧客を敗訴させる「省力化判決」とは対極にある、実に適切な判決である。