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解    説

■判  決: 大阪地裁平成25年10月21日判決

●商  品: 投資信託
●業  者: その他・・・三井住友銀行
●違法要素: 適合性原則違反
●認容金額: 2055万3576円
●過失相殺: なし
●掲 載 誌: セレクト46・12頁
●審級関係: 控訴審で和解成立(セレクト47・59頁) 


 事案は、高齢の兄妹(購入当時兄は80歳、妹は78歳・兄は訴訟係属中に死亡)が、平成19年に兄が3000万円、妹が6000万円でそれぞれ購入した投資信託(グローバルREITオープン)に関し、適合性原則違反及び説明義務違反を理由として損害賠償請求訴訟を提起したというものであった(妹については平成23年に成年後見開始の裁判がなされており、成年後見人(訴訟提起時は兄)が法定代理人として訴訟提起を行った)。なお、判決の認定によれば、上記投資信託は、世界各国のリート(不動産投資信託証券)を主要な投資対象とするもので、リートの価格変動リスク、為替変動リスクによる基準価額の下落で元本割れが生じる可能性がある商品であった。
 判決は、本件投資信託は元本保証ではなく各種リスクはあるものの投機性の高い商品ではないとした上で、兄については、高齢ではあるものの、従前から投資信託の取引を繰り返してきたことや、一定の収入があり余裕資金を原資としていたこと、本件取引当時も自営業で稼働していたこと、平成23年には妹の成年後見人に指定されたことなどを指摘して、本件取引の内容やリスクを理解する能力は備えていたとし、適合性原則違反及び説明義務違反をいずれも否定した。
 しかし、判決は、妹については、医師の意見書等を根拠に、その症状や診断内容(認知症)、介護状況等に関しての詳細な事実認定を行った上で、「本件取引当時において、本件商品の各種リスクを理解することができる状態にあったとは考え難く、このような状態にある原告○○に本件取引を勧誘したことは、顧客の意向と実情に反して明らかに過大な取引を積極的に勧誘し、適合性原則に著しく逸脱したものというべきである」として、適合性原則違反を肯定した。
 また、判決は、被告銀行からの反論に関し、妹が注文書や確認書を差し入れていた点については、認知症の影響により投資能力や判断能力を欠くが、指示された場所に署名・押印することはできるという状態は容易に想定できるとしてこれを排斥し、妹が「兄に任せます」と述べて兄や担当社員らに指示されたとおりに署名・押印を行って一連の投資信託取引を行っていた点についても、投資信託の内容やリスクはおろか自分が兄に投資信託取引を事実上委ねていることを認識していたかどうかすら疑わしいことからして、兄が妹の取引を主導していたことを殊更重視することはできないとした。さらに、取引当時の被告銀行の記録であるコンタクト履歴には妹が取引に関してしっかりした発言を行っていたことを示す記載があることや、担当社員らには妹が認知症であることを認識し得なかったとの主張については、妹と会話すればすぐに重度の認知症と認識し得たと考えられるところ、担当社員らは妹との会話内容について何ら具体的な指摘ができておらず、コンタクト履歴にも妹の発言内容について虚偽の記載(妹はデイサービスのため外出していたのに兄と担当社員らの面談に妹も同席していた旨の記載が散見されるとされている)があるなどその信用性は乏しいとして、上記記載を重視できないとした。
 なお、原告らは上記投資信託の保有を継続していたため、損害発生の有無が争われたが、判決は、「口頭弁論終結時における評価額と購入代金との差額が発生している場合には、その損害は現実化したと認められる」として、かかる差額を損害と認め、損益相殺として受領済みの分配金を控除した後の額に、約1割の弁護士費用を加えて、過失相殺を行うことなく妹に関する損害賠償請求を認容した。
(本件は、控訴審において、過失相殺なしの前提で、和解金2400万円にて和解が成立している。)