[検索フォーム]
解    説

■判  決: 静岡地裁平成25年5月10日判決

●商  品: 仕組債(株価連動債)
●業  者: 野村證券
●違法要素: 説明義務違反
●認容金額: 5099万0250円
●過失相殺: 7割
●掲 載 誌: セレクト45・48頁
●審級関係: 控訴


 事案は、社会福祉法人である顧客が、勧誘を受けて平成18年5月及び同19年5月に2種類の仕組債を代金各1億円で購入し、いずれも償還時に元本が0となって、最初の仕組債(以下「仕組債1」)については取得したクーポンを通算して約5463万円の損失が、2回目の仕組債(以下「仕組債2」)については1億円全額の損失が生じたというものであった。判決の認定によれば、顧客は、特別養護老人ホームや介護老人保健施設を経営しており、厚生省(当時)の社会福祉法人審査基準や定款の準則に従って制定された定款や経理規程において、資産のうち現金は確実な金融機関への預け入れや確実な信託、確実な有価証券で保管することや、余裕資金の運用は安全確実な方法をもって行うことを定めていた(但し、仕組債1の購入後の平成19年3月には規制緩和が行われ、上記基準において、安全確実な方法で行うことが望ましいとの留保付きで株式や株式投資信託による運用も可能であることが明記されるに至っていた)。また、判決の認定によれば、顧客は平成13年から、2つの会計区分のうちの一方で、余剰金の50%内での株式取引を行っていたが、県の監査で問題を指摘されたため平成16年からは株式の購入をとりやめて投資信託だけを購入することとし、他方で、株式取引が可能と考えられた別の会計において平成15年から株式や投資信託の購入を行い、さらに上記規制緩和に伴って平成19年3月からは2〜2億5000万円を限度として株式や投資信託での運用を行うこととしていた。なお、顧客は、平成18年に不動産売却で2億5000万円の収益を得ており、これが以上の各取引の原資となっていた。
 判決は、まず、EKO債と呼ばれる仕組債1の商品特性につき、「社債の形式を採ってはいるものの、所定のノックイン事由が発生した場合には、参照対象銘柄10株式のうちノックイン事由の発生した各株式1億円分についての価格下落分を合算した合計金額を満期償還日に償還金(元本)から減額するものであり、これを経済的に見れば、一定の条件の下で満期償還日において参照対象銘柄の各株式1億円分の株式をあらかじめ定められた基礎価格で強制的に売りつけられ、その差金決済を償還金からの減額によって行うものであって、プットオプションの売り取引と同様の効果を有するものということができる」とし、複数の参照対象株式がノックインすることにより投資元本すべてを失うことがあること、オーダーメイドの商品で流通性に乏しく途中換価により損失を被るおそれがあること、3年の期限が来れば強制的に償還され株式のように保有し続けるという選択肢もないためその点では株式よりリスクが大きいと言えることを指摘し、加えて、参照対象銘柄が異業種の10株式であることから1株式である場合に比してノックイン事由が発生する可能性が相当程度高まっているとした。また、判決は、トリガー付株価指数リンク債と呼ばれる仕組債2の商品特性についても、経済的に見れば東証銀行株価指数を対象としたプットオプションの売り取引と同様の効果を有することを指摘した上で、同指数がノックインすることで投資元本すべてを失うことがあること、クーポンも同指数の変動で0になる可能性があること、オーダーメイドの商品で流通性に乏しく途中換価により損失を被るおそれがあること、同指数が一定の限度まで上昇すると早期償還され、リスクを軽減する効果がある反面その後の上昇の利益を受けられず、下落した場合においても4年で強制的に償還されるため、上記と同様にその点では株式よりリスクが大きいと言えることを指摘し、加えて、損失に関して同指数の下落率に2倍のレバレッジが掛かっているためリスクが大きくなっており、同指数の過去の推移に照らし、元本毀損の確率が相当程度ある金融商品であるとした。
 そして判決は、適合性原則違反に関しては、以上の商品特性上の問題や顧客が安全確実な投資を志向していたことを指摘しつつも、顧客及び担当理事や他の理事らに株式や投資信託の豊富な経験があり、投資に係る知識も相当程度有していたと推認できることや、顧客の潤沢な財産状態の中で余剰資金の2分の1という限度内で投資運用していたことなどを根拠に、本件各仕組債の販売において顧客を一律に排除すべきであるとはいえないとして、適合性原則違反を否定した。
 しかし、説明義務違反に関しては、判決は、被告証券会社が主張した説明内容をほぼそのまま認定しつつも、仕組債1は高いクーポンがつく反面、元本が毀損する確率が相当程度ある危険なものであったところ、顧客は前記のような資産運用に関する規定を有し、株式購入に関して安全確実な資金運用の方法ではないとして県から指導を受けており、このことを被告証券会社担当社員も顧客側から聞いて知っていたのであるから、担当社員にはリスクを原告に正しく認識させる的確な説明が求められていたとした上で、担当社員が、仕組債1が公益法人向けのものであり、多くの学校が購入し、地方公共団体も購入していると話し、リスクの判断を誤らせるおそれのある発言をしたこと、「参照対象銘柄についての過去の株価の値動きや株の変動の激しさ(ボラティリティ、株価変動率)などを示してノックインが生じ、元本毀損が発生する可能性がどの程度あるかについて原告が理解できるだけの具体的な説明をしていないこと」を指摘し、とくに本件では説明を受けた顧客の担当理事が、損失が出るようなことはなく元本保証とほとんど一緒だとの趣旨の発言をしており、リスクを正しく認識していないことが明らかであったから、過去の値動きを示すなどしてノックインする可能性があり元本保証商品と同視できないことを説明すべきであったのに、この点の注意を促す説明がなされたことを認めるに足りる証拠はないとして、顧客に自己責任で取引するだけの的確な説明をしたということはできず、「原告に対する本件仕組債1のリスクを的確に説明する義務を怠り、原告が本件仕組債1の購入が原告の資金運用のニーズに合致するかどうかを検討する機会を奪ったといえるから、被告担当者には説明義務違反が成立」するとした。また、仕組債2についても、判決は、被告証券会社が主張した説明内容をほぼそのまま認定しつつも、上記と同様にリスクを原告に正しく認識させる的確な説明が求められていたとして、仕組債2についても仕組債1と同様のものとして購入を勧誘していること、「東証銀行株価指数について過去の同指数の変動状況やその変動の激しさなどを示してノックインが生じ、元本毀損が発生する可能性がどの程度あるかについて原告が理解できるだけの具体的な説明をしていないこと」から、上記と同様に説明義務違反を肯定した
 適合性原則違反の否定や高率の過失相殺は極めて不当であるが、顧客の投資意向との関係でリスクの程度の説明をとくに重視し、投資経験が豊富で潤沢な資産の中で余剰資金の2分の1という限度で運用を行っていたとされる法人との関係で説明義務違反が肯定された点においては意義のある判決であり、資産運用に関して本件の顧客と類似した規制や内部規定が存在する学校法人や公益法人等の被害事案においても参考とされるべき判決であると言える。